28 / 30
第九章
その雫は風に乗って③
しおりを挟む
その理不尽な命令に憤りを感じながら対空防御に備える乗組員達。だが、間髪入れずにやってくると思っていた第二波はなかなかやって来なかった。イージス艦のジャミングを恐れているのか、敵の制空部隊も先ほどのようには出てこない。それともこちらの反撃を警戒しているのだろうか?
だが、その理由は数分後に判明した。大陸側から突如現れた多数のBlip。それは内陸から飛んできた旧式戦闘機の群れだった。
対艦ミサイルのプラットフォームとしてのみの役割を担った彼ら。反撃を受けないと分かった以上、ミサイルを放って離脱すれば撃ち落とされる心配もない。そしてまたしてもレーダー画面が満天の星空に埋め尽くされる。それは明らかに第一波を上回るミサイルの数だった。
もともとは旧ソ連が得意としたミサイルによる飽和攻撃。その思想は共産国家である中国にも受け継がれているようだ。これほどまでの飽和攻撃はこれまでの演習でも受けたことがなかったが、迎撃手順は第一波の時と変わることはない。
ジャミングとイージス艦二隻のスタンダードミサイルによる対空防御。スタンダードミサイルは今回もまた、そのほとんどが命中したのだが、いかんせんミサイルの数が多過ぎた。
「あきづき」と「てるづき」のESSMだけでは間に合わず、全艦にデータリンクで目標が割り当てられ、そしてついに「いずも」戦闘飛行隊全機にも目標が振り付けられる。
飛んで来るミサイルを射程に収めると、各艦・各機よりESSM、シースパロー、AAM4といった対空ミサイルが一斉に発射された。
艦隊から三〇キロメートルの地点でぶつかり合う彼我のミサイル。
静かで美しい南洋の空と海を穢す、人間達の創り出した恐ろしい爆発音と数多の大火球。海鳥や魚達がこの世の地獄に逃げ惑う。
夕陽は愕然とした。レーダースクリーン上に残った敵ミサイルの数は第一波の時に比べ明らかに多い。その数は二五発、そのうち「いずも」に向かってくると思われる対艦ミサイルは十二発。各艦とも個艦防御に手いっぱいの状況だ。支援など受けられない。
だが、「いずも」は個艦防御の点では海自艦艇の中でも最強クラスだった。艦橋の前後に配置された二基のSeaRAMから自動制御で立て続けに計二十二発の短距離艦対空ミサイルが発射される。
現在のところ、「いずも」にのみ搭載されている最新型の近接防御システム・SeaRAMは、従来の機関砲をベースとしたCIWSでは射程二キロメートルが限界という欠点を補うために開発された、いわばCIWSのミサイル版で、最大射程は約一〇キロメートルと、艦より遠方での迎撃が可能だ。
「いずも」より八キロメートル地点の海面上で交錯する彼我のミサイル。期待通り、SeaRAMは他艦艇へ向かうミサイルまでいくつか撃ち落としたようだ。
だが―――――
「残りミサイル二発、本艦に突っ込んでくる!!」
「総員、対ショック姿勢を取れ!!」
森川艦長の怒号で周囲が頭を伏せる中、夕陽は一人、わけも分からず戸惑っていた。
「神月三尉!! 伏せて!!」
横に座る顔見知りの女性電探員が夕陽の頭をつかんでグイッと抑えつける。
え? いずもにミサイルが当たるの?
ようやく状況をのみこんだ夕陽は目の前の計器台の端をつかみ、頭を伏せた。ふとよぎる、戦死した若葉の顔。それから脳裏を走馬灯のように様々な記憶が駆け巡る。そして思い浮かぶ愛しい彼の顔。
敏生!! 敏生――――― !!!
「いずも」の艦首と艦尾に設置された二基のCIWSが火を噴く。一発は艦から一キロメートルの地点で撃墜したが、もう一発は猛烈な弾幕をかい潜り、「いずも」に到達しようとしていた。
「夕陽――――――!!!」
ライトニングのコクピットからその様子を見ていた敏生は絶叫した。音速の対艦ミサイルがまるでスローモーションのように「いずも」を捉える。
だが、「いずも」に命中したと思ったミサイルは甲板上で跳ねると、そのままの勢いで海中に没した。不発だった。
ホッと胸を撫で下ろすも、その胸に渦巻くのは悔恨。
俺は……俺は間違えたのか…?
