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1章 出会い
またまた謎の茶色い袋
しおりを挟む袋の口は硬い紐で縛ってあった。これでもかというくらい巻き付いていて、なんどか結び目を引っ張ってみるが、なかなかほどけない。
「んー!ぜんっぜんほどけないや…。ひもを小刀で切ったほうが良いかも…」
お母さんは力持ちだったから、なにげなく縛ったのだろうけど、なにもこんなに固く結ばなくても良かったのに、と思ってしまう。こんなになっていると解くのが大変だ。
ニゲルは立ち上がるとその袋を持ったまま台所に行き、いつも使っている小刀を手にした。ぐるぐるに巻き付いている袋の紐をギコギコと切りつけ始める。かたい紐だからなかなか切れないが、ようやく一か所だけ切ることが出来た。
すると、何やら袋がモゾリと動いた気がした。
「…?」
びっくりして、手が止まってしまう。
「あれ?なんか…おっきくなった…?」
目の高さまで持ち上げてみると、やはり、ムクムクと、縦に横にと次第に次第に大きくなっている。
「うわっ」
気味が悪くなって手から離すと、床にガシャンと音がして落ちた。
「なに!?どうしたの??」
マリウスがひょこっと台所に顔をのぞかせた。
「これ、大きくなってる!」
ニゲルが床に落ちた袋を指さすと、袋の紐がブチブチと切れ始めた。
「うわあ!マリウスどうしようどうしよう!」
引き千切れるようなその音に合わせて、袋はさらにさらに大きくなっていく。あっという間にニゲルの膝丈まで膨らんでしまった。しかしまだまだ膨らんでいる。もこもこと存在感を放つ物体に、恐ろしくなって目が離せない。
「にいちゃん!とりあえず、離れて!」
マリウスの言葉に我に返るとニゲルは、後ろの、台所の炉を囲っている、一段高くレンガを積み上げてある炉台に飛びあがった。アーラもいつのまにかマリウスの背中からこちらをひょっこりのぞいている。
そして茶色い袋はよく破れないなと思うほど、両手で抱えきれないくらいパンパンに膨らんでいた。
3人が見つめるその袋がぐんっと大きさを増した時、それが合図だったかのように、口を結んでいた最後の紐がぶちん!と、どこか分からない方へちぎれ飛んだ。
「うわッ」
ビクッと飛んだモノを無意識に避ける動きをした3人に、袋は閉じていた口をベロンとめくれさせ、中身を見せてきた。
と同時に、一瞬でボワン!と中から毛のような布のような、茶色いような黒いようなよく分からないものが盛り上がって出てきた。それを目の当たりにして驚いていると、アーラが何を考えたのか、袋にかけ寄った。
「あ、これ見たことある~!」
「え!ちょ、ちょっ!」
待って!、そう言う間もなく、アーラは袋からそれをひっつかんで、あろうことか勢いよく引っ張り出してしまった。
「ああ!」
なんてことするんだ!どんなものが入っているかも分からないのに!
マリウスとニゲルはいつものように天真爛漫の度が過ぎるアーラに頭を抱えたくなった。
そんな兄たちの気持ちを知りもしない当の本人は両手でつかんだ布を高く掲げて広げた。
「これ、お母さんが付けてるの見たことある~!」
嬉しそうに広げた布を、今度はクルクル回りながら背中にかけた。
「何してんのさ!」
マリウスはぷんぷんと口をとがらせてアーラが背中にかけた布を分捕ると、あっちに向けたりこっちに向けたりして見分し始めた。
「にいちゃんこれ、何だろ?お母さんのかな。なんか外套みたい…」
近寄って見てみると、どうやら丈の長い茶色いローブのようだ。フードも付いている。しかし、大人用に見える。これでは、ニゲル達が着れば裾をズルズル引きずるようだ。袖も長すぎて手も出ないだろう。ところどころ焦げ跡のようなものがあったり、傷がついていたりするのをみれば、お母さんが使っていたのかもしれない。しかし、お母さんでもちょっと着るには大きいんじゃないかというくらい大きいローブだ。
「おにいちゃん、アーラ、これ欲しい!」
パッと顔を上げると、アーラは袋から毛の塊のようなものを出して首に巻き付けた。
「ちょっとアーラ!勝手に出したら危ないだろ!?」
思わず目をひん剥いてアーラを叱る。
「でも、あったかそうだったんだもん…」
それはどうやら毛で出来た防寒具のようだった。モフモフとした白と茶色い毛で作られた襟巻き。
アーラはすりすりと頬擦りしたり、手で満足そうに触っている。
「にいちゃん、なんかまだ入ってるよ?」
マリウスは袋をのぞきこんだまま、眉を寄せて首をかしげた。
「…なんだろ?光ってる…」
「え?見せて。また変なものかな?」
ニゲルは袋をのぞいた。たしかに底の方で何か青く光っている。日の光があたると光る、蛍石のようなぼんやりとした暗い光だ。
「ほたるいしかな?」
蛍石なら一度お母さんに見せてもらったことがある。その光具合によく似ているし、あれから一度も見ていなかったから、この袋にしまいこまれていたのだろう。そう思った。
そのせいか、注意もせずに、袋に手を入れ光の元を拾い上げた。
「熱ッ!!」
とっさにバッと手を離し、それを落とす。
「な、なに?どうしたの!?」
すごく熱い。
指が火傷するかと思うほど熱い!
思わず指を抱えてうずくまる。持ち上げた瞬間、まるで熱い鍋を触った時のような痛み、熱さに襲われたのだ。
「めちゃくちゃ熱かった…!」
「大丈夫??」
しかし改めて指を見てみると、なんともない。赤くもなっていないし、腫れてもいない。皮がむけたかとおもうくらい熱かったけど、いつも通りだ。
「なんなの、これ」
しかし再び伸びきった袋をのぞきこんで、驚いた。
さっきまで一つぼんやりと光を放っていたその物体は、ニゲルが落とした時にバラバラになったのか、袋の中で光があちらこちらに飛び散り、小さく点々と光っている。
「今度はぼくが拾ってみる」
「けど、すごく熱いよこれ」
「大丈夫、熱かったら離す」
マリウスはさっき使ったふきんを取ってくると、袋に手を入れ、布越しに光る物体の一つを摘み上げた。
現れた親指ほどのそれをみて、ニゲルはやっぱりと思った。
「ほたるいしだ」
「ほたるいしって熱いの?」
「…わかんない…まだ、熱そう?」
「いや、全然。多分僕は手で触っても大丈夫」
そういうと、マリウスは素手でほたるいしのかけらをチョンとつついた。
「うん、大丈夫。熱くない」
それを聞いてニゲルは恐る恐る人差し指をかけらに近づけてみた。ビクビクしながらも、ほんの先っちょだけを、石に触れさせる。
「あ…大丈夫だ…」
「熱かったの、かんちがいなんじゃない?」
マリウスは疑問そうにニゲルを見ていたが、ニゲルはかんちがいなんかじゃないと思った。けれど、そう言われてしまうとよく分からなくなって首を捻った。
「…他にも何か入ってないか、袋をひっくり返してみよう」
マリウスにそういうと、アーラもモフモフの襟巻きをしたままニゲルのそばにきた。
3人で袋を囲むようにして座ると、ニゲルは茶色いそれを持ち上げ、ひっくり返して振った。
カラン、コロンと蛍石のかけらがあちらこちらに落ちて、転がる。そして、3つの腕輪がカツン、カランカランと音を立てて落ちてきた。
「うでわだ!」
マリウスは真っ先に手を出すと、そのお揃いのような色違いの腕輪の一つを拾った。
ニゲルも一番手前に転がってきた腕輪を手に取る。
すこしだけ赤みのある銀色で、薬指ほどの幅がある。口を広げて炎を吐く獅子が2つ。色違いの3つの石をはさむように向かい合っている。獅子の後ろには見慣れない文字が刻んである。サフィラスに見せてもらったあの紙に書いてあった文字にとても似ている。干からびたミミズが這ったような字だ。
「おにいちゃん…アーラはおにいちゃんのがいい…だめ?」
アーラがニゲルの手の中の腕輪を見つめて、ニゲルの顔を見上げた。
「あ、あぁ、いいけど、これ、3つあるから僕たち用に作ったのかな?なんか色違いに意味あるとかないよね…?」
マリウスを見やると、マリウスも腕輪に彫られた模様を凝視していたのか、ようやく顔を上げた。
「…さぁ…?どうだろ?フォークと同じで、お母さんが僕たちに色違いで作ったんじゃない?」
「けど、箱に現れた文字には3人でよく考えてねってあったから、なんか意味あるのかなって」
「まあ、フォークの色と同じものを選んだらいいんじゃない?それなら間違いじゃない気がする。アーラはもも色、僕は黄色、にいちゃんは青色」
マリウスはそう言って、持っている黄色に輝く銀の腕輪を手首にはめた。
「どう?」
よく分からない、あえて言うなら得意そうな顔だろうか。そんな顔でアーラにポーズをとって見せている。アーラも負けじとニゲルのもつ、もも色にかがやく銀の腕輪をパッととると、腕にはめ込んだ。
ニゲルは2人にならい、床に落ちたままの青い輝きを持つ銀の腕輪を拾い上げると、少しの間観察してから右手首にはめた。
「なんなんだろね、このおそろいの腕輪」
マリウスが腕輪をながめながらニゲルにたずねてきた。
そのときニゲルは、腕輪の文字を見て、これはサフィラスなら読めるのではないか、そう思っていた。
*****
少年少女のみなさん、いつも読んでくれてありがとう。(もちろん大人のかたも…!)
ほたるいしは実際にあります。
参考までに写真をのせました。
紫外線、太陽光が当たると発光する以外にも色々特徴があって面白い石です。色もさまざまで綺麗。
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