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しおりを挟む翌朝、私は荷物をまとめて部屋を出た。
この家を出れば私はもう貴族ではなくなり、ただのクリスとして
生きて行かなければならない。
それは、とても怖い事ではあったが自分を鼓舞する。
「がんばれ私、がんばれ私。私なら一人でもやって行ける! 」
そうつぶやきながら家を出るとそこにはマルとミシェルが居た。
「もう、どうして居るのよ! 私は静かに出て行こうと思っていたのに」
折角の決心が鈍りそうになり口をギュッと噤んだ。
「そんな、私も連れて行って下さいよ! 私はいつでもクリス様と一緒です」
マルは大きなリュックと鞄を持っており、
「私もそろそろ転職を考えていたので、ご一緒させて頂きます」
ミシェルも鞄を持っていた。
「バカね、ここに居ればまっとうな暮らしが出来るのよ? 」
「私にはクリス様が居ない生活なんてありえません! 」
「ちょうどまっとうな暮らしにも飽きた所でしたので」
私は空を見上げた。
『嗚呼、この二人と一緒なら私は大丈夫だ。』
だからどうにか涙を堪えて私達三人はバーモス家を出た、馬車に乗って。
*****
「まったく、どうなっているんだ。婚約破棄なんて聞いた事がない!
前代未聞だ、バーモス家の恥さらしめ! まったく、どうしてくれようか! 」
私はその日、一日中イライラしていた。
「酒だ、酒を持って来い! おい、誰か! 」
メイドに酒を持ってこさせると私は浴びるように飲んだ。
この名門バーモス家の長男として生まれ育てられた私が、
こんな辱めを受けるなんて事はあってはならない!
そう、こんな事は全て嘘に決まっているのだ!
そうしていつの間にか寝てしまっていた私を眩しい日差しに起された。
「う、何時だ? おーい誰か! 」
水を持って来てもらおうと声を出して、自分の声に頭が痛くなった。
あんなに飲んだのはいつぶりだっただろうか?
そんな事を考えながら食堂に行って水を貰う。
「あの、旦那様。今日はドロルド様とお会いになる日ではありませんか? 」
メイドに言われて私は思い出す、そう言えばそんな約束をしていたような
気がするので、時間を聞いた。
「え? 」
メイドが大きな声で聞き返してきて、頭に響く。
「今、何時かを聞いている」
「今は十時です、旦那様」
十時なら間に合うだろうと、私は支度を始めた。
ドロルドと会う場合はいつも午後一時と決まっていたからだ。
家からドロルド邸までは馬車で2時間程、少し急がせれば余裕だろう。
支度を終え、私は馬車を出させるがいつまでたっても来ない。
「おい、馬車はどうした? 早くしないと間に合わないではないか! 」
私のその問いに御者が走って来て答える。
「旦那様、馬車がありません」
「何? どういう事だ。 どうして馬車がないんだ! 」
その問いに庭師が答えた。
「馬車なら今朝、クリスお嬢様が乗って行かれましたよ」
「クリーーーース!!!!!!」
私は自分の大声で頭がパンクしてブッ倒れた。
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