ライトニングよりも比較的安全だと思っていた「いずも」。だが、この戦場に安全な場所などあろうはずがない。
ふと視線を眼下に向けると、敏生は蒼くなった。個艦防御に徹してミサイルを撃破し、未だ健在の「てるづき」。だが、その艦橋上部に設置されたFCS3レーダーが潰れていた。
恐らくCIWSで破壊したミサイルの破片がぶつかったのだろうか? これでは僚艦防空どころか、個艦防御もままならないはずだ。
この状況で第三波が来たら……次こそ間違いなく……。
だが、その理由は数分後に判明した。大陸側から突如現れた多数のBlip。それは内陸から飛んできた旧式戦闘機の群れだった。
対艦ミサイルのプラットフォームとしてのみの役割を担った彼ら。反撃を受けないと分かった以上、ミサイルを放って離脱すれば撃ち落とされる心配もない。そしてまたしてもレーダー画面が満天の星空に埋め尽くされる。それは明らかに第一波を上回るミサイルの数だった。
もともとは旧ソ連が得意としたミサイルによる飽和攻撃。その思想は共産国家である中国にも受け継がれているようだ。これほどまでの飽和攻撃はこれまでの演習でも受けたことがなかったが、迎撃手順は第一波の時と変わることはない。
ジャミングとイージス艦二隻のスタンダードミサイルによる対空防御。スタンダードミサイルは今回もまた、そのほとんどが命中したのだが、いかんせんミサイルの数が多過ぎた。
「あきづき」と「てるづき」のESSMだけでは間に合わず、全艦にデータリンクで目標が割り当てられ、そしてついに「いずも」戦闘飛行隊全機にも目標が振り付けられる。
飛んで来るミサイルを射程に収めると、各艦・各機よりESSM、シースパロー、AAM4といった対空ミサイルが一斉に発射された。
艦隊から三〇キロメートルの地点でぶつかり合う彼我のミサイル。
静かで美しい南洋の空と海を穢す、人間達の創り出した恐ろしい爆発音と数多の大火球。海鳥や魚達がこの世の地獄に逃げ惑う。
夕陽は愕然とした。レーダースクリーン上に残った敵ミサイルの数は第一波の時に比べ明らかに多い。その数は二五発、そのうち「いずも」に向かってくると思われる対艦ミサイルは十二発。各艦とも個艦防御に手いっぱいの状況だ。支援など受けられない。
だが、「いずも」は個艦防御の点では海自艦艇の中でも最強クラスだった。艦橋の前後に配置された二基のSeaRAMから自動制御で立て続けに計二十二発の短距離艦対空ミサイルが発射される。
現在のところ、「いずも」にのみ搭載されている最新型の近接防御システム・SeaRAMは、従来の機関砲をベースとしたCIWSでは射程二キロメートルが限界という欠点を補うために開発された、いわばCIWSのミサイル版で、最大射程は約一〇キロメートルと、艦より遠方での迎撃が可能だ。
「いずも」より八キロメートル地点の海面上で交錯する彼我のミサイル。期待通り、SeaRAMは他艦艇へ向かうミサイルまでいくつか撃ち落としたようだ。
だが―――――
「残りミサイル二発、本艦に突っ込んでくる!!」
「総員、対ショック姿勢を取れ!!」
森川艦長の怒号で周囲が頭を伏せる中、夕陽は一人、わけも分からず戸惑っていた。
「神月三尉!! 伏せて!!」
横に座る顔見知りの女性電探員が夕陽の頭をつかんでグイッと抑えつける。
え? いずもにミサイルが当たるの?
ようやく状況をのみこんだ夕陽は目の前の計器台の端をつかみ、頭を伏せた。ふとよぎる、戦死した若葉の顔。それから脳裏を走馬灯のように様々な記憶が駆け巡る。そして思い浮かぶ愛しい彼の顔。
敏生!! 敏生――――― !!!
「いずも」の艦首と艦尾に設置された二基のCIWSが火を噴く。一発は艦から一キロメートルの地点で撃墜したが、もう一発は猛烈な弾幕をかい潜り、「いずも」に到達しようとしていた。
「夕陽――――――!!!」
ライトニングのコクピットからその様子を見ていた敏生は絶叫した。音速の対艦ミサイルがまるでスローモーションのように「いずも」を捉える。
だが、「いずも」に命中したと思ったミサイルは甲板上で跳ねると、そのままの勢いで海中に没した。不発だった。
ホッと胸を撫で下ろすも、その胸に渦巻くのは悔恨。
俺は……俺は間違えたのか…?
ライトニングよりも比較的安全だと思っていた「いずも」。だが、この戦場に安全な場所などあろうはずがない。
ふと視線を眼下に向けると、敏生は蒼くなった。個艦防御に徹してミサイルを撃破し、未だ健在の「てるづき」。だが、その艦橋上部に設置されたFCS3レーダーが潰れていた。
恐らくCIWSで破壊したミサイルの破片がぶつかったのだろうか? これでは僚艦防空どころか、個艦防御もままならないはずだ。
この状況で第三波が来たら……次こそ間違いなく……。
0
あなたにおすすめの小説
ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~
さとう涼
恋愛
カレに愛されている間だけ、
自分が特別な存在だと錯覚できる……
◇◇◇
『恋い焦がれて』の4年後のお話(短編)です。
主人公は大学生→社会人となりました!
※先に『恋い焦がれて』をお読みください。
※1話目から『恋い焦がれて』のネタバレになっておりますのでご注意ください!
※女性視点・男性視点の交互に話が進みます
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる