お嬢様は入り婿王子にメロメロです。

法花鳥屋銭丸

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お嬢様は入り婿王子にメロメロです。

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「裸にむかれて、いやらしくて恥ずかしくてとてつもなく痛いことされるからがんばってね」
「えっ」
「子作りは夫婦なら当たり前、子作りじゃなくてもヤるしね。新婚初夜なんか当然するって。泣いても笑ってもどうにもなんないから腹をくくりなー」
「ええっ」
「そのうち慣れるよ」
「慣れるの……!?」

 昨日、2年前に結婚した姉が泊まりに来て、何年ぶりかでパジャマパーティーをしたけれど、会話は酷いものだった。
 心配を払拭したくて姉に訊いたのに、不安が倍増した。訊く相手を間違ったと思う。

 でも負けない。ようやく思いが叶うのだ。14年もの片思いに比べたら、痛みくらいどうだというのだ。梨乃は自分に言い聞かせる。

 腹をくくりましょう、梨乃。

 世渡よわ梨乃はお風呂上がりに、バスローブ姿で髪を乾かしていた。
 今日は梨乃のはたちの誕生日。プレゼントは素敵な旦那様だ。結婚式は無事終わり、これから初夜を営むことになる。

 体調は悪くない。身も念入りに手入れをした。髪を乾かし終われば、後は寝室に行くだけだ。
 そこにはきっと、6才の時に恋をしてから変わらず思い続けている、あのひとが待っているはずだった。

 坂藤ばんとう改め、世渡すぐる
 その商才ゆえに世渡家に婿として迎えられた、梨乃の大好きな大好きな、たったひとりの王子様である。



 江戸時代から商家を営む世渡家は元々女系で、産まれるのは細く弱く小柄な娘たち。梨乃も、姉の真梨も病弱だ。
 それゆえ世渡の家は、番頭格の家から優秀な婿を取って存続してきた。父も入り婿なのだ。現代においても、経営から子会社運営まで、番頭格の家は世渡家を支えている。
 今日夫となった卓も、その番頭格のうちの出身だった。
 整った容姿、細やかな心遣い、社内では姉の入り婿と並び他を引き離す業績。梨乃の王子様は、ケチの付け所のない婿である。

 そんなパーフェクト入り婿、卓と梨乃が知り合ったのは、14年前、あの運命の観桜会だった。


 ◇


 梨乃はとぼとぼと日本庭園を歩いていた。
 満開の桜はきれいだけれど、6才児にこの庭は複雑すぎる。自宅だからってどこでも知っている訳ではない。だって普段あんまり外出ないし。

 世渡家主催の観桜会、父の会社のいろんなひとが家族で来るというから、誰か遊び相手になってくれるだろうかとわくわくしながら待っていたのに、10才以下はひとりもいなかった。
 せっかく今日は体調もよく、外で遊べそうだと思ったのに。
 あげく、退屈がった姉に無理矢理付き合わされて、お世話係の小月さんを巻いたと思ったら、今度は姉ともはぐれたのである。

 ただ今絶賛、自宅の庭で迷子中。
 泣きたい。

 そろそろ足も痛くなってきた。しゃがみたいけれど、こう植え込みばかりでは虫に刺されそうだ。
 広い場所を求めて歩き、しだれ桜の太い老木のところに出る。

 白い花を咲かせた枝が噴水のように広がり、地面に向かって垂れて咲いていている。
 きれいだ。
 ちょっと気分がよくなった。

 梨乃はきれいなものが好きである。体が弱くベッドから動けない時でも、そばに美しいもの、きれいなものがあれば平気な娘だ。
 そのため、梨乃の寝室にはこれでもかと様々な図録や写真集、置物、レースやリボンなどが集められている。

 だからといって自分を飾ることはしないのを不思議がられるのだが、残念ながら梨乃の審美眼において、自分の外見は落第なのだから仕方ない。

 痩せこけた体、青白い頬、低い背丈。どうしようもなく親似の姿。
 学校には自分より可愛い女の子が山ほどいるし、大体体が弱いから、1番長く着ているのはパジャマである。おしゃれの選択肢がない。それに、子どもとはいえおしゃれは、支度に結構な体力がいる。

 もう自分の姿なんか自分の視界にそう入らないのだから、みっともなくならなければそれでいいような気もして、梨乃は齢6才にして自分の容姿を早々に諦めてしまっていた。

 梨乃は体が弱く、やりたいと思ったこともできないことが多く諦めが早いのだ。
 姉は同じく病弱ながら、諦めてなるものかといろんなことにしつこく、父から「この子が男の子ならなあ」と嘆かれていた。
 姉みたいな男の子など、梨乃はごめんである。

