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使用人
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どこかも分からない場所を息も絶え絶えにしばらく走っていたけど、足も鉛のように重くなって動かなくなった。
でも間違いなく、産まれてから今までの中で黒崎家の屋敷から一番遠いとこにいる。
僕の中には妙な高揚感と清々しさが駆け巡っていた。
水の流れる音がして重たい脚を引きずってそこに近づくと綺麗な川が流れていた。
僕は出来る限り急いで近づいて直接顔をつけてその水を飲んだ。
おいしい……。
水がこんなに美味しいだなんて知らなかった。
僕はそのまま服を脱いでそこで水浴びをした。
咲夜様に監禁されてからまともに水浴びもしていない。
頭から水に浸かると気持ちよかった。
水から上がって河原に腰を下ろすと空には満点の星が広がっていた。
今まで必死で走っていたので気がつかなかった。
美味しい水を飲んで、体も洗って、まるで生まれ変わったような最高の気分だ。
服が着られるくらい体を自然乾燥させてから服を着てまた歩き始めた。
寝る間も惜しんで歩いていると、今いる場所の下の方に無数の明かりがある場所があった。
街……なのかな?
僕は行く場所も決まっていないのでそっちの方に向かって歩くことにした。
明かりを頼りに歩いて、空も白み始めても歩き続けてやっとチラホラと建物が出て来た。
「や……った」
そう言った自分の声はやけに掠れていてグラリと視界が反転した。
目が覚めると真っ白な天井にクリーム色のカーテンが目に入った。
「目が覚めましたか?」
白い服の女性が心配そうに僕を覗き込んでいた。
ここって病院ってやつ?
僕、始めて来たなぁ、病院。
だけどこれってお金が必要な場所だ。
僕が来ちゃいけない場所だ。
……どうしよう。
女性は先生を呼んで来ますねとニッコリ笑って去っていった。
しばらくすると廊下の方から男の人の声とさっきの女性の声が聞こえてきた。
その声はそのまま僕のいるところまで近づいて来て僕を覗き込んだ。
「伊月くん、目が覚めたって? 大丈夫かい」
「えっ……ぎん、じさん?」
何で?
僕を覗き込んだ白衣の男性は銀次さんだった。
銀次さんは僕を安心させるような優しい笑顔で僕を見ている。
「俺はここで医者をしているんだよ。ごめんね……。君が辛い目に合っているのに助けてあげられなかった」
「あ……えっと。いえ」
僕が戸惑いつつそう返すと銀次さんは僕の頭を撫でてくれた。
「体調はどうかな? 具合悪いとか、どこか痛いところがあるとかない?」
「はい、元気です。あの……、僕、すみません。お金を持ってないんです。だから退院させてもらえませんか。もちろん、今かかってるお金は必ず返します。すぐにとは言えませんが、でもなるべく早く」
「まぁまぁ落ち着いて、伊月くん。治療費は俺が払っておいたから」
「そんなっ。いくらですか……?」
「気にしないで。これは君を助け出せなかった俺の罪滅ぼしとして受け取ってくれたらいいから」
「だめです。銀次さんに罪滅ぼしされるようなことは何も! 銀次さんが僕を助ける筋合いなんてないじゃないですか!」
そう言うと、銀次さんは目を見開いた。
「君の現状をある程度把握していた。俺には君を助けられるだけの力があった。なのにそれをしなかった。君は俺を恨んでも良い立場だと思うよ」
「そんなの、おかしいと思います。助けられる状況の人全員助けてたらキリがない……。僕は銀次さんがそう思ってくれていたってだけで嬉しいです。ありがとうございます」
そう言うと銀次さんは悲しそうな顔で笑った。
それから僕は簡単に監禁されていたことと、そこから逃げてきたということを説明した。
「……じゃあ、退院したら職の斡旋をするよ」
「えっ。本当ですか!? ありがとうございます!!」
そんなこんなで入院中もとても良くしてくれて、あっという間に僕の退院の日になった。
退院した足で、銀次さんが斡旋してくれると言う家に向かった。
何でも使用人の仕事で、家事ができればそれで良いらしい。
雇い主の方がそこまでのタクシー代も出してくれたらしくて僕はタクシーに乗ってその家に向かった。
着いた家はかなり大きくてお金持ちって感じの建物だった。
まぁ使用人を雇おうって言うんだから、そりゃあ金持ちだろうけど。
銀次さんから鍵も預かっていたので僕はその鍵を使って中に入った。
でも間違いなく、産まれてから今までの中で黒崎家の屋敷から一番遠いとこにいる。
僕の中には妙な高揚感と清々しさが駆け巡っていた。
水の流れる音がして重たい脚を引きずってそこに近づくと綺麗な川が流れていた。
僕は出来る限り急いで近づいて直接顔をつけてその水を飲んだ。
おいしい……。
水がこんなに美味しいだなんて知らなかった。
僕はそのまま服を脱いでそこで水浴びをした。
咲夜様に監禁されてからまともに水浴びもしていない。
頭から水に浸かると気持ちよかった。
水から上がって河原に腰を下ろすと空には満点の星が広がっていた。
今まで必死で走っていたので気がつかなかった。
美味しい水を飲んで、体も洗って、まるで生まれ変わったような最高の気分だ。
服が着られるくらい体を自然乾燥させてから服を着てまた歩き始めた。
寝る間も惜しんで歩いていると、今いる場所の下の方に無数の明かりがある場所があった。
街……なのかな?
