僕はナイチンゲール

いちみやりょう

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銀次さんから見た司さん

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只野さんは寝てもやはりまだ疲れているのか、ご飯を食べて早々に帰っていった。
僕が皿を洗っている間にソファに移動して日本酒を飲んでいた銀次さんの横に座った。

付き合うことになったのなら、僕の体のことを伝えておかないといけない。
それを伝えるのはかなり勇気がいるけど、銀次さんならきっと受け入れてくれると思った。

「銀次さんは、子供は好きですか?」
「んー? まぁ、どちらかと言ったら好きかなぁ」

その言葉に安心した。

「じゃ、じゃあもしも子供ができたらっ」
「あー、伊月くんが言っているのは自分の子供についての話か。大丈夫だよ。俺は自分の子供は欲しくないんだ。子供は育てるとなったら大変だし、人の子を見てるだけで十分だよ」
「あ、そ、そうなんですね」
「伊月くんは自分の子供が欲しいの?」
「あ、いえ、僕も、僕も銀次さんと同じです」
「そっか」

銀次さんはゆったりとした動作で日本酒を注ぎ足して呑んだ。
ワインを呑んでいそうな見た目なのに、日本酒とかビールとかを普通に飲んでいる銀次さんが、なんだか庶民的で好きだ。

「司さんって、どんな人だったんですか?」
「司を知っているんだ?」
「あ……えっと」

踏み込みすぎだと分かっているのに、さっきの音声が頭から離れず、聞いてしまった。
怒って答えてくれないかもしれない。俺の大事な過去を探るなと拒絶されるかもしれない。
だけど、そんなことはなく、銀次さんは優しい顔をして教えてくれた。

「司はね、とにかく優しい子だったよ。人が見ていても見ていなくても、誰かのためを思って行動して、まるで物語の主人公のような子だった……。小学校のマラソン大会で俺は司と賭けをしたんだ。勝ったほうが、負けたほうに1つお願いできるという景品つきでね」
「お願い……」

「ああ。司は自分が勝ったら司の母親の居場所を俺の父親から聞き出してくれって頼もうとしていた……そんなこと、頼んでくれれば賭けなんてしなくてもするのにね。だけど、それじゃあ借りが出来たみたいで嫌だったみたい」

銀次さんは懐かしむように、ふふと笑った。

「でもね、途中まで俺よりだいぶ前を走っていた司は、転んで泣いている生徒を保健室に運ぶために途中棄権していたんだ」
「えっ」
「そんなことは教師に任せてもいいのにね。司はそうせずに教師に声をかけて連れていってあげたらしい」
「優しいですね」
「ああ。本当に」

銀次さんは困った顔でけれど愛おしくて仕方がないというような笑い方をした。

ーーああ、銀次さんの心にはやっぱりまだ司さんだけがいるんだ

僕のことも好きになってもらうにはどうしたらいいんだろう。
銀次さんは僕の全てが好きだと言った。

だけどそれは裏を返せば僕に興味がないってことと同じだと思った。

銀次さんは僕のことは好きでも嫌いでもないんだろう。
いや、僕以外のことも。司さん以外はきっと誰にも興味がないんだろう。
だけど、あんな場面で僕を抱いてしまったから責任を感じたのかもしれない。

銀次さんは優しいな。

この家に来てから僕は健康体になった。
ガリガリだった体は肉もついてきて、ご飯を美味しいと思えるほど、味覚も戻った。
こんな僕に好きだと付き合ってくれるとすら言ってくれた。

僕は銀次さんに与えられてばかりだ。
どうやったらこの恩を返せるんだろう。

とにかく銀次さんが煩わしく感じないようにしよう。
付き合ってくれると言っても、今までも一緒に住んでいるし、僕が誘いさえしなければエッチもすることないだろうし、今までと変わることはないはずだ。

大丈夫、銀次さん。僕はあなたの生活は邪魔したりしません。

だけど、しばらくして僕は急な吐き気に襲われた。
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