 しばらくこの桜を眺めて休んでいこう。どこか、座るのにちょうどいい庭石でもないものかときょろきょろすると。

 先客がいた。

 黒い学生服を着た、少年と青年のあわいに立つひとが、姿勢もうつくしくしだれ桜を見上げていた。
 女の子かと思うようなきれいな顔をしているのに、立ち姿は静かで凛々しい。

 素敵な素敵な、王子様。
 あなたはだあれ。

 見つめているうちに胸が苦しくなった。梨乃はそっと、彼の顔が見えないうしろの方へ移動してみる。
 うん、ちょっとだけ楽になった。でもまだどきどきしている。

 どうしよう、話しかけたらどきどきしすぎて死んじゃうのではないだろうか。
 ああでもそうだ、自分は迷子だ。
 これを逃したら人が来ないかもしれない。それは困る。

「おにいちゃま」

 おそるおそる呼びかけると、ゆっくりときれいな顔が振り返った。眼差しが自分へ静かに注がれる。
 梨乃はスカートを握りしめた。

 今日の梨乃は、グレー地に水色の差し色が入ったジャンパースカートと白いブラウスを着て、レースのついた靴下、黒エナメルのストラップシューズを履いている。
 髪はよく寝込むためおかっぱだけれど、寝癖はきれいにしてもらったし、変なところはないはずだ。

「おねえちゃまがどこかへあそびにいってしまったの。おにいちゃま、りのといっしょにいてください」

 図々しいお願いだっただろうか、王子様はじっとこちらを眺めている。

 眺めている。

 返事もない。

 困った。

 梨乃はどこかに救いが転がってないかとそわそわ周りを見渡してから気付く。

「あっ」

 名乗ってなかった。

「わたしは、よわりのといいます。よわくないの、したのむすめです。あやしいひとではないです」
「よわりの……。梨乃お嬢様」
「はい!」

 美しいひとは声まで静かだ。その唇に自分の名前がのせられた嬉しさに、梨乃は深く頷く。
 彼はそばまで来て、優しく目を和ませた。
 わあ。
 王子様が笑った。すてき!

「僕は、坂藤卓といいます。中学1年です。梨乃お嬢様は、小学生でいらっしゃいますか」
「はい! いちねんせいになりました」

 すぐるさん。名前もすてき。
 柔らかく丁寧に話しかけてもらい、さらに王子様な印象が増して、梨乃は満面の笑顔になる。

 王子様はこちらへ屈み、梨乃のまなじりに長い指を伸ばした。王子様は手まできれいだなあと考えていると、触れる直前でピタリと止まり、ハンカチを出して改めて梨乃のまなじりの涙をぬぐってくれた。
 ひとりぼっちで歩いていたときに、涙ぐんでいたらしい。

 ハンカチの柔らかさ(ガーゼハンカチだった)、いいにおい、さらには触れてもらったという喜びで、一瞬、梨乃の頭が天国に行く。ハレルヤ!

「おひとりで、心細かったのですね。でも、ちゃんとお話しされて、ご立派だと思います。さすが小学1年生です」
「はい! いちねんせいです」

 そうなのだ、1年生は迷子だからとみっともなく泣きわめいたりはしない。小さなレディなのだ。誇りを持って返事をすると、王子様―――卓はくすりと笑った。

「僕でよいのなら、ご一緒しましょう」
「ありがとうございます、すぐるおにいちゃま」

 ああ嬉しい。このうつくしいひとと一緒にいられる。ポケットにハンカチを戻した彼へ、ドキドキしながら手を伸ばすと、当たり前のように手を繫いでくれた。

 梨乃より大きく、でも優しく、温かい手。

「えへへ」

 つい漏れてしまった梨乃の喜びの声に、王子様はこちらへ顔を向け、楽しげに微笑んだ。

 中学生にとって小1の子どもなど、一緒にいてもただの子守りでしかなかっただろう。しかし彼はまるで一緒にいることが嬉しいとでもいうように梨乃を大切に扱い、梨乃は見た目だけでなく彼が大好きになった。
 本当に、おとぎ話の王子様みたいなひとだった。
 それでも、幸せな時間には終わりが来る。

「すぐるおにいちゃま、ばいばい」

 小月さんに手を引かれながら梨乃は後ろ髪を引かれて振り向き、彼へ思いを込めて手を振った。

 王子様、王子様。
 梨乃のことを、忘れないでね―――。




 そして、梨乃のすぐるおにいちゃま漬けの日々が始まった。

「すぐるおにいちゃまは、りののおうじさま!」
「すぐるおにいちゃま、やさしくてすてきなの!」
「おとうさま、りのは、すぐるおにいちゃまにあいたい!」
「りの、すぐるおにいちゃまのおよめさんになる!」

 事あるごとに彼の名を呼び「すぐるおにいちゃまといっしょにいられる、おんなのこになりたいの」と、梨乃はいつもなら諦める苦手なことにも、進んでチャレンジするようになった。
 よい傾向だと喜ぶ家族の中、ひとり嘆いたのは父親だ。「梨乃ちゃんはお父様と結婚するって言ってたのに!」 と食欲がなくなるほどにショックを受けていた。

 しかし父は娘に甘い。
 体が弱く寝室から出られないことも多い愛娘のために、卓の情報をたくさん仕入れてきた。写真付きで。
 そのたび梨乃は父の膝の上に座り、写真を見ながら話を聞いた。

「陸上競技、走り幅跳びで入賞」
「すぐるおにいちゃま、かっこいい!」
「模試は今回も県内上位」
「すぐるおにいちゃま、あたまいい!」
「変わらずモテモテだが、女子に囲まれてもなびかない硬派」
「も、もて……?」

 梨乃のテンションが下がった。

 仕方がない、梨乃は卓といつも会えるわけではない。その間、女子に囲まれているのは、あれほどすてきなのだから当たり前だろう。
 ならば数少ない機会を大事にするのだ。

 年に何度かの世渡家主催の会で、梨乃は卓に、偶然を装いつつもまっしぐらに会いに行った。梨乃の王子様はそのたびに微笑んで、必ず最後まで一緒にいてくれた。

 そして。

「すぐるおにいちゃま」
「卓お兄さま」
「坂藤さん」

 年齢が上がるごとに呼び方も変わり、彼が世渡家の会社に入社し、よそよそしい呼び方になってしまった頃、梨乃と姉の真梨の婿についての話が出た。

『会社と世渡家の次代を任せられる、優秀な婿をふたりに』と。




「いやあ、県内の大学に進学してくれて助かったよ。頭がいいから、もっと上も狙えたはずだしね」
「息子には、地元枠で入社が有利になると伝えましたので」
「県外に進学されたら、梨乃が『私も行く!』って言い出しかねなかったからなあ」
「息子も梨乃お嬢様をお慕いしておりますから、何としてでも入り婿候補になるのだと、張り切っています」
「ライバルを倒すための協力者と、多彩な手段……はいいけど、これ手段を選んでないねえ」
「そこは、手を組んだ茂佐もさ君がフォローに回っているようです」
「入り婿が決定してからの経営を見越してるのは茂佐君の方か」
「息子の方は……」
「梨乃に近づく男は根絶やし? 若いね! でも嫌いじゃないな。それにさ、坂藤君」
「はい」
「ふたりを結婚させないと駆け落ちしそうだから、ぜひ卓君にはこのままがんばって……もらいたいんだ……」
「社長……ッ」


 水面下の配慮を知らぬまま、梨乃はただひたすら卓を応援し続け、彼が入り婿に決定したと聞いた瞬間。

「はうっ」

 幸福のあまり気を失った。

 そうして話は冒頭に戻る。




「お風呂、いただきました」

 声をかけ、バスローブ姿で寝室へ入る。同じくバスローブ姿でベッドの横に立っていた卓は、ゆっくりとこちらへ振り返った。

 出会った頃のうつくしい印象は変わらず大人になった彼の、その端正な姿にぞくぞくする。
 広い背中、細い腰、バスローブからのぞける首筋から胸元にかけてのライン、裾から出ている長い足のふくらはぎ。
 大人の色気に当てられて、腰砕けになりそうだ。

 梨乃は、卓の横を通り過ぎ、ベッドへ座った。
 ああ、これから、自分は本当の意味でこのひとの妻になる。
 滅茶苦茶痛いらしいがかまわない。

「じゃあしましょうか」
「!?」

 梨乃の言葉に卓はおどろいたようで、勢いよく振り向きこちらを見た。

「これからふたりでどうするのか、ご存じですか」
「ええと、夜の営みです」
「たとえばどんな」
「裸にむかれて、いやらしくて恥ずかしくてとてつもなく痛いことをされるのだと」
「えっ」
「夫婦は必ずすることだから、泣いても笑ってもどうにもならないので腹をくくれと言われました」
「ええっ」
「そのうち慣れるそうです……人間ってすごいですね」
「失礼ですがどなたからそれを」
「お姉様です」

 卓は瞑目した。
 何か間違ったことを言っただろうか、姉の言葉をちょっとだけオブラートに包んで言ってみたのだけれど。

「梨乃お嬢様」
「はい、ええと。卓さん」

 梨乃は、自分の前に立った卓を見上げた。大好きな王子様は、今まで見せたことのない熱のこもった目でこちらを見おろす。
 梨乃の、お腹の奥がきゅんとした。

「夫婦の営みは幸せなものだといいます。確かにはじめては痛いようですが、恋人たちの愛の営みでもあるのです」

 そうして卓は梨乃の前にひざまずき、左手をとった。手の甲に押しつけられた唇に、全身が甘くしびれる。

「ずっとずっと、お慕いしておりました。この14年、あなただけを想って生きてまいりました。残りの人生すべても、お嬢様へ捧げさせてください」

 梨乃の意識が一瞬飛んだ。

「重いですよね……申し訳ありません」

 気がつくと卓が憂い顔で何か言っていたが、梨乃はさっきの彼の台詞で頭がいっぱいだった。

「王子様が、王子様みたいな告白してくれるなんて……」
「えっ」

 結婚が決まってからも、卓は変わらず優しかった。今日の式も、花嫁姿の梨乃をそれはそれは褒めてくれたし、体調を考慮して早めに退場できるよう決めてくれていたのだ。

 でもそれは、政略結婚の相手への配慮であり、卓が優しいからではないかと、梨乃は思っていた。
 梨乃はこの14年間変わらず卓のことが好きだ。たとえ彼が社内の出世を求めて梨乃と結婚するのであってもいいと、そう思っていた。

 卓の心が自分にあるなんて、思ったことがなかったから。

「えっと。卓さんは。すぐるおにいちゃまは、私のことが好きなのですか」
「心の底から」
「わあ」

 手を握られたまま迷わず言われ、梨乃は空いた手で熱い頬をおさえる。
 もう死んでもいい。

「どうしよう嬉しい」
「お嬢様」
「すぐるおにいちゃまは、ずっと私の、王子様なんですよ?」
「えっ」
「大好きです♡」
「梨乃お嬢様……!!」
「わあ」

 卓に抱きすくめられ、ともにベッドへ倒れ込む。驚いて目を見開いたところを、そのまま組み敷かれくちづけをされた。

 王子様のキスだ……。
 ファーストキスの喜びに酔いながら目を閉じる。

 愛しいひとの唇が、何度も何度も梨乃の唇をついばむ。鼻にかかった甘い声が出る。恥ずかしい。
 唇が離れたのを感じ目を開けると、至近距離に卓の顔があった。その目は見たこともないほど甘い。

「可愛い……。梨乃お嬢様、好きです。あなたが好きです。どうぞ、身も心も私のものになってください」

 梨乃は愛しい王子様の首に腕を絡めた。

「なる。なります……。すぐるおにいちゃまも、私のに、なって」

 愛しい愛しい王子様。
 あなたのすべてを私にください。




「梨乃お嬢様、感じる声まで可愛い……」
「梨乃、あっ、梨乃って、言って、くださ……ああんっ」
「梨乃、好きだ、梨乃っ」

 バスローブをはだけられ、体中にキスをされ手のひらでなでられる。耳に絶え間なく「梨乃」「好きだ」とささやかれ、男を知らない梨乃の体は幸福感ではち切れそうだ。

 卓は梨乃の痩せて小さな体に触れながら「小さくて可愛い」「こんなに細い……」ととろけた声でささやくので、コンプレックスなどどこかに飛んでいってしまった。

 どこに触れられても気持ちいい。

「あ……っ!」

 彼の指先が梨乃の1番恥ずかしい場所に触れ、くちり、と濡れた音がした。
 恥ずかしさに目をぎゅっとつむっていると、ごそごそと何ごとか卓が動いている音がしてから、彼の指がぬめりを帯びてそこをなではじめた。

