13 / 425
好きになってはダメな人でした
13
しおりを挟むあれ、誰もいない?
あるはずのない状況に私は違和感を覚えた。
だって家に帰れば誰かしらが必ず出迎えに来るのだから、でもそれが無いという
おかしな状況になっている家の中ではどうしたって警戒をするに越した事はなか
った。
嫌だな嫌だなって思うけど、どういう状況なのかを確かめる為に足を進めた。
ゆっくりと一歩一歩を確かめながら歩くとパパの部屋から人の声が聞こえて来た。
「ちょっと、何してるのよ! 」
聞こえて来たのは若い女の声。
「お前こそ何をしてるんだこんな所で! 」
更に聞こえて来たのは若い男の声で、理由は分からないが何やら揉めているよう
だった。
「何を今更。そんなの決まってるでしょ! 」
「俺はただ迎えに来ただけだ、なのになんて事をしてくれたんだ!」
開いたドアの陰から私は部屋の中をのぞき込む。
緑色のインコのような髪色の女と首輪をつけた男が怒鳴り合っているこの状況が
一体何なのか私の頭では追い付かないが、きっとよくない事が起こっているとい
う感覚は確かにあった。
「さっきから何よ俺って、気持ち悪い! おにいのくせに俺とか言ってるんじゃな
いわよ! そんなだからみんな殺しちゃうんじゃない。どうするのよ、これじゃ
あねえねが何処にいるのか分からないでしょ! 」
「そんな事言ったって俺は女を殺しただけで、そいつを殺したのはジニアじゃない
か! 俺はそいつに聞くつもりでいたのに、全部台無しだ! 」
男が指した指の先にはパパらしきものがあった。
「はあ? 私が悪いっていうの。ふざけないで! 俺って言わないで! 」
「やっぱりジニアは馬鹿だよ。おい、そこに居る奴出て来いよ! 」
見つかってしまった。
ここで出て行くべきなのだろうか? それとも逃げるべきだろうか?
嗚呼そうだ、私には武器があるではないか! だから問題は無い、無いはずだっ
たのだ。それは中の二人が同じように銃を持っていない場合に限った話ではあっ
たのだけれど。
男の方へと銃口を向けて出て行った私に二人は当然のように私に銃口を向けた。
その瞬間に全てが終わったと思った。こうやって終わるのかと、こんなにもあっ
けなく私の人生は終わるのだと理解したら頭の中を記憶が駆け巡る。そうそれは
最後に思い出すべき記憶……
「あっ、アナタは……。私よ私、ねえ覚えていない? あの時私を助けてくれた人
よね? 私、アナタにずっとお礼がいいたかったのよ! ありがとうって。ずっ
と探していたのアナタを! それともう一つだけ言いたい事があるの……、私、
アナタのことが好きなの! あの日からずっとアナタの事が忘れられなくてね、
きっとこれは恋だと思う。アナタは私の運命の人なのよ! 」
「え? 俺が、運命の人? 」
そんな訳はない。こんな男は知らない。でもここで終わるのだとしても私はまだ
あきらめ切れなかったのだ。そう、私はまだ恋をしていない。恋をせずに死ぬな
んて出来る訳がない。その為に私は生きているのだ。それならば例えどんな相手
で在ろうともそこにチャンスがあるのなら手を伸ばすべきなのだ。
「そう、アナタは私の運命の人! きっとこうして出会う事も運命だったのよ! 」
どうしてこんな嘘がすらすらと出て来るのか? 火事場の馬鹿力的な事なのかと
も思ったけれどきっとそういう訳じゃない。私は散々法螺話を聞いて来たからな
のだ。その経験が今になって生きるとは思いもしなかったけれど、こんな事もあ
るのかと少しばかり高揚している。
「はっ」
「馬鹿ね、そんな事ある訳ないじゃない。おにいが運命の相手だなんてありえない
わ。そんな嘘に騙されるなんてやっぱりおにいは馬鹿なのよ」
「おい、ジニア! どうして撃ったんだ! 」
嗚呼、やっぱり無理だった。
そんな簡単に恋が実る訳がないじゃないか。
「おい、しっかりしろ! まだ死んじゃダメだ! 」
薄れて行く意識の中でそんな声が聞こえた。
あれ?……これはもしかして……
「そいつが知ってる訳ないでしょ! 」
「そんなの聞いてみないと分からないだろ! 」
「だから… 」
「お 」
それでも好きでいられますか?
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる