恋愛倉庫

年代物

５

「どうだ？　話は終わったか？　」


　爺ちゃんは律儀に一時間でちゃんと戻ってきた。
　
　
「ええ、そうね。それじゃあ下まで送るわ」


「いいよ、危ないから」


「大丈夫よ、慣れてるし。それに私毎日運転してるんだから」


　その言葉に俺は帰る準備をしていた手を止めた。
　運転とは？　ここまで苦労して登って来たのだが？　
　帰りもあの苦行があると思っていた俺は爺ちゃんを見た。
　
　
「何？　もしかして古い道を通って来たの？　だから遅かったのね」


「いや、あの道しか知らなかったし……」


　ばつが悪そうに言う爺ちゃんは本当に知らなかったのだろう。
　でももうあの苦行はしなくていいのならそれでいい。
　
　
　車に乗ってから爺ちゃんはずっと外を見ている。
　別に何かを話さないといけない訳でもないけれど、なんだかなと思ってしまうの
　は二人の話を聞いてしまったからなのだろう。きっと俺が居なければそれなりに
　話したい事もあったのだろう。
　
　
　でもこれが今の二人の距離感なのだろう。
　婚約破棄をしたとはいえ、結婚目前までいった二人なのだ。
　きっと何かのきっかけがあれば昔のようにとまではいかなくても、それに近づく
　事もあるかもしれない。
　
　
「今日はありがとうございました」


「いいのよ、結局全然違う話をしちゃったわね。ベジャルワの事で聞きたい事が
　あったらまた来なさい。その時はちゃんとベジャルワの話をしましょう」
　
　
「悪かったな、急におしかけて」


「連絡するならもっと早くして来なさいよ、馬鹿なんだから」
　
　
　最後までこんな感じの会話で終わる二人の関係にはまだまだ熟成期間が
　必要なようだ、でもきっと素晴らしいものになると俺は感じた。
　だからまた来ようと思ったんだ、爺ちゃんを連れて。