「あっ、やぁんっ、卓、さんっ、おにいちゃ、あああっ」

 くちっ、くちっ、くちっ、くちゅり。

 彼の長い指はひだをなぞり、潤むそこに指を沈め、快楽を梨乃の体へ教え込んでいく。慎ましやかに隠れる小さな突起まで触れられて、小さな体がびくびくと跳ねる。

「あっ、あ、ああっ、ひぃんっ」

 梨乃は卓から与えられる生まれて初めての快楽に、ひたすら啼かされて何もかもわからなくなる。

 気持ちいい。
 気持ちいい。
 気持ちよすぎて―――。
 なにか、くる。

「あ、だめ、こわい、こわい、なにか、や、だめ、だめ、あ、あ、ああああっ!」

 なにかはじけた。
 梨乃は、自分の中の卓の指を思い切り締めつけ、体をきゅうっと反らして果てた。
 1度ふるっ、と体を震わし、ベッドの上に脱力する。

 その体に卓が覆い被さってきた。互いの肌が擦れ合う気持ちよさに、身をよじりながら、梨乃はまだ整わない息で愛しい王子様を呼ぶ。

「すぐ、る、さん……?」

 片足があげさせられた。梨乃の濡れそぼったそこに、熱く硬いものが押しつけられる。
 ああ。
 いよいよだ。

「痛いと思います……きっと」

 上気した汗ばんだ肌、梨乃の病弱な体とは違う健康な男のしなやかな体。押しつけられたものは欲望にはち切れんばかりなのに、それでも、卓は自分を気遣ってくれる。

「そんなかお、しないで」

 いとしい。
 梨乃は手を伸ばして、憧れ続けた王子様の頬に触れる。

「はやく、すぐるさんの、およめさんに、して」

 姉は正しかった。
 貫かれる痛みはとてつもなかった。苦悶の声が勝手に梨乃の口から漏れる。
 けれど姉は、その痛みさえこんなに幸せなのだとは、教えてくれなかった。

「ひっ、あ゛あ゛っ、あ゛あ゛う゛、う゛う゛っ」
「梨乃、やっと、梨乃、梨乃っ。やっと叶った、好きだ、好きだ、あなたが、ああ、ずっと!」
「あ゛う゛、すぐ、すぐるさん、わた、わたしっ、わたしもぉっ!」

 苦悶の声をあげながら、梨乃は卓へ懸命に返事をする。卓は梨乃の足を離し、小さな体を抱いて突き上げる。中をこすられ、突かれ、かき回されながら、梨乃はひたすら彼にしがみついた。

「誰にも、渡したくなかった、絶対っ。梨乃、梨乃っ」

 いつもの静かな眼差しや、優しい声とは違う、情熱のこもった声が梨乃を呼ぶ。

 嬉しい。
 嬉しい。
 私の大事な、大好きな王子様。

「わた、しの、おうじっ、おうじさまっ、だいすきいっ」
「くっ、う、ううっ!」

 卓は梨乃の中でびくびくと震え、果てた。
 痛みと快楽と熱と愛しさに朦朧としながら、梨乃はつぶやく。

 すき。

 声にならなかったそれが届いたかのように、卓は梨乃の体をかき抱いた―――。


 ◇


「まあ、そんなことが」
「そうなんですよー、あれは大変だったなあ。そこの男の手段がきったなくて」

 2年前に姉の入り婿となった世渡射我――旧姓・茂佐――は、ソファーに腰掛けながら、梨乃の出した紅茶を飲み苦笑した。髪も服もくしゃくしゃなもさい男だが、人事と企画に長けており、姉は早くから彼に目をつけていたらしい。

 今はこんなに冴えない見た目だが、この男、身の回りに頓着しないだけでそれなりに見た目が整っている。
 そのため新郎としてきちんと装った際、花嫁姿の姉に「誰だお前!」と叫ばれ逃げられかけた、というのは有名な話だ。

 梨乃の姉は才能食いのイケメン嫌いである。

「競争相手も結局は同僚ですからねえ。あまりやらかすと職場が荒れる。そいつの尻拭いは大変でした」

 梨乃は彼の反対側、卓の横にお盆を抱いてちょこんと座った。その腰を長い腕が抱き寄せる。

「わあ」
「当たり前だろう。誰であろうが梨乃は渡さない」

 結婚してから、卓は梨乃への執着と嫉妬心を隠さなくなった。他の所では王子様のようなのは相変わらずだが、梨乃がからむととたんに暴君に変わる。
 その執着さえ梨乃には愛しいのだから愛というのは困ったものだ。

「大変でしたね、お義兄様」
「だめだ」

 引き寄せられて、細く小さな体の梨乃は気がつけば卓の膝の上へ乗っていた。
 後ろから抱きしめられる。

「そいつをお義兄様などと呼んではだめだ」
「でも、お姉様の――」
「あなたのおにいさまも、こいびとも、夫も俺だけでなければいけない。愛しいひと、お願いだから」
「卓さん」

 目の前で新婚のいちゃいちゃを見せつけられた男はぽりぽりと頬をかいてつぶやいた。

「あー、奥さん、連れてこなくてよかった……」



『入り婿志願者はお嬢様にメロメロです。』梨乃サイド
『お嬢様は入り婿王子にメロメロです。』 END

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