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咲夜サイドEND
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その日は、脇腹が痛くて仕方なかったので病院に行き痛み止めをもらった。
肋骨が2本折れているらしかったが、固定しておく以外に直す方法はなく、安静にするよう指示された。
翌日、痛み止めが効いたのかゆっくり寝られて昼ごろに起きると何やら屋敷内が騒がしかった。
何か問題が起こったのか知らないが、俺は今日こそは伊月を連れ戻そうと、服を着替え居間に行くと、たくさんの荷物が運び出されているところだった。
「なっ。え? 何してるんだ?」
居間の奥には顔面蒼白の父と、泣き崩れている母と梨乃がいた。
父が俺の存在に気がつき、こちらに向かってフラフラと歩いて来て俺を殴った。
ドンと壁に打ち付けられ、一瞬息の仕方を忘れるほど痛みが走った。
「お前……あれほど、あれほど言っておいたのに伊月にちょっかいをかけに行ったな」
「はあ? なんでそんなこと知ってるんだ。誰が言った」
親父にちくった奴が居るはずだと、周りの使用人を見回した。
けれど、いつもそこに数名は居るはずの使用人は一人もおらず、居るのは荷物を運び出している業者だけだ。
「昨日の夜、只野家から連絡があった。うちと一切手を切ると」
「只野って、昨日の奴の名前だ」
「お前は只野家を知らないのか? 只野といえばここら一帯ではうちとは比べものにならないくらいの家格だ……。それを。なんでこんなボンクラに育ってしまったんだ」
親父は耐えきれなくなったかのように、嗚咽を漏らした。
「一つ縁が切れただけで何弱気になってるんだよ」
「お前は……。この惨状が見えていないのか。只野を敵に回せば、他の家もうちと縁を続けるのを嫌がる。それにお前が怒らせたのは只野だけではないだろう。佐渡もうちから手を引いた。あそこの息子は佐渡とは絶縁状態にあると聞いていたが、その情報が間違いだったみたいだな……。とにかく、白崎は終わりだ。こんなことになるなら、お前と縁を切っておくべきだった」
「縁が切れたからってなんで、荷物を運び出す必要があるんだよ」
「白崎の事業はもうやっていけはしない。今までのような贅沢はできない。それどころか、多大な赤字が出ている。私たちは借金を返していかなければいけなくなったんだ。お前のせいで」
恨みがましい目で俺を見る親父が心底鬱陶しかった。
「借金? それは親父が作ったものだろ。俺には関係ないよな」
「お前……」
「とにかく今日こそは伊月を連れ戻さないといけないんだ。引っ越し先は後で地図を送ってくれ」
後は後ろを振り返らず家を出た。
放っておいたら今頃も、伊月の体を催淫剤が苦しめているだろう。
早く行って俺しかいないと思わせなければ。
ガン!!
車に乗り込もうとした時、突然後ろから頭を殴られた。
目が覚めると薄暗い小屋にいて辺りには汚らしいおっさんが数人いた。
「おい、ここはどこだ」
「あ? ガキが。敬語も使えねぇのか」
歯の数本はないような話し方だが、おそらくおっさんはそう言った。
辺りは、すえた匂いが充満しており息をするのも億劫に感じるほどで俺は徐々に恐怖の感情が芽生えて来た。
「ここはな……蛸部屋だ。俺たちは一生こっから出られずに過酷な労働をさせらんだ」
「は? 頭大丈夫か。今の時代、そんなのあるわけねえだろ」
「ガキの頭はお花畑か? ま、明日からは嫌でも分かるだろうさ」
翌日から、おっさんの言うように過酷な強制労働が始まった。
動かなければムチで叩かれ、少しの水分を飲む暇さえ与えられず山道を荷物を持って歩かされる。食事もカビの生えたようなパン一つと水の中に豆が数個浮いているだけのもので、逃げようとすれば死ぬ寸前まで殴られた。
そんな生活が2年も続いた。
いつ死んでもおかしくないような過酷な労働環境の中、思い出すのは伊月のことだった。
あいつが家にいる頃、あいつの腕は、今の俺のように……いや、今の俺よりも細かったな。
食事もまともに与えられず、強制的に働かせていた伊月が、俺の元から逃げたいと思うのは当然だったのだろう。
伊月と同じような身になって初めて、俺は自分の行いの非道さを思い知った。
俺の人生においてここまでどん底だったことはない。
一つのどん底も知らぬまま、俺は傲慢に育った。
後悔しても遅いことがあるのだと、こんなどん底の場所で俺はやっと知ることができたが、そんなことを知ってもここから出られないのならなんの意味も持たない。
ここを出ていった人は見たことがない。
10年以上ここにいる周りのおっさんに聞いても、ここから逃げられたものはいないそうだ。
だから、俺もここで死んでいくのだろう。
肋骨が2本折れているらしかったが、固定しておく以外に直す方法はなく、安静にするよう指示された。
翌日、痛み止めが効いたのかゆっくり寝られて昼ごろに起きると何やら屋敷内が騒がしかった。
何か問題が起こったのか知らないが、俺は今日こそは伊月を連れ戻そうと、服を着替え居間に行くと、たくさんの荷物が運び出されているところだった。
