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菫川ヒイロ

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好きになってはダメな人でした

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 きっと私よりも先に生まれようとした結果なのだろう。
 私はそんなに急いで出て行く事に何の魅力も感じなかったからおにいに先を譲っ
 たけれどきっとその時に私が先に行っていればおにいはこんなにも馬鹿ではなか
 ったのではないだろうかと私はよく考えるのだ。
 
 
 あの時からずっとおにいは馬鹿だった。
 どうにも人が言う事が理解出来ていないらしいし、世界が自分の為にあるのだと
 信じている勘違野郎なのだ。もし本当に世界がおにいの為にあるのだとしたら、
 とっくの昔にこの世界は破滅していたことだろう。
 
 
 でもそんな馬鹿が近くにいたからこそ私はこうして間違える事なく生きてこられ
 たのだと考えれば、おにいにとって少しは生まれて来た意味があるのかもしれな
 いと思える。私の為に全て間違えてくれるのがおにいであって、だからこそ私達
 は双子なのだろう。
 
 
 ねえねにも言われていたから私はおにいにはいつも気を配ってはいたけれど、
 まさかおにいがこの家を出て行くなんて思っていなかった、しかも私よりも先に。
 まあ確かにいつまでもこの家に居る意味があるのかと言えばそんな事はまったく
 ないし、理由すらもないのだからそろそろ私にも時期が来たのかもしれない。
 
 
「ジニア、そろそろいいか? 」


「あ、ごめん」


 そんな事を考えていたからついつい忘れていたが今はタクトに父親を持ってもら
 っていた所だったのだ。私はすぐにベットを開けて置けるように準備をした。
 もう一人では何も出来なくなっている父親に対して私達は何も思う事なんてない
 し、タクトが居なければおそらくはとっくにこの世にはいないだろう。そもそも
 碌に話す事さえ出来ないのだから当然だろう。
 
 
 父親をベットに寝かせたらさっさと部屋を出る。
 これ以上ここに居たくはないのだ私は。私にとって父とはそういう存在である。
 全ての諸悪の根源であるこの人がどうなろうとも私はどうでもいいけど、タクト
 にとってはそうではないらしい。まあ、どうでもいいけど面倒を見てくれるとい
 うのならそれはそれでいい、どうでもいいけど。
 
 
 物事にはいつだって順番があって、それをちゃんと順番通りにこなしていく事が
 結局は何よりも近道であるという事を私は知っているからいつだって準備を怠る
 なんて事を私はしない。でも、準備が出来たのなら迅速に行動するべきなのだ。
 
 
 おにいは自分の事ばかりで周りが見えていないから私が何を考えているかなんて
 知らないし、どんな気持ちでいるのかなんて考えた事などないだろう。おにいに
 とってねえねがどんな存在であったかなんて私は知っているが、じゃあ私にとっ
 てはどんな存在であったかなんておにいは気にした事もあるまい。
 
 
 私達は双子だし、私はおにいがこれから何をするのかも分かっている。
 そして失敗することも分かっているからこそ、私はちゃんと準備をしていたのだ。
 全てはこの日の為に生きて来たといってもいい。
 
 
「タクト。私、今日はちょっと予定があるから帰るのが遅くなると思うわ」


「嗚呼、そうなんだ。気をつけてね」


 気をつけるか……まあ特別な意味はないのだろうけど確かに気をつけておくべき
 ではある。あのおにいがする事なのだから。
 
 
「行って来ます」


 そして私は家を出た。
 
 
「やっと来たか。いつも言っているだろ、時間はちゃんと守れ。そういう事が出来
 ないやつになんか仕事は回さないからな! 」
 
 
 そういうこの男の口うるささにうんざりしながらも私は車に乗った。
 少し買い物をしていただけでこんなに言われるとか馬鹿げているし、そもそも前
 にいた学生が割引がどうだの、クーポンがどうだのと言って時間がかかったのに
 それを全部私の所為にされても困るのだが……
 
 
 別にどうでもいいのだそんな事はもう、今日で全てが終わるのだから。何も気に
 する必要はないし、この男とも今日でおさらばな訳で……こいつもついでに始末
 しておく事にしようかなんて考えている私が何処へ行くのかって? 
 
 
 もちろんねえねを迎えに行くのである。
 
 
 
 



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