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お嬢様はもっさい入り婿候補にメロメロです。
しおりを挟む「なんなんですか?」
彼の低い声とともに、きしり、とソファが鳴った。
若い青年らしさなどカケラもない、ボサボサ頭にヨレヨレスーツ。だらしなさの権化に覆い被さられて、真梨は彼を見上げながら硬直する。いつもは眠たげな目に至近距離で見おろされ、声も出せずに唇が震えた。
彼は真梨の、最後まで勝ち残った入り婿候補だ。見た目じゃそうは見えないが、真梨の父親が経営する会社で若手のホープである。
真梨の結婚相手が自分に決まったこと、式は真梨が二十歳になったら挙げること。今日は確か、そんなことを言いに会いに来たはずだった。
彼は右膝で真梨の両膝を割り、ワンピースの裾をめくりながら、ソファへ体重をかけていた。両手はソファの背もたれの上につき、その体という檻で真梨を閉じ込めている。
真梨は小柄で痩せた体をこわばらせたまま、ソファの座面に強く手をつく。震える体を止めたかった。震えているのは怖いからじゃない。息が苦しい。
はっ、はっ、はっ。
自分の浅く荒い息と、早い鼓動ばかりが聞こえる。
近すぎる体にめまいがする。
彼の衣服はヨレヨレでも、鼻に届くにおいは悪いものではない。洗剤と石鹸に若い男の体臭が交じった、真梨の心拍数をあげるにおいだ。
ああもう、どうにかなりそう。
「ねえ真梨お嬢様。なんだって俺を見る目だけが、いつも発情してとろけてるんですか? おかしいでしょう、こんなモテないサラリーマンに。今日なんか特にすごいけど」
彼、茂佐射我は首をかしげた。
「もしかして尻にバイブでも刺さってます?」
「馬鹿じゃないの!? そんなわけあるか!!」
あまりの言われように涙目で叫ぶが、射我はあっさりと頷いた。
「ですよねー」
彼は真梨の目をのぞき込んだ。瞳孔に自分が映っているのがわかるほど近くで。
「イケメン嫌いの才能食いで有名な真梨お嬢様は、誰でもいいって訳じゃない、どころか、俺にしか反応してないらしい」
業界3位、アカリホームセンターの経営企業の社長令嬢、世渡真梨は、顔なぞどうでもいい、できる男が好きだと言って憚らない。
彼はそんな真梨を眺めて、眺めて、眺めて、呟いた。
「責任取ってもらいましょうかね」
「妊娠させられた女みたいなこと言うんだ?」
「あんな目で見つめられ続けたら、どんな男だっておかしくなる。なんですかあれ、俺にだけなんて。性癖?」
真梨がぎりっと歯ぎしりする。
肯定はしないが否定もしない。答えたようなものである。
公言してはいないが――実は真梨は、だらしない男が大好きなのである。
女にだらしない、金にだらしない、というのではなく、姿形がだらしないのがいい。つまり、もっさい男が大好物。
そして、真梨の幼いうちにその性癖を作った者は―――。
「やっぱり? ほんとに? いやでも、変な性癖とかでないと説明がつかないし」
真梨はさっきから失礼なその男の鼻をおもいっきりひねりあげた。
「いだあ!?」
真梨の初恋の相手は、ああ、何の因果か、他ならぬこの男なのである。
江戸時代から商家を営む世渡家は元々女系で、産まれるのは細く弱く小柄な娘たち。真梨も、妹の梨乃も病弱だ。
それゆえ世渡の家は、番頭格の家から優秀な婿を取って存続してきた。父も入り婿なのだ。現代においても、経営から子会社運営まで、番頭格の家は世渡家を支えている。
茂佐射我もまた、番頭格の家柄だ。
そんな彼と真梨がはじめて出会ったのは、6才の時。世渡家主催のハロウィーンパーティーでのことだった。
◇
つまんない。
真梨はため息をついた。
今日のハロウィーンパーティーは、珍しく世渡邸ではなくホテルでやると聞いて楽しみにしていたのだ。
しかし4才の妹が熱を出し、母もそれに付き添い欠席だ。普段、梨乃は体が弱いため幼いながらも諦めが早い。そんな妹が、珍しく「おねえちゃまと、おようふくおそろいしたかった」と、赤い顔してベッドでしくしく泣くものだから、真梨は可哀想で見ていられなかった。
