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菫川ヒイロ

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好きになってはダメな人でした

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 姉というものは特別だった。当然妹なんかよりもである。
 だからずっと自分は捨てられたのだとばかり思っていたのに、どうやらそれは間
 違っていたらしいという事を教えられたのは妹からだった。
 
 
「おにいは馬鹿なのね、そんな事ぐらいすぐに気が付くはずでしょ? 私達のこの
 現状を見ればどう考えたってねえねは私達を守ってくれたのよ」
 
 
 そんな事を言われたってそう簡単に信じる事はできなかった。
 ずっと僕の側に居てくれると思っていた人から突然別れを告げられたのだ、それ
 がどうして僕を守る事になるというのだろうか? 守るのであれば側いて欲しか
 った。いつまでもずっと側に居て欲しかったのだ、置き去りになどせずに。
 
 
 姉が居なくなって僕はしばらくの間泣いてばかりいた。
 捨てられたと思っていたのだから当然だろう。この家には僕と妹と父親が居て、
 その中で真面な奴は誰一人として居なくて、そんな中でこれからどうやっていけ
 ばいいのかなんて分からなかった。僕らは姉に依存して生きて来たのだから。
 
 
 どんなに悲しんでも、どんなに文句を言っても現状は何も変わりはしないし、
 お腹は勝手に空くのだから困ったものである。じゃあどうすればいいのかなんて
 考えた所で僕らに出来る事なんて一つしかなくって、そんな僕らの次の依存先は
 タクトでだった。
 
 
 正直、僕はあまりこの男が好きではなかったが今はそんな事も言っていられない
 からタクトの世話になる事にした。タクトは姉の恋人という立場なのだけれど、
 僕は一切認めてはいない。でもそれを言うと姉が悲しそうにするから僕は仕方な
 く保留という形をとっていたのだが背に腹は代えられなかった。
 
 
 そもそも姉は僕達のものだったし、僕が大きくなったら結婚するのだし、そこに
 タクトは邪魔でしかなかったのだ。部外者がどうして僕達の所へやって来るのか
 僕には理解が出来なかったが、姉が嬉しそうにしているのならそれは許可してや
 るのが僕の寛大な所であったし、結果としてそれが今に繋がっているのだからそ
 の判断は間違いではなかったと言うべきだろう。
 
 
 姉が居なくなってからもタクトは家にやって来て僕達の面倒をみてくれた。
 決して姉の代わりになんてならないけど、タクトはよく自分が姉の代わりなのだ
 と言って家にやって来るからそこだけはいつも引っかかっていた。でもそれを除
 けばそれなりに役には立っていたのだからそこは聞き流す事にしていた。
 
 
「俺には分からないよ」


 タクトに姉の居場所を一度聞いた事があったが教えてはくれなかった。まあそれ
 はいいのだ、別に教えてくれるなんて思ってはいなかったのだから。ただ一丁前
 に顔を変えて大人のように振る舞ったその姿が気に入らなかった。結局何も出来
 なかった奴がしていい顔ではないだろうそれは。そういう所なのだ。
 
 
 早く大人になりたいと願うのは当然の流れである。
 なぜならば、大人になる事が姉を迎えに行く絶対条件であったからだ。子供のま
 までは足りない。何もかもが足りないからどうすれば早く大人になれるのかを毎
 日必死に考えていた。だからなのだろうか? それとも神様の悪戯なのかは分か
 らないけど僕はその女に出会ってしまったのだ。
 
 
 初めてその女を見た時の印象は全体的に薄い感じがする人だった。
 姉がそうであったように大人の女性特有の曲線ではなくほぼほぼ直線、そんな棒
 のような女に声を掛けられた。「ちょっとウチで働かない? キミならかなり稼
 げるよ」そんなよくある誘い文句につられてしまったのは姉の事を思うがゆえで
 ある。
 
 
 これで少し大人に近づけたと思えた。
 
 
 妹がタクトの彼女になって青いクリンジの花が咲く頃に僕は家を出た。
 もう十分に一人で生きていけるようになったのだし、そもそもいつまでもタクト
 の世話になっているのも借りをつくっているようで癪に障るのだ。僕は妹が思う
 程馬鹿ではないし、どちらかと言えば妹の方が馬鹿ではないかと思っているがそ
 れを言わないのは兄としての優しさである。
 
 
 仕事も見つけたし、これでもう僕は誰に邪魔をされる事もない。
 姉を迎えに行こうと思ったのは当然の事で、今度は俺が守る番だと思ったという
 だけのことだった。
 
 






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