妖怪達の薬屋さん

いちみやりょう

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「西の方の村でシキさんって人から聞いた話なんだがね、シキさんが言うにはある日、夜寝てたら顔にサワサワと触るもんがあったんで目を覚ましたらしいんだ。寝ぼけた頭でも、蜘蛛か何かだったらやだなぁって考えでしばらく目を開けて確認できなかったらしいんだけどよ」
「へぇ。そんで?」
「それがよ、意を決して目を開けたらそこには、寝てるシキさんを覗き込むようにした髪の長い女がいたらしい。髪が顔にあたってさわさわしてたんだ。そんで気絶するように眠ってしまって、起きたら当然いなくなっていたんだが、話はそれで終わらねぇんだ」
「ほう」
「隣の部屋で寝ていたシキさんの娘が、女から覗き込まれているシキさんを見ていたんだよ。でもって娘さんの方は気絶はしてないんだが、瞬きをしたタイミングで忽然といなくなったんだと。どうだい? 不思議な話だろ?」
「確かに不思議だ。その西の方の村ってのはどの辺りだ?」
「確か、ここだ」

話をしていた男は、キオウの持つ地図を差してそう言った。

「ほう」
「ってことで、不思議な話を聞かせてやったんだ。ここの団子代はきっちり奢ってもらうぞ」
「ああ。構わねぇよ」
「にしても、あんたよく食うな」

男は呆れたようにキオウの皿を見た。

「まぁな……。ところでお前さん足が動かしにくくねぇか?」
「お、よく分かるな。ああ、薬箱持ってるってことは薬屋か医者か?」
「そうだ。その足によく効く薬を持ってんだが、団子代と差っ引いてこれでどうだ?」
「んん゛、兄さんちゃっかりしてんね。分かったよ。ちぇ、結局出費が増えちまった」
「はは。悪いな」

男に薬を渡し、料金を受け取ったキオウは朗らかに笑った。
旅をするにも先立つものがなければできない。

「うう、苦ぇ……」
「だが、よく効くはずだ」

キオウが見ているだけでも、男の足に纏わりついていた瘴気がかなり減っていた。

「確かに、足が軽くなった気がする」
「渡した分の薬を飲み終わる頃には完全に治るさ」
「そりゃあありがたい。兄さんありがとよ」

男は軽い足取りで団子屋を後にした。
他に客はいなく、軒先に出された椅子に座ったキオウの周りには店員すらもいない。

「ケイ、食べていいぞ」
「わーい」

ケイはさっそくキオウの皿に盛られた団子を1本手に取って食べ始めた。

(妖怪が見えねぇ人間からしたら、団子が浮いてるように見えるんだろうな)

キオウはくくっと喉を鳴らすように笑って、ケイが団子を美味しそうに食べるのを見つめた。

「話に出てた村に行くの?」
「んー。まぁあの話にゃ実害がなさそうだから、今回はなしかな」
「寝てるところ覗き込まれてるのは、人間的に実害って言わないの?」

ケイは不思議そうに首を傾げた。

「いや、確かにそう言われれば人間からしたら迷惑な話だが、瘴気の気配はなさそうな話だからなぁ」
「そうなんだ」
「妖怪は好奇心旺盛なやつが多いし、顔覗き込むのもまぁ悪気はないんだろう」
「じゃあ、この後はどこに行くの?」
「そうだなぁ……北、かな」


キオウも1本団子を手に取り食べながら、北の村についての話を思い出していた。
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感想 1

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