セフレのこいつは俺のことが好きらしい

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心を溶かす薬

4ー2 (R)

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 最初は勢いよく俺の腕を引いていたが、やがてひかるの手は離れた。立ち止まる。


 「悪い」


 ひかるが何を謝っているのかわからなかったけれど俺は何も言えなくてただ俯くしかできなかった。


 「心配だから家まで送らせてくれ」


 酔いは先ほどよりも覚めていたから一人でも帰れたが、ひかるの声に力がなくて俺は頷いてしまった。
 何回もひかるとは抱き合っているが、家に招いたことはなかった。それはせめてもの線引きだったと思っている。俺たちはセフレだということの線引き。決して、超えてはいけない何かを示すみたいに。
 
 家はそう遠くない。電車で10分ほど揺られ、そこから5分ほど歩いた先のアパートの二階が俺の部屋だ。何の変哲もない、近くにコンビニがあるのが唯一の美点だろう。
 帰り道、お互い何も話さなかった。何を話していいか分からなかったのだ。


 家の前で鞄から鍵を取り出して、ドアを開けた。


 「じゃあ、早く寝ろよ」


 自分の役目は終わったとばかりにひかるが踵を返そうとした。
 
 え?もう帰るのか。まだ、もう少しだけでも…
 俺はひかるのコートの裾を掴んでいた。引き止めてどうするんだと内心自分で問いかけていた。


 「悠?」


 ひかるが不思議そうに俺を見る。
 コートを掴んでいる手を強く引っ張って、自分の部屋の玄関にひかるを引き込んだ。
 ひかるは突然のことに驚いている様子だ。


 「まだ、帰るなよ」

 ひかるは玄関の扉に背をつけたまま、俺を見下ろしている。
 俺は何をしたいんだ。どうしたい。これじゃ、ひかるを困らせているだけだ。
 何もまとまらないまま、言葉だけが俺を置き去りにして走る。


 「抱いて、ひかる。早く俺を抱いて、気持ちよくして」


 ひかるが目を見開く。玄関の明かりをつけていないせいで、お互いの顔ははっきり見えない。でも、それでよかった。抱いてだなんて普段だったら絶対に言えなかった。


 「お前、今日変だ。酔いすぎだぞ。俺は酔ってる奴を襲う趣味はない」



 「そうだよ、俺は酔ってる。明日には忘れてるかもしれない。だから、今日はめちゃくちゃに抱いてもいいんだよ。酷くしてもいい。セックスしよう、ひかる」

 
 早く、何も考えられなくなったらいい。このごちゃごちゃした感情をどうにかしたい。
 ひかるが息を呑んだのが気配で分かった。
 次の瞬間、俺とひかるの位置は変わり、俺が玄関扉に押し付けられていた。
 俺のコートを脱がせ、首元に唇を這わせた。


 「ちょっと、待って。せめてベッドで…」


 「無理、待てない」


 ひかるの手は性急に俺を脱がしていく。首元を強く吸われ、甘い電流が走った。
 

 「はっ、んっ…」


 ひかるはベルトに手をかけ、急かされるように脱がせようとする。ベルトが外れると、下着ごとズボンを下げられた。
 自分の昂りをひかるの前で晒す。羞恥心に手で隠そうとするとその手を押さえられた。

 「ダメだ、隠すな。お前が、煽ったんだ。」

 
 ひかるが俺の中心に顔を寄せる。あっと思う間もなく、昂りをひかるが口に含んだ。
 熱い。ひかるの口内はひどく熱く、腰が震える。


 「あっ!ダメ、あっ、ん、」


 ここは玄関だ。あまり声を出すと聞こえてしまうかもしれない。でも、口を押さえても我慢できなかった。
 ひかるの口淫は次第に深くなる。静かな玄関でその音はよく響き、自分の耳を刺激する。


 「あっ、無理、そんなにしたら出ちゃう。んっ、もう…」

 逃げようとしても、腰をしっかりと押さえつけられて逃げられない。
 強い刺激に我慢できず、果ててしまった。ひかるの口内に出してしまったのだ。


 「っ、ごめん」


 ひかるの喉仏がゴクリと動く。まさか。飲んでしまったのだろうか。
 快感にいまだ腰が震えている。酔いがまだ残っているのか足に力が入らず、その場でしゃがみ込もうとした。


 「おっと」

 ひかるが俺を抱き止めた。


 「大丈夫か?」


 「うん、足に力が入らなくて」


 ひかるは一瞬黙り、やがて「つかまってろ」と言って俺を横抱きにした。
 驚いた。軽々と抱き上げてしまうのだ。抵抗する間もなく、玄関の上り框を超え、部屋の中に入る。
 その先にはベッドがあり、そこに俺を下ろし、シーツをかけた。


 「もう、本当に寝てくれ」


 「でも、まだひかるが…」


 「俺はいいから」


 ひかるの顔を見上げるが、酔いが回ってきたのか視界が歪み始める。眠気が一気に俺を襲う。
 ひかるの手がシーツ越しに俺を撫でるのが分かった。すぐに眠りに落ちた。






 
 唇に何かが触れる感触がした。まだ、眠気でぼやけた頭で、でもこれは夢ではないと確信していた。
 すぐ近くにひかるの顔がある。今ひかるは俺にキスをしたのだろうか。
 ひかるはすぐに離れて、ベッドのすぐ脇に座り込んでいる。深く、俯き表情が見えない。


 「……すきだ、すきだよ悠」

 
 聞き逃してしまいそうなほど頼りない小さな声が部屋の中に落ちた。
 好き。俺のことを好きだと言ったのだ、ひかるが。


 「ずっと好きだ。こんなことするのもお前だけなんだ」


 俺だけ?ひかるは俺のことが好きでセックスをするのも俺だけだと言っているんだろうか。
 ひかるはそれ以上は何も言わず、しばらくすると立ち上がって、玄関の方へ行く気配がした。帰るのだろう。
 
 ひかるの声が、言葉がずっとこの部屋を甘く満たしている。
 嬉しいと思ってはいけない。俺とひかるはセフレで、恋愛感情はあってはいけない。恋とか愛とかそういう心で動くものをずっと避けてきたのだ。ずっと、心なんて意識しないためにひかるの身体を重ねてきた。
 なのに、今胸が痛いのはどうしてだろう。これは、心が動いているとは言わないか。
 心に振り回されないためにしてきたのに、俺はずっと今も心に振り回されている。
 ひかるがずっと心に住みついていた。もう、どうしようもなかった。
 

 
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