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銀次の過去
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銀次さんはいつも優しくて僕を気遣ってくれて、好きになったらダメだと只野さんが教えてくれたのに、僕の心は言うことを聞かずに呆気なく銀次さんを好きになってしまった。
朝、銀次さんが出勤した後ゴミ出しに出ると、また只野さんと遭遇した。
「只野さん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
只野さんはあれからもちょくちょく飲みに来ていて、その度に僕も一緒にご飯を食べているので会えば話す仲になった。
只野さんは家で仕事をすることが多いらしく、週に一度のハウスキーパーを雇っているだけで後は自分でしているらしい。なのでゴミ出しの時もたまに会う。
「お茶でも飲みに来ないか?」
「え?」
「紅茶を貰ったんだ。急ぐ家事がなければどうだ」
「あ、えっと。いいんですか?」
「ああ」
そうして只野さんの家に初めてお呼ばれした。
中は銀次さんの家とそう変わらない作りでダイニングを抜けてテラスに案内された。
カフェみたいな机と椅子があって、只野さんは待ってろと戻っていってしまった。
しばらくしてお盆にカップとガラスみたいなティーポットと苺のタルトを乗せて只野さんが戻って来た。
「ほら」
「あ、ありがとうございます」
紅茶も、苺のタルトも僕が口にしたことがないような美味しさだった。
最後の一口を食べるのが寂しいような気持ちになりながら食べ終わると、只野さんが紅茶のおかわりを注いでくれた。
「ありがとうございます」
「……ああ」
銀次さんがいないとうまく会話ができなくて、僕は無言の間を埋めるように紅茶を口にした。
「君は……、最近銀次を好きになりかけてるんじゃないか?」
ビクッと背中から突然冷や水をかけられたみたいに背筋が伸びた。
これじゃ、そうですと言っているようなものだ。
「あ、あの。好きと伝えたりはしません。僕は銀次さんの迷惑になるようなことはしたくないんです。ただ、好きだと思う気持ちは消せないんです……。消す努力はしますからどうかあそこに居させてもらえませんか」
「いや……。居させるもなにも、君を雇っているのは私じゃないから君を追い出す権利はないよ。ただ、あいつは誰のことも好きにならないから、君が辛い思いをするんじゃないかと思っただけだ」
只野さんに最初に飲みに来た時に言われたようなことを、また言われてしまった。
「それって、銀次さんが司さんのことが好きだからですか?」
「っ! どうしてその名を?」
只野さんは眉をあげてびっくりした顔をした。
「銀次さんが寝言で、つかさ、つかさって言っていたんです」
「……そうか」
それから只野さんは、本人の居ないところでこの話をするのは良くないと思うが、と前置きをしてから、それでも僕が銀次さんを諦めるきっかけになるかもしれないと、銀次さんの昔の話をしてくれた。
銀次さんには小さい頃から幼なじみがいて、それが司さんだった。
2人はいつも仲良くしていてお互いを好き合っていた。
でも、銀次さんの家は名のある旧家で、司さんは隣の家に引き取られた使用人だった。
2人が愛を育むのを周りの大人は反対し、妨害した。
それらの悪意は全て司さんに向けられた。
当時、中学生だった銀次さんの力ではどうすることも出来ず、次第に司さんは病んでいった。
それでも銀次さんと居ると司さんは明るかったから、銀次さんは司さんが限界だと気づけなかった。
結果的に、司さんは中学1年生という若さで自ら命を経った。
「司は良い奴だった。医者になってたくさんの人を救いたいと言っていた。夢を叶えることがかなわなくなった司の意思を引き継いで、佐渡は医者になった」
只野さんは静かに語った。
「そう、だったんですか」
「あいつは学生のうちは体を壊すんじゃないかと思うくらい勉強に明け暮れて、成人して医者になった後は、酒に依存した。今はだいぶ落ち着いてる方だな」
勉強に依存して、お酒に依存して、そして、どれだけ司さんを想っても司さんは帰ってこない。
銀次さんのやるせない想いを思うと心臓がギュッと掴まれたように苦しくなった。