僕は行く場所も決まっていないのでそっちの方に向かって歩くことにした。
明かりを頼りに歩いて、空も白み始めても歩き続けてやっとチラホラと建物が出て来た。
「や……った」
そう言った自分の声はやけに掠れていてグラリと視界が反転した。
目が覚めると真っ白な天井にクリーム色のカーテンが目に入った。
「目が覚めましたか?」
白い服の女性が心配そうに僕を覗き込んでいた。
ここって病院ってやつ?
僕、始めて来たなぁ、病院。
だけどこれってお金が必要な場所だ。
僕が来ちゃいけない場所だ。
……どうしよう。
女性は先生を呼んで来ますねとニッコリ笑って去っていった。
しばらくすると廊下の方から男の人の声とさっきの女性の声が聞こえてきた。
その声はそのまま僕のいるところまで近づいて来て僕を覗き込んだ。
「伊月くん、目が覚めたって? 大丈夫かい」
「えっ……ぎん、じさん?」
何で?
僕を覗き込んだ白衣の男性は銀次さんだった。
銀次さんは僕を安心させるような優しい笑顔で僕を見ている。
「俺はここで医者をしているんだよ。ごめんね……。君が辛い目に合っているのに助けてあげられなかった」
「あ……えっと。いえ」
僕が戸惑いつつそう返すと銀次さんは僕の頭を撫でてくれた。
「体調はどうかな? 具合悪いとか、どこか痛いところがあるとかない?」
「はい、元気です。あの……、僕、すみません。お金を持ってないんです。だから退院させてもらえませんか。もちろん、今かかってるお金は必ず返します。すぐにとは言えませんが、でもなるべく早く」
「まぁまぁ落ち着いて、伊月くん。治療費は俺が払っておいたから」
「そんなっ。いくらですか……?」
「気にしないで。これは君を助け出せなかった俺の罪滅ぼしとして受け取ってくれたらいいから」
「だめです。銀次さんに罪滅ぼしされるようなことは何も! 銀次さんが僕を助ける筋合いなんてないじゃないですか!」
そう言うと、銀次さんは目を見開いた。
「君の現状をある程度把握していた。俺には君を助けられるだけの力があった。なのにそれをしなかった。君は俺を恨んでも良い立場だと思うよ」
「そんなの、おかしいと思います。助けられる状況の人全員助けてたらキリがない……。僕は銀次さんがそう思ってくれていたってだけで嬉しいです。ありがとうございます」
そう言うと銀次さんは悲しそうな顔で笑った。
それから僕は簡単に監禁されていたことと、そこから逃げてきたということを説明した。
「……じゃあ、退院したら職の斡旋をするよ」
「えっ。本当ですか!? ありがとうございます!!」
そんなこんなで入院中もとても良くしてくれて、あっという間に僕の退院の日になった。
退院した足で、銀次さんが斡旋してくれると言う家に向かった。
何でも使用人の仕事で、家事ができればそれで良いらしい。
雇い主の方がそこまでのタクシー代も出してくれたらしくて僕はタクシーに乗ってその家に向かった。
着いた家はかなり大きくてお金持ちって感じの建物だった。
まぁ使用人を雇おうって言うんだから、そりゃあ金持ちだろうけど。
銀次さんから鍵も預かっていたので僕はその鍵を使って中に入った。
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