妖怪達の薬屋さん

１ 振り返ると

夜道で足音が聞こえた時、決して振り返ってはいけない。
もしも振り返ってしまったら、今度は決して後ろにいるものと目を合わせてはいけない。
そうしなければ、取って食われてしまうから。

「だったな。噂ってのはどこも似たようなもんになるのかね」

　噂の発祥源である田舎の村の丑三つ時。この村の出身ではない男が１人ぽつんと立っていた。

（暗いな）

外灯もないほどの田舎は、男にとって久々だ。
シンと静まり返り、物音一つしない。

男が１つ足を踏み出すと、後ろからその後を追うようにひたっと足音が響いた。

（来た）

男は足音には気が付いていないようにまた１歩足を進める。

ひた……。

ひた、ひた……。

水気を含んだような足音は男が歩くたびに近づいた。
男は、尻ポケットからスキットルを取り出して中の酒をくぴりと煽った。
口の中で味わうように酒を転がし、飲み込んでから男はゆっくりと振り返った。

ひた。

足音は止まった。
男は自分を追いかけていた者の正体をしっかりと見据えた。

「子供……、か」

男の腰ほどの背丈で痩せ細り、青白い顔をした男の子だ。
男と目があった子供はニタァと邪悪な笑みを浮かべた。

「目、ァッた」

子供は嬉しそうに両手をあげながら、男の周りを飛び回った。

「目ぇアっタッ！　メあッた」
「ああ。合ったな」

男が答えると、子供から男を包み込むように黒い煙のようなモヤが出た。

「食べル、タベェる」
「ああ、待て待て。食べないでくれ」
「タベル、タベル……ふり返っタ、タベテイイ」
「ダメだっての。もっとうまいもん教えてやるから、って、痛ぇっ」
「う゛ぁっ」

男の話を聞かずに男の腕をかじった子供は、口を抑えてのたうちまわった。

「ああ、だから言っただろう。俺を食ってもうまくはないだろう」
「う゛ぅっ」
「分かったら俺についてこい。お前の好きそうなもん食わせてやるから」
「あ゛ぁ」

男は子供を肩に担ぎ上げ、近くの森へと足を踏み入れた。