只野さんに銀次さんの過去を教えてもらって正解だったかもしれない。
だって、そんな深い愛に僕の入る余地などないと、期待を抱く前に気づけたのだから。
朝、銀次さんが出勤した後ゴミ出しに出ると、また只野さんと遭遇した。
「只野さん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
只野さんはあれからもちょくちょく飲みに来ていて、その度に僕も一緒にご飯を食べているので会えば話す仲になった。
只野さんは家で仕事をすることが多いらしく、週に一度のハウスキーパーを雇っているだけで後は自分でしているらしい。なのでゴミ出しの時もたまに会う。
「お茶でも飲みに来ないか?」
「え?」
「紅茶を貰ったんだ。急ぐ家事がなければどうだ」
「あ、えっと。いいんですか?」
「ああ」
そうして只野さんの家に初めてお呼ばれした。
中は銀次さんの家とそう変わらない作りでダイニングを抜けてテラスに案内された。
カフェみたいな机と椅子があって、只野さんは待ってろと戻っていってしまった。
しばらくしてお盆にカップとガラスみたいなティーポットと苺のタルトを乗せて只野さんが戻って来た。
「ほら」
「あ、ありがとうございます」
紅茶も、苺のタルトも僕が口にしたことがないような美味しさだった。
最後の一口を食べるのが寂しいような気持ちになりながら食べ終わると、只野さんが紅茶のおかわりを注いでくれた。
「ありがとうございます」
「……ああ」
銀次さんがいないとうまく会話ができなくて、僕は無言の間を埋めるように紅茶を口にした。
「君は……、最近銀次を好きになりかけてるんじゃないか?」
ビクッと背中から突然冷や水をかけられたみたいに背筋が伸びた。
これじゃ、そうですと言っているようなものだ。
「あ、あの。好きと伝えたりはしません。僕は銀次さんの迷惑になるようなことはしたくないんです。ただ、好きだと思う気持ちは消せないんです……。消す努力はしますからどうかあそこに居させてもらえませんか」
「いや……。居させるもなにも、君を雇っているのは私じゃないから君を追い出す権利はないよ。ただ、あいつは誰のことも好きにならないから、君が辛い思いをするんじゃないかと思っただけだ」
只野さんに最初に飲みに来た時に言われたようなことを、また言われてしまった。
「それって、銀次さんが司さんのことが好きだからですか?」
「っ! どうしてその名を?」
只野さんは眉をあげてびっくりした顔をした。
「銀次さんが寝言で、つかさ、つかさって言っていたんです」
「……そうか」
それから只野さんは、本人の居ないところでこの話をするのは良くないと思うが、と前置きをしてから、それでも僕が銀次さんを諦めるきっかけになるかもしれないと、銀次さんの昔の話をしてくれた。
銀次さんには小さい頃から幼なじみがいて、それが司さんだった。
2人はいつも仲良くしていてお互いを好き合っていた。
でも、銀次さんの家は名のある旧家で、司さんは隣の家に引き取られた使用人だった。
2人が愛を育むのを周りの大人は反対し、妨害した。
それらの悪意は全て司さんに向けられた。
当時、中学生だった銀次さんの力ではどうすることも出来ず、次第に司さんは病んでいった。
それでも銀次さんと居ると司さんは明るかったから、銀次さんは司さんが限界だと気づけなかった。
結果的に、司さんは中学1年生という若さで自ら命を経った。
「司は良い奴だった。医者になってたくさんの人を救いたいと言っていた。夢を叶えることがかなわなくなった司の意思を引き継いで、佐渡は医者になった」
只野さんは静かに語った。
「そう、だったんですか」
「あいつは学生のうちは体を壊すんじゃないかと思うくらい勉強に明け暮れて、成人して医者になった後は、酒に依存した。今はだいぶ落ち着いてる方だな」
勉強に依存して、お酒に依存して、そして、どれだけ司さんを想っても司さんは帰ってこない。
銀次さんのやるせない想いを思うと心臓がギュッと掴まれたように苦しくなった。
只野さんに銀次さんの過去を教えてもらって正解だったかもしれない。
だって、そんな深い愛に僕の入る余地などないと、期待を抱く前に気づけたのだから。
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