妖怪達の薬屋さん

いちみやりょう

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8 ケイは見えない

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「なに笑ってんの」

不機嫌な顔でキオウを睨むダンダーが、ますます面白く感じて、キオウはしばらく笑い続けた。

「いや、悪い。ふふ……お前、かわいいやつだな」
「っ、あんたって見た目は若いかと思ったけどおじさんなんだね」
「なっ、おじさんじゃねぇよ。全く、ケイといいダンダーといい、簡単におじさん扱いしてくれる」

頭を抱えたキオウをケイが楽しそうに覗き込んだ。

「それ、俺の」

ふと、沈黙を破りダンダーが目線で指したのは、キオウの持つ本だ。

「ああ、これか。ほら返すよ」

ダンダーは素直に受け取り、中に異常がないか確認している。

「心配しなくても、壊したりしてねぇよ。だが、それは素人が片手間に手を出していいもんじゃないな」
「あんた、これ読めるの?」
「ああ。そういうのを読むのは俺の仕事のうちみたいなもんだ」
「そっか……あのさ、さっきの人が言ってたこと本当?」
「さっきのやつが言ってたやつってどれのことだ?」
「あんたが、その……」

言い淀むダンダーに、キオウはどの話か思い当たった。

「ああ、俺が妖怪だって話か?」
「うん」
「お前はどう思う?」
「……どうだろう。俺は妖怪が見えるけど、あんたみたいな妖怪は見たことない。大体は黒いモヤみたいなのがかかってるし、そうじゃなくても人間みたいな見た目のやつは見たことない」
「黒いモヤね。そりゃあ、瘴気ってやつだ。瘴気ってのは、この世界のどこにでも現れて、弱い妖に影響する厄介なやつらだ。大体は黒いモヤみたいに見える」
「あんたは本当に見えてるんだ」

ダンダーの声がわずかに明るくなった。

「そりゃあな。俺の目は特別見えてるだろうよ。何せ俺の血は半分は妖怪だからな」
「っ!!」

ダンダーの質問に答える形で、さらりと自身の血について教えてやると、ダンダーは目を見開いた。

「驚いたか? あっはは。安心しろ。襲ったりしねぇよ」

なるべく優しく見えるよう、キオウは柔和に笑って見せた。

「別に、怖がってない。最初は確かに怖かったけど、今は妖怪のことが好きなんだ。人よりかはるかに純粋で、優しさがある。だから俺はただ、俺はあの黒いもの……瘴気を纏ってる奴らを、助けたいと思って」
「だから召喚しようとしたのか?」

キオウの問いかけにダンダーはうなずいた。

「そうだよ。前にここに来た陰陽師の人に教えてもらったんだ。この本もその人からもらった。召喚した妖怪は結界を通ってくるから、召喚をすればするだけ黒いモヤを取ってあげられるって。だから俺は街の人にも頼んでたくさん召喚したんだ」
「そうか。やっぱりな」
「やっぱり?」

ダンダーは不思議そうに首を傾げてキオウを見やった。

「さっきも言ったろ。これは素人が手を出していいような内容じゃねぇ。霊力の低い素人が召喚をするとその人間の霊力に見合った弱い妖怪が引き寄せられる。素人の召喚で契約のうまくいってねぇ妖怪がこの街に溜まって、この街で回ってる多くの悪意や噂話に当てられて瘴気を纏っているんだ」
「で、でも俺は、妖怪が見えるんだ。霊力ってのは低くないはずだ!!」

焦ったように言うダンダーに、キオウは困ったように笑った。

「だが、見えてないだろう?」

キオウはケイのいる場所を視線で指した。
そこはダンダーの目には何もない空間にしか見えなかった。

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感想 1

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