今日はふたりで同じ仮装をする予定だったのに。
父はひっきりなしに挨拶を受けていて席から動くこともできず、仮装して出席した子どもたちはお行儀がよすぎて面白くない。
ステージでは『農家マジシャン』という、農作業から帰ってきたばかりのような格好のマジシャンが農具でマジックをする、一体どこに需要があるのかわからない出し物が演じられていた。
「あのクワ、摺樋ブランドじゃないか?」
「いやでも柄が違うな……」
「あのクワの角度は中山間地用!」
見ている大人達はさすがホームセンター企業の社員。マジックより使われているクワの方が気になるらしいが、6才の真梨にはさっぱりわからない。
最終的にお付きの小月さんを建物の中で巻いて憂さを晴らした真梨は、ため息をつきながらひとり、庭をぷらぷら歩いていた。
池を見つけ、端へしゃがんでのぞき込み、自分を映す。世界で1番有名なネズミのガールフレンドの格好をした自分がこちらを見つめている。赤い水玉の大きなリボンに、同じ模様のワンピース。
うん。服は可愛い。
でも似合っているとはちょっと言えない。
妹と同じように真梨も体が弱く、青白く痩せていて小柄である。小学校で可愛いと言われている女の子とは雲泥の差だ。悲しい。
あーあ、と再びため息をついて、顔をあげて気付いた。
「!?」
横の岩の上に誰かいる。
あまりに静かで気配がなくてわからなかった。池を囲む岩の中で1番大きなものに、男の子が座っていた。小学校の高学年くらいだろうか、じっと池の水面を眺めている。
不思議な男の子だった。
仮装は吸血鬼なのだろう。黒いケープが首に引っかかっている。
蝶ネクタイは片方のフックが外れ縦にぶら下がっているし、半ズボンのウエストからブラウスの裾がはみ出ている。
ピカピカの黒革靴には土と草の切れっ端がくっついて、靴下は全部足首にたぐまっていた。ついでに髪もボサボサだ。
でも、仮装がヨレヨレになっているのに、不潔という感じは全くない。小学校で男子が服を汚しながら大騒ぎをするのとは根本的に違っているようだ。
真梨はその、年上の男の子が池に注ぐ、まっすぐな眼差しが気になった。
「なにみてんの」
「鯉」
こちらを見ない男の子から与えられる、簡潔な答え。
「1匹泳ぎ方がおかしいのがいるんだ。姿形や背骨はきれいだから、奇形ってわけじゃないらしい。たぶん、目か頭」
「めかあたま?」
「石でも投げられたかカラスにやられたかわからないけど、片方だけよく見えていないんだろう。だから動きが変なんだと思う」
「ずっとみてたんだ?」
「気になったから」
片目しか明るさがわからずに、まっすぐ泳げない魚。魚が光を求めて水面を、水中から傾きながら見上げる様子を想像し、真梨は呟く。
「かわいそうだね」
「うん。あとでホテルのひとに言ってみようか……。処分するなら譲ってくれないかな」
真梨に同意した男の子はこちらを見た。少し眠たそうで、でも遠慮のない視線に晒され真梨は一瞬息を詰める。全部見透かされてしまいそうだ。
逃げたくなるような、ずっと見つめ合っていたいような不思議な気分に戸惑っていると、彼がゆっくり目をしばたたく。
「なにそれ、じんましんの精?」
「ちーがーうー!」
世界で1番有名なネズミのガールフレンドの服、赤い水玉を蕁麻疹呼ばわりされて真梨は憤慨した。
「ばかじゃないの、メニーちゃんはかわいいんだから! メッキーのこいびとなんだよ! しらないの!?」
「そりゃごめんよ」
心のこもらない謝罪に、真梨は口をひん曲げる。
「で、その、メニーちゃんはどうしてこんなところにいるの。中の方が楽しいんじゃないかな」
「つまんない。いもうとがねつをだしてままもきてないし、ぱぱはおしごとのひととはなしてる」
「同じくらいの年の子どももいるのに」
「おぎょうぎよすぎて、つまんないんだってば!」
「それは同感」
くっくっく、と愉快そうに笑うとちょっと幼く見える。この男の子はいくつなんだろう。不思議に思っていると、逆に質問をされた。
「おちびさんは幼稚園児?」
「ちがう! いちねんせい!」
幼稚園児と一緒にするとは何ごとだ。真梨は立ち上がって胸を張る。
