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特別な心
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しおりを挟むひかるの家に向かう道中はお互い何も話さなかった。話したいことはたくさんあったが何から話せばいいのか分からなかったのだ。ひかるの背中は大きくて、早く抱きしめてほしい、抱きしめたいとそんなことばかり考えていた。
「一番最初にお前の誤解を解きたい。えっと、俺が結婚するって?」
俺とひかるはテーブルを挟んで向かい合った。
「うん」
「あのな、俺は結婚しない。というか、どこから結婚するなんて出てきたんだ?」
「それはー」
後輩から聞いた話をひかるに説明した。
ひかるはため息をつきながら口を開いた。
「あーなるほど。そういうことか。えっと、そのジュエリーショップにいた女性の方は俺の姉貴だ」
「……お姉さん?」
「そう、姉。3月に姉貴が結婚するんだ。その日は相手の人と指輪を見に行く約束だったらしいんだが、仕事で行けなくなったらしくてな。それで、半分荷物持ち要員として姉貴に連れられて指輪を下見に行っただけなんだ」
「それだけ?」
「それだけだ」
「ひかる、結婚しない?」
「結婚しない」
大きなため息が出た。ひかるが結婚しないと分かった途端に、ずっと強張っていた体から力が抜けた。
「ごめん、なんか勘違いして」
「いや、こっちこそ不安にさせて悪かった。ただ、俺は少し怒っている」
「え?」
「会社で言ってたよな、愛人でいいとか、何番目でもいいからそばにいてとか?」
冷静になって初めて自分がどれだけ恥ずかしい発言をしたのかに気づいた。一気に熱が顔の中心に集まる。
「あのな、悠。俺はもともと身体だけの関係とかそういう割り切った関係は好きじゃない。俺は本気で惚れた奴しか抱かない」
「惚れた奴?」
「ああ。ずっとお前のことが好きだった。最初からずっと。でもお前は恋とか愛とかはいらないって言うし、セックスだけでいいなんて言う。俺はもっとお前に自分のことを大切にしてほしかった。悠と俺は考え方が根本的に違うって分かってたんだ。でも、俺は諦められなかった」
ひかるが俺の手を握る。その手が冷たくて少し震えている気がした。
「お前のこと抱きたいって思った。お前はそうじゃなくても俺はお前のこと好きだったから。だから、セフレっていう関係が出来ればお前と一緒にいられるかもって思ったんだよ。自分でも最低だって分かってる、本当にごめん」
ひかるの冷たい手を握り返した。ちゃんと気持ちが伝わるように。
俯くひかるに声をかけた。
「ひかる」
ひかるが顔を上げる。
「好き。好きだよひかる。恋なんていらないって思って俺を変えたのはお前だよ。お前のせいで俺めちゃくちゃだよ。気づいたらひかるのことばっかり考えちゃうしひかるといると楽しいのにそれ以上に苦しくて。でも、それが恋なんだって分かったんだ。お前は自分のこと最低だって言うけどこの関係がなかったら俺、ずっと一人だった。ひかるのおかげで今、すげー幸せだよ」
「悠」
「ひかる。俺、ひかると恋人になりたい。ずっとそばにいて。俺はひかるの隣にいる時が一番幸せだって気づいたから、だからーー」
ひかるの唇が重なる。ひかるの顔が近くにある。
「俺も悠が好きだ。大好きだ。恋人になりたい」
おでこをぶつけ、お互い笑い合った。ひかると俺は同じ気持ちなんだ。お互い好きで恋人。
恋人なんて自分には縁のない響きだった。なのに今はとても甘い響きで俺の胸を温かくする。
何度もキスを繰り返した。それはこれまでしたキスとは違う。恋人同士のキスだ。
キスの合間に好きを伝え合った。唇が痺れるくらいにたくさんキスをした。甘くて苦しくて幸せで俺はまた涙を流した。
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