「なっ。え? 何してるんだ?」
居間の奥には顔面蒼白の父と、泣き崩れている母と梨乃がいた。
父が俺の存在に気がつき、こちらに向かってフラフラと歩いて来て俺を殴った。
ドンと壁に打ち付けられ、一瞬息の仕方を忘れるほど痛みが走った。
「お前……あれほど、あれほど言っておいたのに伊月にちょっかいをかけに行ったな」
「はあ? なんでそんなこと知ってるんだ。誰が言った」
親父にちくった奴が居るはずだと、周りの使用人を見回した。
けれど、いつもそこに数名は居るはずの使用人は一人もおらず、居るのは荷物を運び出している業者だけだ。
「昨日の夜、只野家から連絡があった。うちと一切手を切ると」
「只野って、昨日の奴の名前だ」
「お前は只野家を知らないのか? 只野といえばここら一帯ではうちとは比べものにならないくらいの家格だ……。それを。なんでこんなボンクラに育ってしまったんだ」
親父は耐えきれなくなったかのように、嗚咽を漏らした。
「一つ縁が切れただけで何弱気になってるんだよ」
「お前は……。この惨状が見えていないのか。只野を敵に回せば、他の家もうちと縁を続けるのを嫌がる。それにお前が怒らせたのは只野だけではないだろう。佐渡もうちから手を引いた。あそこの息子は佐渡とは絶縁状態にあると聞いていたが、その情報が間違いだったみたいだな……。とにかく、白崎は終わりだ。こんなことになるなら、お前と縁を切っておくべきだった」
「縁が切れたからってなんで、荷物を運び出す必要があるんだよ」
「白崎の事業はもうやっていけはしない。今までのような贅沢はできない。それどころか、多大な赤字が出ている。私たちは借金を返していかなければいけなくなったんだ。お前のせいで」
恨みがましい目で俺を見る親父が心底鬱陶しかった。
「借金? それは親父が作ったものだろ。俺には関係ないよな」
「お前……」
「とにかく今日こそは伊月を連れ戻さないといけないんだ。引っ越し先は後で地図を送ってくれ」
後は後ろを振り返らず家を出た。
放っておいたら今頃も、伊月の体を催淫剤が苦しめているだろう。
早く行って俺しかいないと思わせなければ。
ガン!!
車に乗り込もうとした時、突然後ろから頭を殴られた。
目が覚めると薄暗い小屋にいて辺りには汚らしいおっさんが数人いた。
「おい、ここはどこだ」
「あ? ガキが。敬語も使えねぇのか」
歯の数本はないような話し方だが、おそらくおっさんはそう言った。
辺りは、すえた匂いが充満しており息をするのも億劫に感じるほどで俺は徐々に恐怖の感情が芽生えて来た。
「ここはな……蛸部屋だ。俺たちは一生こっから出られずに過酷な労働をさせらんだ」
「は? 頭大丈夫か。今の時代、そんなのあるわけねえだろ」
「ガキの頭はお花畑か? ま、明日からは嫌でも分かるだろうさ」
翌日から、おっさんの言うように過酷な強制労働が始まった。
動かなければムチで叩かれ、少しの水分を飲む暇さえ与えられず山道を荷物を持って歩かされる。食事もカビの生えたようなパン一つと水の中に豆が数個浮いているだけのもので、逃げようとすれば死ぬ寸前まで殴られた。
そんな生活が2年も続いた。
いつ死んでもおかしくないような過酷な労働環境の中、思い出すのは伊月のことだった。
あいつが家にいる頃、あいつの腕は、今の俺のように……いや、今の俺よりも細かったな。
食事もまともに与えられず、強制的に働かせていた伊月が、俺の元から逃げたいと思うのは当然だったのだろう。
伊月と同じような身になって初めて、俺は自分の行いの非道さを思い知った。
俺の人生においてここまでどん底だったことはない。
一つのどん底も知らぬまま、俺は傲慢に育った。
後悔しても遅いことがあるのだと、こんなどん底の場所で俺はやっと知ることができたが、そんなことを知ってもここから出られないのならなんの意味も持たない。
ここを出ていった人は見たことがない。
10年以上ここにいる周りのおっさんに聞いても、ここから逃げられたものはいないそうだ。
だから、俺もここで死んでいくのだろう。
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みー様
いつもコメントありがとうございます^^
咲夜が一番どん底そうですが、咲夜のお父さんも今後かなり大変そうですよね☺️
いつも体調のお気遣いまでありがとうございます。
私の住んでいる場所は今日はいつもより少し涼しい感じでした!
みー様も体調を崩さないようご自愛ください^^
リコ様
いつもコメントありがとうございます^^
タコ部屋めっちゃ怖いですよね😱
ちなみに只野さんのお仕事はライターをイメージしていました笑
裏のお仕事をしているのは「養父の命令で〜」の話の忠次かも😄
名前似てましたね(☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎
みー様
いつもコメントありがとうございます^^
反省できなかった咲夜は二度と伊月に近づけないところに行きました笑☺️