「わたしはまり。よわまり。しょうがくいちねんせい!」
「え。小学1年生ってこんなちっちゃかったかなあ?」
「ちっちゃくないー!」
「ぼくは茂佐射我。5年生だよ。よわ、ってことは世渡家のお嬢様かな」
「そう」
「一緒にいるひとは?」
「おつきさんなら、つまらないからまいてきた」
「えっ」
なにその行動力、と彼がぼやくと同時、ガラスの向こうのフロアでわあっと子どもたちの歓声があがった。
「お菓子が配られ始めたかな」
「わすれてた」
真梨はぎゅっとスカートを握りしめる。
「りののぶんももらわなきゃならないのに」
「行ってくれば?」
「いいこでならんだじゅんっていってた。すてきなのなんかもうのこってない!」
家族がそろわないパーティーなんか、つまらないとわかっていた。それでも真梨が来たのは、熱を出してしくしく泣いていた妹のために、お土産を持っていってあげたかったからだ。
なのにどうだ。つまらないつまらないと言っているうちに、お菓子をもらうタイミングさえなくした。
自分が歯がゆくて悔しくて地団駄を踏む。
「ああもう! って、なにわらってんの!?」
「真梨ちゃんはネズミじゃなくてウサギだねえ」
差し出された手に反射的に捕まれば、さっきから失礼千万な射我は真梨が岩に乗るのを助ける。
「ウサギも不機嫌だと足を踏みならすんだよ、そっくり」
笑いながら足の間に座らせてくれる。落ちないように左腕で真梨を抱える動きが慣れていた。妹か弟がいるのかもしれない。
真梨が居心地のよさに目をぱちくりさせていると、彼は横に置いていた紙袋から派手なオレンジのビニール袋を取り出す。
「これあげる」
渡されればなかなか重い。オレンジなのは袋の片面だけだった。裏側、透明な所から中がのぞける。
「くっきー?」
「そ。ぼく、ひとと一緒にいるの苦手なんだ。それを直すのに、これ配って仲好くしてこいって渡されてさ。母さんの手作りだから味は知れてるけど」
「くばれば?」
「可愛い袋に入ったお菓子が配られる横で出したって、欲しがるひとはいないよ」
そうだろうか。
丸いクッキーに、色とりどりのアイシング。模様もひとつひとつ違うようだ。とっても手間がかかっているのは真梨でもわかった。
射我はもうひとつ袋を取り出すと封を開け、1枚差し出してくる。
「ほら」
渡されたのは、魔女の柄のクッキー。小さな黒猫も一緒だ。
「かわいい……」
しばらく眺めてから食べてみる。
サクサクのバタークッキーは珍しくもないけれど、ひとを安心させる味だった。
真梨は、頭上の射我を見上げてにっこり笑う。
「おいしい!」
「そっか。袋ふたつともあげるから、帰って妹と一緒に食べなよ」
「うん! ありがとう」
どういたしまして、と頭をなでられて嬉しくなる。何だか変わった男の子だけど、一緒にいたくなるひとだ。
「やさしいんだ? よーし、おおきくなったら、まりがおよめさんになってあげる!」
「ええー……」
意思確認ゼロな申し出に、射我は視線をさまよわせた。しかし彼は、自分を見上げる真梨を見て苦笑する。
「真梨ちゃんが、憶えていたらねー」
その苦笑に似つかわしくない優しい手つきで頬をくすぐられ、真梨は胸までくすぐったくなった。
確かにあれが、真梨の初恋の瞬間だったと思う。
彼はそのままパーティーが行われているフロアまで一緒に付き合ってくれたけれど、真梨が小月さんにお小言を頂戴しているうちにどこかへ行ってしまった。薄情な奴である。
その後、真梨は『身の回りのことがおろそかになるくらい物事に夢中になれるひと』が好みになる。
じっと視線を池に注ぐ、他は全く目に入らないあの姿が素敵だったから。
「身だしなみがどうでもいいなんて」
生粋のイケメンびいき。6才にして美形の少年を「りののおうじさま!」と呼び、以来ベタ惚れの妹は呆れてみせた。
「何かに夢中になってるのに身綺麗とか仕草がきれいとか、嘘くさいじゃん」
「卓さんは嘘くさくないもの!」
「はいはい」
何かに夢中になって、まっすぐ揺らがない視線を注いでいるひとがいい。身の回りなんかどうだってかまわない。彼が微動だにせず池を見つめていたように。
