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菫川ヒイロ

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好きになってはダメな人でした

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 俺にとってそれはラッキーだったのだろうか?
 周りはそんな風にとらえているようだがそんな訳がない、どう考えたって俺の実
 力でしかないのだ。何も間違ってなどいなかった。今までして来た努力の結果が
 出たというだけの事なのだから決してついていたなんて事ではない、全ては俺の
 力で、だから何も間違ってなんかいない、いないはずなのだ。
 
 
「おめでとう、次の店長は君だ」
 
 
 そう言って俺に手を差し伸べたのはこの商会のマス会長だった。
 その顔のシワからは確かに貫禄を感じさせるものであったし、握った手の分厚さ
 には信頼に足り得るものだったからこそ俺はそんな人から認めれもらえたという
 事実がとても嬉しかったのだ。
 
 
 それに何よりも俺を見下していた連中の事を考えるだけで何とも言えない優越感
 に浸れるのだ。これでお前達とは違う、俺の方が優れているという事が証明され
 たのだと思うとついつい笑みが零れてしまうのも仕方がないというものだった。
 
 
「おめでとうマグロニア」


 そう言ってくれたフネはマス会長の娘だ。
 そして何よりも俺の事を見下していた連中が悔しがっているであろう理由は俺が
 このフネと結婚する事が一番の理由だろう。フネは会長の娘というだけでなく気
 立てが良く、容姿も優れているからこの商会で働いている者達の中で彼女の事を
 意識していないなんて奴はいない存在だった。
 
 
 今回の店長を決める試験もどちらかと言えばフネと結婚出来るという理由からや
 る気を出していた者が多かったであろうことは予想できるが、そんな事に囚われ
 ているようなやつらになんか負ける訳がないのだ。これはあくまでも店長を決め
 る試験であって、そんな恋愛脳が俺に勝てる要素などありはしない。
 
 
 そもそも俺にとって結婚なんてものは何の褒美にもなっていない。
 確かにフネの事を綺麗だとは思うが、ただそれだけの事でしかなくそれ以上の感
 情が動くという事はない。恋愛なんてどうでもいい事に分類されるそれで、この
 結婚も要はこの商会を万全のものにする為のマス会長の手札にすぎない。
 
 
 有能な人物を確保するのは当然だし、俺もフネが仕事が出来ると評価をしている
 からそういう部分では会長と同じ感覚を有しているといえるのではないだろうか。
 選ばれた最大の理由はそういう所なのだろうと有能な俺は推測している。そして
 俺は店長となりフネと結婚した。
 
 
 
 
 結婚式も無事に乗り越え、これで俺の未来は安泰だろうと思っていた。
 こういう行事を無駄だとまでは言わないが、あまり好きにはなれないのは立場が
 はっきりしない相手が多いからである。お披露目的な意味としてはいいのだが、
 素性の知れない者が紛れ込んでいる場合がある。そう言う奴はだいたい碌な事を
 しないのだ。
 
 
 だから山場を乗り切ったとおもったら気も抜ける。
 本当に気をつけるべきはそういう瞬間なのに、それに気が付かなかったのは単に
 俺の見通しが甘かったというだけなのだろうか? 結果としてはそうだった。
 
 
 それは俺が得るべきものを取り戻すための行動だった。
 だからその事に何も後悔はないし、実際に俺は取り戻せたのだから何も間違って
 はいなかったはずだ。だとういうのにどうしてこんな事になる? ただ二人を殺
 してからというもの何もかもが上手くいかなくなってしまった。
 
 
 まるで今までが全てあいつらのおかげで成り立っていて、俺の力は何一つとして
 なかったかのように何もかもが上手くいかず、俺には何が起こっているのかも分
 からないまま用意をされていたこの椅子に座る事しか出来なかったのだ。
 
 
「さあ、次はどうされますか? 」
 
 
 どうするもこうするもこんな勝負など無効だと言いたいが俺にそんな選択権なん
 てないに等しいこの場では選ばざるを得ない。きっと次で、必ず次は俺が勝つに
 決まっているのだ。どう考えたって俺だけが負けるなんて事があるはずがないの
 だから、運が悪いとかたまたまが続いたとしたってこれはあまりにも不自然なこ
 のゲームにそれでも俺はベットし続けるしかなかった。
 
 
 結果など分かり切ったものを果たして勝負と呼ぶのだろうか?
 これまで積み上げて来たものをこうも簡単に奪われてしまう……
 これが貴族のやり方なのだと言われればそれまでではあるけど、だからと言って
 彼らのやり方はあまりにも残忍で、俺はもう空っぽだった。
 
 
 もうやめてくれ! これ以上何も奪わないでくれ!
 
 
 最後は言葉までも奪われてしまった。
 
 
 
 



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