10 / 425
好きになってはダメな人でした
10
しおりを挟むきっと私よりも先に生まれようとした結果なのだろう。
私はそんなに急いで出て行く事に何の魅力も感じなかったからおにいに先を譲っ
たけれどきっとその時に私が先に行っていればおにいはこんなにも馬鹿ではなか
ったのではないだろうかと私はよく考えるのだ。
あの時からずっとおにいは馬鹿だった。
どうにも人が言う事が理解出来ていないらしいし、世界が自分の為にあるのだと
信じている勘違野郎なのだ。もし本当に世界がおにいの為にあるのだとしたら、
とっくの昔にこの世界は破滅していたことだろう。
でもそんな馬鹿が近くにいたからこそ私はこうして間違える事なく生きてこられ
たのだと考えれば、おにいにとって少しは生まれて来た意味があるのかもしれな
いと思える。私の為に全て間違えてくれるのがおにいであって、だからこそ私達
は双子なのだろう。
ねえねにも言われていたから私はおにいにはいつも気を配ってはいたけれど、
まさかおにいがこの家を出て行くなんて思っていなかった、しかも私よりも先に。
まあ確かにいつまでもこの家に居る意味があるのかと言えばそんな事はまったく
ないし、理由すらもないのだからそろそろ私にも時期が来たのかもしれない。
「ジニア、そろそろいいか? 」
「あ、ごめん」
そんな事を考えていたからついつい忘れていたが今はタクトに父親を持ってもら
っていた所だったのだ。私はすぐにベットを開けて置けるように準備をした。
もう一人では何も出来なくなっている父親に対して私達は何も思う事なんてない
し、タクトが居なければおそらくはとっくにこの世にはいないだろう。そもそも
碌に話す事さえ出来ないのだから当然だろう。
父親をベットに寝かせたらさっさと部屋を出る。
これ以上ここに居たくはないのだ私は。私にとって父とはそういう存在である。
全ての諸悪の根源であるこの人がどうなろうとも私はどうでもいいけど、タクト
にとってはそうではないらしい。まあ、どうでもいいけど面倒を見てくれるとい
うのならそれはそれでいい、どうでもいいけど。
物事にはいつだって順番があって、それをちゃんと順番通りにこなしていく事が
結局は何よりも近道であるという事を私は知っているからいつだって準備を怠る
なんて事を私はしない。でも、準備が出来たのなら迅速に行動するべきなのだ。
おにいは自分の事ばかりで周りが見えていないから私が何を考えているかなんて
知らないし、どんな気持ちでいるのかなんて考えた事などないだろう。おにいに
とってねえねがどんな存在であったかなんて私は知っているが、じゃあ私にとっ
てはどんな存在であったかなんておにいは気にした事もあるまい。
私達は双子だし、私はおにいがこれから何をするのかも分かっている。
そして失敗することも分かっているからこそ、私はちゃんと準備をしていたのだ。
全てはこの日の為に生きて来たといってもいい。
「タクト。私、今日はちょっと予定があるから帰るのが遅くなると思うわ」
「嗚呼、そうなんだ。気をつけてね」
気をつけるか……まあ特別な意味はないのだろうけど確かに気をつけておくべき
ではある。あのおにいがする事なのだから。
「行って来ます」
そして私は家を出た。
「やっと来たか。いつも言っているだろ、時間はちゃんと守れ。そういう事が出来
ないやつになんか仕事は回さないからな! 」
そういうこの男の口うるささにうんざりしながらも私は車に乗った。
少し買い物をしていただけでこんなに言われるとか馬鹿げているし、そもそも前
にいた学生が割引がどうだの、クーポンがどうだのと言って時間がかかったのに
それを全部私の所為にされても困るのだが……
別にどうでもいいのだそんな事はもう、今日で全てが終わるのだから。何も気に
する必要はないし、この男とも今日でおさらばな訳で……こいつもついでに始末
しておく事にしようかなんて考えている私が何処へ行くのかって?
もちろんねえねを迎えに行くのである。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる