僕はナイチンゲール

いちみやりょう

文字の大きさ
4 / 56

付き合う

しおりを挟む
洗濯物を洗濯板で丁寧に洗う。
おばさま曰く、洗濯板を使った方が生地が痛まないそうだ。
僕にはそれが本当なのかもよく分からないけど、とにかくこの季節の水は冷たくて手がカチカチになって取れてしまうんじゃないかという恐怖すら感じる。

最近は咲夜さまも部屋を出るようになって、旦那様の会社で働き始めて随分と疲れている様子だった。それでも夜は毎日求められているから僕はまだあの薬を飲み続けていた。

「最近、お前。勝手に濡れてないか?」

咲夜さまが情事の最中にそう言ってきた。
子供を産める体になると言うことは、そこが自然に濡れたりもするんだろう。

「ふ、ぁ……は、ぁ」

だけど僕がいつものように無言だったので咲夜様はやはり舌打ちをして無言で抽挿してきた。
そして、僕の中心に触れて腰の動きと一緒に撫でられた。

「ひ、んぁ……んん」

僕は久しくそこには触れていなくて突然の快感に出そうになった声を腕を噛むことで何とか抑えた。もう片方の手でやんわりとその手を離すように押しても、咲夜様は離してくれなかった。
それどころか、僕の腕を口から離し、両手をひとまとめに掴まれて頭の上で固定された。咲夜さまの長い指なら僕の両手を片手で抑えることは造作もないらしい。

「んぁ……さくやさま。離して……お願いです。ぁぁ」
「いやだ」
「ふ、んん……んぁ、ひ、ぁぁ……ゃぁ、おねが……ゃぁ」
「何が嫌なんだ。言ってみろ」
「ん、んん。ぁ……ふ、ぁ、ゃだ……んんぁ」
「何が嫌か言え。そしたらやめてやるから」
「僕、ぁ、ぃヤダ……僕の声じゃ……さくや、さま、んぁ……嫌でしょ……?」
「……いやじゃない。そんなことを考えていたのか」
「……ぅ、ぁ、ごめんなさい……ごめんなさい」
「なぜ謝る」
「僕じゃ……美香様の代わりにもなれないんだ」

僕がそう言うと咲夜様は僕の体を抱きしめてくれた。

「お前は美香の代わりじゃないよ。俺は伊月のことがちゃんと好きだ」

「ぁ……嘘だ……」
「嘘じゃない」

咲夜さまはそう言うけれど、きっとやっぱり嘘なんだ。

「ぅそ……でしょう? 咲夜様は美香様を……んん」

美香様を好きなくせにと言うつもりだった言葉は咲夜様からのキスによって止められた。

「伊月は俺のことが嫌いか?」
「そんなわけっ」
「なら、俺と付き合え。もちろん結婚を前提にだ」
「そんな……そんなこと旦那様とおばさまが許してくれるはずありません」
「どうして?」
「僕は男で……家柄も何もない、両親すら知らない孤児で、咲夜様のお世話をする使用人です。咲夜様と釣り合うはずもありませんから」

だからこうやって僕の体で心を癒すことに使ってもらえるだけでも、僕にとっては光栄なことだと思わなければいけないんだ。それなのに、咲夜様の心まで求めてしまってはバチが当たる。

「……そうか」
「はい」

僕の髪を優しく撫でて咲夜様が笑った。

「使用人は命令に従うべきだよな」
「ぇ? はい」
「じゃあ、俺と付き合うよな?」

咲夜様からそう言われ、僕の逃げ道はなくなった。

「……咲夜様のお相手が見つかるまでは」

そう言った自分の声はひどくかすれていた。

咲夜様の心が分からない。
本当に好きだった美香様がいなくなってしまって、おかしくなってしまっているのかもしれない。

どうせ、咲夜様のお相手が見つかるまで僕は妊活をするのだし、咲夜さまの言う付き合うと言う行為と何ら変わることはないのだろう。
だけれど、付き合ったりなんかして一回でも咲夜様の心が手に入ったのだという気持ちになってしまえば、それを取り上げられた時どれほど寂しくなるのだろう。

だから勘違いしてはいけない。
咲夜さまは誰に対してもお優しいのだから。
それが、どう間違っても僕にだけ特別な気持ちを持つことなどありえないのだと、肝に命じなければいけないんだ。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

記憶の代償

槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」 ーダウト。 彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。 そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。 だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。 昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。 いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。 こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です

好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo
BL
君に愛されたくて苦しかった。目が合うと、そっぽを向かれて辛かった。 結婚した2人がすれ違う話。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

処理中です...