それは長じて『ひとつのことにすぐれた者』が好き、つまること才能食いになるのだが、真梨は最初から婿をもらう身。将来を真剣に考えているのだろう、と見られた。打算的すぎる、夢がない、何も知らない人間にそう言われもした。言わせておいた。
本当のことは自分が知っていればいい。
真梨はただ見ていた。学ラン姿の彼を、ブレザー姿の彼を、そしてスーツ姿の彼を。機会があるたび、遠くから見つめるだけだった。
ただ1度話しただけの小さな子どもの事なんか、きっと憶えているわけもないから。
月日は流れ、当然のように入り婿候補が絞られはじめたのは、真梨と梨乃が年頃になった頃だ。
驚いたことに『りののおうじさま』ことイケメンの坂藤卓は、梨乃を想っていたらしい。汚い手さえ使いライバルを蹴落としながら、最後まで候補に残ってみせた。
その相棒として尻拭いをしつつ、競争に勝ち残ったのはなんと茂佐射我。サラリーマンになってなお、変わらぬボサボサの髪とヨレヨレスーツ姿の、真梨の初恋の君だった。
そうして、話は冒頭に戻る。
◇
「あっ」
「最初は何かの間違いだと思ったんですよ」
ソファに座る真梨の体に覆い被さり、左耳の後ろをペロッとなめて射我がささやく。
「生まれてこの方モテたためしがない俺に、熱い眼差しを向ける女なんかいるわけない」
「っ!」
ソファの背もたれに乗せられていた彼の右手が、真梨の左肩に触れた。
「なのに、毎回毎回、視線は来るし、よく見れば顔はとろけてるし」
いつかの時よりも大きくなった彼の手が、つうっ、と肩から滑り降り、その指先が早鐘を打つ真梨の左胸を押さえる。
「きっともう一生、俺にこんな顔を向けてくれるコはいないだろう。そう思って、入り婿レースをがんばってみました」
身を引いて、彼は真梨の目をのぞき込む。初めて会ったあの時の視線と同じ、全部見透かされてしまいそうな目に、今は隠しきれない熱が籠もる。
「どきどきしてるね? 真梨お嬢様」
「あんたは、してないの」
目をそらさずに問えば、射我は小さく笑う。
「してる」
空いた左手で真梨の右手を取ると、ほら、と自分の胸に押し当てた。
どっ、どっ、どっ、どっ。
思った以上の鼓動の強さに真梨が言葉を失う。
「人生の正念場だって、体の中からせかされてるよ。必要だから入り婿になるんじゃない。性癖だろうが何だろうが構わない。眼差しを向けられるたびに、真梨お嬢様、あんたのことしか考えられなくなった。あんたを誰にもやりたくないんだ」
頭はボサボサ、スーツはヨレヨレ、もっさい非モテサラリーマンが、真梨への愛を口にしている。
「俺を丸ごとあげるから、どうか、俺のものになってください」
彼は熱っぽく、かすれた声でささやく。
「俺を好きだと言って」
祈りに似たささやきに、真梨は目をつむった。
なりふり構わずひとつのことに夢中な男が好き。そんなことを口にするたび、射我の姿がちらついた。男の好みを口にするたび、本当は、彼が好きだと言っているのと同じだった。
真梨は好きだと言うかわりに訊ねる。
「クッキー、憶えてる?」
ふ、と漏れた彼の小さなため息が顔をくすぐった。目を開ければ、泣き出しそうな顔。
「真梨ちゃん、小さかったから忘れてると思ってた」
「忘れない。忘れるわけない。初恋だもん」
すき。
そう告げた直後に与えられた口づけは、情熱的なものだった。訳がわからなくなりそうで彼のシャツをつかむ。
どれくらいそうしていたのかわからない。頭も体もとけてしまった真梨を抱きしめ射我が乞う。
「最後まではしない。でも真梨ちゃんに印を付けさせて。俺のだって証……」
「いいよ」
12年前とは違う、大人の男になった彼の体へ腕を回しながら、真梨はねだった。
「12年分、たくさん触って」
ワンピースの胸のボタンを外されて、スカートをめくりあげられて、真梨は体中をなでられ、なめられ、キスをされた。
うなじに、胸に、太ももに赤い花が咲く。
「あっ、や、やあっ」
足元にかがみ込んだ射我は、下着の上からじゅうっ、と音を立てて真梨のそこを強く吸った。びくんっ、と真梨の体が跳ねる。
