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看病
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それから毎日咲夜様は僕の居る小屋に通って来た。
あの日以来乱暴はしないで、体を拭いて服を着替えさせてご飯を食べさせてくれる。
僕の体はすぐには良くならなくて1ヶ月はそんな生活が続いた。
お粥だった食事はおじやになり、うどんになり、鶏肉や野菜がたくさん入ったスープになった。
でも咲夜様が運んでくる食事はどれも味がついていなかった。
僕の体はすっかり熱は引いて元気と言えるほどになったと思う。
「少しは肉も付いて来たか」
「……はい。ぁの、ありがとうございました」
「ああ」
僕がお礼を言うと僕の二の腕を摘みながら確認をしていた咲夜様は気まずげに微笑んだ。
「すまなかったな。お前がこんなに痩せ細ってるとは知らなかったんだ」
「……いえ。お仕事で忙しく過ごされていると聞いています。僕のことなどどうか気にしないでください」
「いや。これからはお前が食事を抜かれることのないように俺から梨乃に言っておこう」
その言葉を聞いてガンと頭を殴られたような衝撃が走った。
「だ、ダメです! お願いです。梨乃様には言わないでください……。咲夜様からそのようなことを言われたら梨乃様はきっと」
もっとひどいことになると喉元まで出かかって何とか耐えた。
仮にも咲夜様は梨乃様の婚約者なのだから悪口のようなことは言いたくなかった。
咲夜様はしばらく無言だったけど、しばらくして分かったと言ってくれた。
「だが、この間のあの男とはもう話すなよ。食事は俺が毎晩持ってくるから」
「……はい」
「なぁ、分かってくれ。俺はお前が大事なんだ。梨乃のことはちゃんと決着をつけて、お前一人を妻に出来るようにするから」
何を。と思う。ちゃんと決着をつけるって何ですか。もう梨乃様とも体の関係にまで発展していて、それなのに今度は梨乃様を見捨てて僕だけを妻にするなんて、そんな勝手なことを僕は望んでなんかいないのに。だけれど僕は咲夜様に逆らうのが怖くてただ返事をするしかできなかった。
咲夜様は部屋へ帰る時間になって食べ終わった食器を持って帰っていった。
1人になればあの時のことを思い出す。銀次さんは僕が咲夜様にキスをされているのを見て青い顔をしていた。
引かれたのかな。嫌われたのかも。男同士とか気持ち悪いと思われたかも。
そもそも銀次さんはこの間はたまたまあの道を通っていただけだ。
だから、話すなと言われなくても銀次さんはもうここには来てくれないだろう。
僕の頭を撫でたあの優しくて大きな手を思い出して少し寂しくなった。
次の日僕は久しぶりに起き上がれて小屋を出て外の空気を吸った。
久々の外は気持ち良くて伸びをした。
シャワーを浴びたい。
まだ明け方で使用人用のシャワーを使ってる人は居ないだろうと、僕は着替えを持って本邸に向かった。
「伊月、あなたまだこの家に居たの? それに……何ですかその汚らしい格好は」
早朝だと言うのにおばさまが庭でお茶をされていて見つかってしまった。
「あ、あの、おばさま。おはようございます。少し体調を崩していたのでお風呂に入っていなくて。今からシャワーを使わせていただきに」
「え? 何を言っているの? 使用人のシャワーはあなたは使ってはいけませんよ」
「えっ。で、では、どこのものを使用すれば……」
「そんな事は知りません。少しは自分で考えなさい。ですがその汚い格好のままなら本邸には入らせませんよ」
ピシャリと言われて僕は絶望した。
使用人用のシャワーを使えないなら銭湯に行けばいいかもしれないが、外出禁止を言い渡されている僕ではそれもかなわない。そもそもお金を持っていないから銭湯にも行けないのだけど。
僕は諦めてトボトボと小屋に戻った。
花に水をやってから水道まで戻って蛇口をひねる。
意を決して頭から水をかぶるとヒヤリとして不快に感じたのは一瞬であとは頭皮に水が当たる感触が心地よく感じた。久々に頭を洗えて気持ちがいい。
僕は周りを見渡して服も脱いで体も洗った。
あの日以来乱暴はしないで、体を拭いて服を着替えさせてご飯を食べさせてくれる。
僕の体はすぐには良くならなくて1ヶ月はそんな生活が続いた。
お粥だった食事はおじやになり、うどんになり、鶏肉や野菜がたくさん入ったスープになった。
でも咲夜様が運んでくる食事はどれも味がついていなかった。
僕の体はすっかり熱は引いて元気と言えるほどになったと思う。
「少しは肉も付いて来たか」
「……はい。ぁの、ありがとうございました」
「ああ」
僕がお礼を言うと僕の二の腕を摘みながら確認をしていた咲夜様は気まずげに微笑んだ。
「すまなかったな。お前がこんなに痩せ細ってるとは知らなかったんだ」
「……いえ。お仕事で忙しく過ごされていると聞いています。僕のことなどどうか気にしないでください」
「いや。これからはお前が食事を抜かれることのないように俺から梨乃に言っておこう」
その言葉を聞いてガンと頭を殴られたような衝撃が走った。
「だ、ダメです! お願いです。梨乃様には言わないでください……。咲夜様からそのようなことを言われたら梨乃様はきっと」
もっとひどいことになると喉元まで出かかって何とか耐えた。
仮にも咲夜様は梨乃様の婚約者なのだから悪口のようなことは言いたくなかった。
咲夜様はしばらく無言だったけど、しばらくして分かったと言ってくれた。
「だが、この間のあの男とはもう話すなよ。食事は俺が毎晩持ってくるから」
「……はい」
「なぁ、分かってくれ。俺はお前が大事なんだ。梨乃のことはちゃんと決着をつけて、お前一人を妻に出来るようにするから」
何を。と思う。ちゃんと決着をつけるって何ですか。もう梨乃様とも体の関係にまで発展していて、それなのに今度は梨乃様を見捨てて僕だけを妻にするなんて、そんな勝手なことを僕は望んでなんかいないのに。だけれど僕は咲夜様に逆らうのが怖くてただ返事をするしかできなかった。
咲夜様は部屋へ帰る時間になって食べ終わった食器を持って帰っていった。
1人になればあの時のことを思い出す。銀次さんは僕が咲夜様にキスをされているのを見て青い顔をしていた。
引かれたのかな。嫌われたのかも。男同士とか気持ち悪いと思われたかも。
そもそも銀次さんはこの間はたまたまあの道を通っていただけだ。
だから、話すなと言われなくても銀次さんはもうここには来てくれないだろう。
僕の頭を撫でたあの優しくて大きな手を思い出して少し寂しくなった。
次の日僕は久しぶりに起き上がれて小屋を出て外の空気を吸った。
久々の外は気持ち良くて伸びをした。
シャワーを浴びたい。
まだ明け方で使用人用のシャワーを使ってる人は居ないだろうと、僕は着替えを持って本邸に向かった。
「伊月、あなたまだこの家に居たの? それに……何ですかその汚らしい格好は」
早朝だと言うのにおばさまが庭でお茶をされていて見つかってしまった。
「あ、あの、おばさま。おはようございます。少し体調を崩していたのでお風呂に入っていなくて。今からシャワーを使わせていただきに」
「え? 何を言っているの? 使用人のシャワーはあなたは使ってはいけませんよ」
「えっ。で、では、どこのものを使用すれば……」
「そんな事は知りません。少しは自分で考えなさい。ですがその汚い格好のままなら本邸には入らせませんよ」
ピシャリと言われて僕は絶望した。
使用人用のシャワーを使えないなら銭湯に行けばいいかもしれないが、外出禁止を言い渡されている僕ではそれもかなわない。そもそもお金を持っていないから銭湯にも行けないのだけど。
僕は諦めてトボトボと小屋に戻った。
花に水をやってから水道まで戻って蛇口をひねる。
意を決して頭から水をかぶるとヒヤリとして不快に感じたのは一瞬であとは頭皮に水が当たる感触が心地よく感じた。久々に頭を洗えて気持ちがいい。
僕は周りを見渡して服も脱いで体も洗った。
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