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帰り道
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しおりを挟む「ほら、ちんたらやってないで早くして。こんな事ぐらいで時間をとってられない
のよ。分かってる? 」
とりあえず何をしても罵倒された日々だった。
何一つとして真面に出来ない者にここでは容赦がない。
「とりあえず今日はこの部屋に泊まってくれ、俺はもう一度母さんと話をしてくる
から」
彼にそう言われて部屋に一人、私は呆然と突っ立っていたがそんな事をしている
意味がないのでとりあえず横になった。どうしてこんな事になってしまったのか
なんて考える気力もなく自然と眠ってしまった。
結局彼が戻って来る事なく、朝を迎えた。
「ほら、さっさと起きてこれに着替える」
従業員に無理やり起こされた私は服を渡された。
「何で? どうして私がこれに着替えないといけないの? 」
「何よ、何も聞いてないの? 面倒臭いな。だから嫌だったのに」
私の返答に驚きながらも面倒臭そうに説明をしてくれた。
どうやら私はここで働く事になったらしい。そんな事を了承した覚えはないのだ
がだからと言って何もせずにここに居られる程図太くはなかった。
基本的には見て覚える。
それが出来なければ罵倒が待っていた。
そんな日々がどれだけ続いただろうか? 漸くここの仕事に慣れ始めて少しばか
りの余裕が出来た頃、女将に呼ばれた。
「失礼します」
部屋へ入った私に顎でそこへ座れと言われた。
どうやら口を聞くのも嫌らしい。そう考えていたが違った。
「ちゃんと仕事出来てるみたいじゃない、聞いているわ」
「へ? 」
予想外の事にそんな返事になってしまったが、これは要するに認められたという
事ではないか。それじゃあ……
「それでどうするの? このままここで働くのなら別に構わないわよ。大体の者が
逃げ出すのにアンタはちゃっとやり遂げたんだからその権利はあるわよ」
「私はここに働きに来た訳ではなく」
「はいはい、分かっているわ。ただ聞いただけよ。それでまだあの子と結婚しよう
なんて考えているのね」
「はい」
私はまっすぐに答えた。
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