知らない、知らない、こんな気持ちよさ知らない。
気持ちいい。
気持ちいいのにもどかしい。
ワンピースはすでに腹のあたりでたぐまっているだけ。真梨はあられもない姿で両足を開き、啼く。
「ぐちょぐちょだから、脱ごうね」
愛液と彼の唾液で濡れた下着が脱がされた。恥ずかしい場所に外気を感じて、なおさら自分のそこが熱くなっていることを自覚する。
「ひんっ」
いきなりべろっとなめあげられて悲鳴をあげる。
「美味しい」
「こ、の、へんたいっ……!」
真梨の切れ切れの悪態に小さく笑った気配があったと思ったら。
「ひ、あ、ああああっ!」
舌が中に入ってきた。
嫌悪はない。濡れた柔らかな感触にぞくぞくして、粘膜で感じる吐息に彼を感じて、中をこすられて甘い声をあげる。
「あ、ああ、くぅ、んっ、あう、ああんっ」
気を利かせたか誰も来ない応接室を、男と女の息づかいと嬌声、ぴちゃぴちゃと卑猥な音が芝居する。彼は飽きもせず真梨のそこを舌でなぞり、なめ、こすり、突く。
男を知らない真梨の体は快楽を教え込まれ、舌の小さな動きにも甘く反応した。
「あっ、やあ、や、や、それいやあっ」
なめられながら小さな突起を指で責められ、真梨の腰ががくがくと反応する。
「いや? 気持ちよすぎて?」
真梨のそこから口を離し、けれど指で小さく敏感な突起を責め立てながら射我が訊く。
「や、あ、くるし、ひぃんっ!」
「苦しいだけ?」
「こわ、い。なにか、やだ、きもちい、やだ、あ、あ、やだ、あ、ああああっ!」
「イって。そのまま、俺の手で、俺の前でイッて見せて」
快楽に跳ね回る自分の体に翻弄されて、訳がわからない。叫ぶ自分の声に射我の声が混じり、甘くとろけたその声に快感が強まる。
「あ、くる、ひ、や、あああ、やだ、や、あっ!」
「可愛い。真梨ちゃん、可愛い。見せて、ね、イって。イくとこ見せて」
可愛い、可愛い。
恥ずかしいことをされながら大好きなひとにそう言われるたび、快楽は高まっていき。
「あ、あ、あっ! あうう、う、ん、や、あ、あああああっ!!」
そこをぐりっと押しつぶされた瞬間、真梨はひときわ高く啼き、その意識を弾けさせた―――。
◇
「やりすぎ!」
「ごめんなさい」
「き、キスだって、初めてだったのにっ!」
「やった! 俺も! 俺も! そうですー!」
服を着直した真梨はソファへ座り、婚約者へ文句を言う。顔を赤らめ涙目で責め立てれば、もっさい男はなおさら喜んで真梨へ抱きつく。
「ああ、嬉しいなあ。気持ちよさそうな真梨ちゃん、めちゃくちゃ可愛かった」
「そういうこと言うな!」
「いったあ! ハゲるハゲる! ごめんなさい!」
ボサボサ髪をぐいっと引っ張れば、非モテリーマンの泣きが入った。
「私のこと、好き?」
「好き」
「じゃあ許す」
つん、と顔をそむけながら言ってやると、彼の大きな手が、いつかのように頬をくすぐる。
「俺を丸ごとあげるから。大事にするって誓うから」
あの時とは違う、蜜のように甘い言葉。
「俺だけのものでいてください」
真梨は返事をする代わりに、ぎゅうっと、初恋のひとへ抱きついた。
この後、結婚式当日。
射我が実は着飾ればいい男だというのが判明。顔を合わせた真梨に「誰だお前!」と叫ばれ逃げられて、ウエディングドレスとタキシードでの追いかけっこになったのは、また別の話である。
『健康優良男子が不健康女子に片思い中です。』番外編
『お嬢様はもっさい入り婿候補にメロメロです。』 END
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johndo様
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お読みいただきありがとうございます!
こちらこそ、大変嬉しいですー!
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そのうちに、射我サイドも上げる予定です。楽しんでいただけるようがんばります。
ご感想いただいた嬉しさに、作業もはかどりそうです。ありがとうございました!