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第九章

その雫は風に乗って①

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 夕陽がCICに入ると、空調が効いているはずの室内は熱気に包まれ怒号が飛び交っていた。
 気持ちを落ち着かせ、集中力を高めるために灯された青く薄暗い照明の下、きょろきょろと目的の人物を探す。
「神月、こっちだ」
 その声に振り向くと、航空隊司令の片山健司一等海佐が手招きしていて、夕陽は他の隊員の邪魔にならないよう急いで駆け寄った。SH60Jシーホークヘリのパイロットだった彼は、今回、一人艦に残された夕陽を慮ってCICに呼んでくれたのだった。
「ここで仲間達の戦いをしっかり見ておくんだ」
 自分の椅子を勧めて片山が立ち上がると、夕陽は慌てた。
「あ、あたしは立ってますから!」
「俺は尾澤司令の横にいなきゃならん。座ってろ」
 そう言うと、片山は尾澤司令以下幕僚達が集うCICの後方へ移動していった。
 傷心の夕陽にはその心遣いが身に沁みる。そのまま椅子にストンと腰を下ろすと、目の前に広がる大スクリーンを見つめた。
 群青の空間に浮かび上がるスクリーン上の多数のBlip。それははまるで透き通る冬の星空のようだ。だが、そこに映っているのはロマンチックな星などでは無い。無慈悲な兵器とそれを操る生身の人間。その中には最愛の人がいる。そして自分もあそこに映っているはずだったのだ。
〝ジーク01よりいずも。展開完了。このまま待機する〟
 勝野の声がCICに響き渡る。〝ジーク〟はいずも戦闘飛行隊のコールサインで、01は隊長機を示す。ちなみに敏生のコールサインは〝ジーク05〟で「てるづき」の直掩のはずだ。
あれだ。
「てるづき」の横に映る敏生のBlip。祈りにも似た想いでその光を見つめる。
 そして視線をスクリーンの左上にスライドさせると、そこに映っているのは中国艦隊とその艦載機を示す赤く輝く多数のBlip。数では圧倒的に向こうの方が多い。果たしてこれで勝てるのだろうか? たとえ勝ったとしても無傷で済むわけはないように思えた。
「現在、遼寧より二十六機の発艦を確認」
 遼寧が搭載するJ15戦闘機は三十六機。稼働率百%であればあと十機は上がる計算だが、彼らの稼働状況からしてそれはあり得ない。なので、彼らが〝殺る〟つもりならそろそろ始まるはずだった。
 画面に注視していると、パパッと左隅の方に多数のBlipがついた。夕陽が驚いて振り向くが、CICの連中は顔色一つ変えない。
「大陸から上がってきた制空部隊です。那覇の空自が相手します」
 横に座る顔見知りの女性電探員が一人動揺している夕陽にそっと耳打ちしてくれる。落ち着いているのは全て折り込み済みということか。
「遼寧より二十七機目発進」
 まるでロシアンルーレットだ。そのアナウンスに夕陽はゴクリと唾をのみ込む。
「二十八機目の発進を確認」
 次の瞬間、中国艦隊から無数に思える輝点が現れ、画面を埋め尽くした。
「中国艦隊より多数のミサイル!! 来ます!!」
 ついに開かれた地獄の扉。
 ミサイルが飛び交う現代戦、三十分後には趨勢が決しているはずだ。
 神様―――――
 夕陽は手を合わせ、ただ祈るしかない。仲間の勝利を。
 負ければその時はきっと、自分はこの世にはいない。
「よし、全艦ジャミング開始!!」
 尾澤司令のかけ声で、各艦が搭載するECM(Electronic Counter Measures)装置・NOLQ2とNOLQ3から一斉に強烈な妨害電波がミサイルに対して照射された。
 その凄まじい威力に敵ミサイルが次々と目標をロストし、爆発し、海中に没していく。
 ジャミングをかいくぐった約三分の二の対艦ミサイルの群れが海面スレスレまで高度を落とすと、次はいよいよイージス艦の出番だ。
 ギリシャ神話の最高神・ゼウスが娘のアテナに与えたという、あらゆる邪悪を払う盾。それがイージス。
「こんごう」と「あたご」のSPY1Dフェーズドアレイレーダーが迫り来る全ての対艦ミサイルを同時追尾すると、イージスシステムにより脅威が高いと判定された順から瞬時に目標が割り当てられる。次の瞬間、艦橋前に設置されたMk41垂直発射セルから最大一〇〇キロメートルの射程を誇るSM2スタンダード艦対空ミサイルが次々と天空へ向かって放たれた。
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