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まだ恋をした事がない
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しおりを挟むその後の事はほとんど覚えていない。
自分が何を話したとか相手が何を話していたのかさえ覚えておらず、
ただ右から左へと抜けて行ってしまったのだろう。
頼んだコーヒーだけがやけに苦かったのをしっかりと覚えていた。
どうやって家に帰ったのか、ちゃんと会計はしたのかも覚えていないが今ここに
居るということはまあどうにかなったのだろう。しばらく放心状態で、抜け殻の
状態からどうにか動き出す。今日は少しばかり頑張り過ぎてしまった。
だからもう寝ようとそのままソファの上で眠りについた。
「ちょっとソヨダさん。大丈夫ですか? 」
「はあ、大丈夫です」
仕事にも影響が出る程である。自分が思っていたよりもお見合いに期待しすぎて
いたのだろう。これはしばらく立ち直れそうにないなと思うが、そうも言って
いられないのも事実。いっその事、全てを諦めてしまおう、そうすればこんな
気持ちにならずに済むのだしもう十分頑張ったではないか?
これからは仕事に生きよう。
それが今世の生き方なのだろうし、来世に期待をしよう。
そんな現実逃避をしていたらマキタさんから連絡があった。
「このままお話進めてもいいそうですよ、よかったですねソヨダさん。正直私は
今回は駄目だと思っていたのですよ? まあ一度は失敗しておいた方が後々の為
にもいいですからね。だからこれは凄い事です、頑張ってくださいねソヨダさん
大事なのはここからですから」
何を言われているのかを理解するのに時間はかかったが、どうやら上手くいった
という事なのだろう。マキタさんの話など聞き流し、両手を上げた。予想外の
展開ではあるけど、これで一歩結婚へと近づいたのだ。これはとても大きな一歩
であることは間違いないだろう。
「あの、そ、ソヨダですけど」
恥ずかしながら声が震えていた。
マキタさんからの電話は話が長くなりそうなのですぐに切って、教えて貰った
番号へ発信した。早く確かめたかったのだ。
「ソヨダさん、先日はどうも」
「こちらこそ、ありがとうございました」
勢いはあった。
でもそれだけだった。
だから言葉が出て来なかった。
無言の時間が続く。
「次はいつにしますか? 」
「は、はい! 」
だからそんな言葉が聞けただけでもう嬉しすぎた。
自分という人間が認められたという事実に泣いてしまいそうだ。
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