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2 薬屋
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担ぎ上げた子供を、森の中を流れる川の横まで運んだ男は子供を切り株におろした。
「ぁ……、なんで?」
子供は不思議そうに男を見上げた。
その様子は、男の腕をかじる前と比べ随分と冷静だ。
「なんでって何が」
男は、子供の質問に首を傾げて答え、スキットルを取り出し1口飲んだ。
「おじさん、陰陽師とかなんでしょ。僕を殺しに来た人じゃないの? 殺さないの……?」
「ほう。殺して欲しいのか?」
男の問いかけに、子供はブンブンと首を振る。
「だろうな。殺して欲しいなんてそうそう思うようなことじゃない。むしろ俺は、お前を助けに来たんだよ」
「助け……?」
「ああ。俺は陰陽師なんかじゃない。ただのしがない薬屋さんさ……。ところでお前さん、さっきまでは瘴気に当てられて、自我を失っていたようだが、今はだいぶまともになったようだな」
男の言葉に、子供は不思議そうな顔で首を傾げた。
「あれ……、なんでだろう。僕、最近は頭が回んなくって、いつも夜になると体が勝手に動いていたのに。それで、なんでか叫びだしたくてたまらないような、変な気分になってたのに。でも今は全然平気みたい」
「そりゃ、俺の血を飲んだからだな。まぁ、正確に言えば、祓酒を飲んだ俺の血を」
「祓酒……?」
「ああ。これは俺専用の特別な酒でな。瘴気が嫌う成分なんだ。だから、これを飲んでる俺の血を嫌って、お前についていた瘴気は消えた」
酒の入ったスキットルを子供に見せつつ、男は手持ちの薬箱から数種類の素材を取り出し煎じ始めた。
子供は男がゴリゴリと素材を削る音を楽しげに聞きながら嬉しそうに笑った。
「そうなんだ、おじさんありがとう」
「まぁ、おじさんってのはやめて欲しいが。どういたしまして。まぁ、勝手に噛まれたからありがとうも何もないがね」
「う……。ごめんなさい」
「冗談だ」
男は頭の後ろをゆるく掻いて、ひょいっと口の端をあげた。
「だが、このまま何もしないでいれば、お前はまた瘴気に当てられるかもしれない」
「え、じゃあ、僕はおじさんの血をまた飲んだらいいってこと?」
「ちげぇよ。そうそう飲まれてたまるか。それにこれはあんまり飲みすぎると毒になる」
「じゃあ、どうすればいいの」
不安そうに尋ねる子供を安心させるように、男はにこりと笑った。
「まずは体を強くしねぇとな。よく食べてよく寝ろ。んで、俺がここに居る間に教えてやるから、自分に合った薬の調合を覚えるんだ。体を強くすりゃ、多少の瘴気なら当てられることはなくなる」
「体を強く? できるかな」
「できるさ」
「……そっか、分かった。僕、強くなるよ」
「ああ。頑張れ」
「ぁ……、なんで?」
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