セフレのこいつは俺のことが好きらしい

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心を溶かす薬

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 冬の朝が綺麗なのはどうしてだろうかと、まだ半分寝ぼけた頭で俺は考えた。
 冬は空気が乾燥しているからだとか化学的な根拠はあるのだろうけど、そういうことじゃない。じゃあ、どういうことなのかと聞かれたら説明できないけれど。


 「悠」


 ホテルの薄いカーテンを通った朝の光はひかるを照らしている。
 ひかるは俺と違って、髪を整えてスーツを着ていた。いつものことだ。
 そういえば、ひかるとは何度も抱き合ったがこの男の寝顔を見たことがない。



 「早く起きろ」



 「起きてる」



 「半分寝てるだろ」



 寝癖をつけた頭で未だに白いシーツに包まっている俺を見て、ひかるは言う。
 朝は苦手なのだ。


 「ねむい、さむい…」


 
 「準備しないと遅れるぞ」


 
 ネクタイを締めながら、放たれた声は白いシーツに溶け込んでいく。
 分かっている。でも、もう少しだけこの気持ちのよいベッドに寝転がりたい。
 
 ネクタイをまっすぐ締めたひかるがゆっくりとベッドに近づく。
 俺の隣にひかるが腰を下ろし、ひかるの重さだけベッドが沈んだ。



 「…… 身体、大丈夫か?」


 ぶっきらぼうで、でも優しい声音でひかるが聞く。


 
 「うん、へいき」



 「そうか、ならいいんだ」



 二人で抱き合った次の日の朝、ひかるは俺に身体の調子を聞く。もはや、ルーティンだ。
 
 ある時、セフレなんだからそんなこと気にしなくていいと冗談混じりにからかってそう言ったことがあった。
 ひかるは黙り込み、そっぽを向いて何も言わなかった。
 だから、それ以降そのことについて何か言ったことはない。
 

 シーツ越しにひかるが俺の腰を撫でる。まるで子供をあやすように。別に痛くて起きられないわけではないのだけれど気持ちいいので何も言わない。

 ひかるは優しい。無表情でそっけない態度が冷たい印象を人に与える。無駄に背は高く、肩幅も広いので余計に近寄りがたい雰囲気があるのだろう。
 
 でも優しい。それは目に見える分かりやすい優しさじゃないけれど優しいのだ。



 「悠」


 ひかるが俺を呼ぶ。ひかるが呼ぶ「悠」が好きだ。自分の名前なんてちっとも好きじゃないけれど、この男が呼ぶならまあ、いいかと思える。
 
 
 シーツから顔を出して「なに?」と聞く。

 ひかるの手が伸びる。

 むにっと俺の頬をつまんだ。少しざらついた、硬い指が頬に触れる。



 「間抜けな顔」

 
 ひかるがふっと笑う。目尻に皺が寄って一気に柔らかい印象になる。ちょっとドキッとしてしまった。
 

 そっと、ひかるが俺の頬をつまむ手が離れて、「早く準備しろよ」と言ってひかるはベッドから離れた。



 
 

 「俺は先に出るから」

 部屋の入り口前で、ひかるが振り向いて言った。
 朝から会議があるらしい。

 
 「うん、気をつけて」


 「じゃあ、また」



 ひかるの後ろ姿を見送り、ドアがゆっくり閉まる。
 ひかるがいなくなっただけで部屋がとても静かになった気がする。もともと騒がしい男ではないので気のせいだろう。

 冬の朝は綺麗で、そして静かだ。

 光が優しく部屋を照らす。

 さっきまで居心地が良かった場所に冷たい風が入り込む。

 小さく身震いして、俺はやっと顔を洗うために洗面台に向かった。

 
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