セフレのこいつは俺のことが好きらしい

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心を溶かす薬

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 セックスにそこまで意味がないことを知ったのは大人になってからだった。
 別にそこに愛はなくても身体を開くことはできる。受け入れることもできる。
 それを俺は虚しいなんて思わないし、それが生きていくために必要な人間だっている。

 だから、今日も俺はこの男に抱かれるのだ。

 俺のそこはもうこいつを受け入れる形になっている。どこをどう突けば俺が気持ちよくなれるのかも知っているのだ。



 「あっ、待って、ひかる、それダメ」


 「ここ?」


 「あ!んっ、」


 心なんていう曖昧なものはいらない。でも、そういう曖昧なものに振り回されるのが人間である。それは俺も例外ではない。
 だから、セックスは一番手っ取り早いのである。ただ、この男に身を委ねるだけでいい。

 ひかるの腰の動きは次第に複雑なものになり、それに合わせて自分の限界も近いことを悟る。


 「あっ、ひ、かる。もう、ダメ、あー」



 「んっ」


 同時に息を詰め、同時に果てた。この瞬間が一番気持ちがいい。
 俺はこいつの絶頂に達する瞬間の顔が好きだ。いつもは余裕そうな顔がこの瞬間だけは快楽に歪む。
 だから、自分が果てる時も絶対に目を閉じない。この男の顔を見るために。



 「何ニヤニヤしてんだよ」


 まだ少し息が上がっている。余韻の残る少しざらついた低い声でひかるはそう言って俺の鼻をつまんだ。
 

 これがいつものパターン。もう1ラウンドする場合もあるしそのまま疲れて眠る場合もある。今日は後者だった。

 俺はベッドから腕を伸ばして、テーブルの上にあるタバコと灰皿を引き寄せた。寝タバコは行儀が悪いが別に気にしない。案の定、ひかるも気にしない。


 ゆっくり煙を吸い込んで吐く。白い煙がゆるゆるとホテルの天井に向かってのぼっていく。
 ひかるは俺がタバコを吸うことを知っているのでいつも利用するホテルは喫煙ルームにしてくれている。それについて両者とも指摘したことはないが。



 「俺も一口ちょうだい」


 隣に座っているひかるが腕を伸ばし、俺のタバコを持っている手ごと自分に引き寄せた。
 ひかるのゴツゴツとした大きな手が俺の手首をつかむ。
 そのまま、一口吸い込む。そして吐く。ただタバコを吸う行為をひかるがすると妙に色っぽくなるのが不思議である。



 「まずい」


 そう一言つぶやいて、顔をしかめる。これもいつものことだ。一口をねだるくせに吸った後はまずいと言う。
 まずいなら吸わなければいいのに。
 俺の手を掴む大きな手が離れて解放された。一口かじられたたばこをまた自分の口元に持っていく。


 何となく、フィルターを噛んだ。そして、灰皿に押し込んだ。

 自然とあくびが出る。


 「眠い」
 

 俺はあくびと一緒につぶやいた。


 「相変わらず欲望に忠実なやつだな、お前は」


 「人間の根源的な欲求だろ?性欲が満たされ、そして寝る」


 俺は布団に潜り込んだ。ダブルベッドなので、俺よりも背も筋肉もあるひかるが隣にいても狭さを感じることはない。


 「おやすみ」


 「おやすみ」


 ひかるがそっけなく言う。俺はもう半分夢の中で、すぐに眠りに落ちた。



 
 夢を見た。誰かが俺を抱きしめて、頭を撫でている、そんな夢。大切なものを愛おしむような温かい手だった。
 俺をそんな手で撫でてくれる奴なんて現実にはいないからやっぱり夢なんだろうけど。
 でも、夢は夢だ。だから今は、今だけはこの手に委ねて眠ろう。
 優しい夢の中で俺は安心して身を任せた。
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