最後の魔導師

蓮生

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1章 出会い

翌日の朝

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 あくる日、ニゲルは朝早く目が覚めていた。

 ギリギリムリムリと歯ぎしりのうるさいマリウスが、自分の布団に進出してきたのだ。しかし、今日ばかりは都合が良かった。
 昨日の朝に別れてから、丸一日。
 あの狂暴きょうぼうな男の人とサフィラスは知り合いのようだったけれど、一体何者なのだろう。ニゲルを追いかけて剣を振り上げただけでなく、サフィラスにもひどい事を随分ずいぶん言っていた。いくら知り合いとはいえ、やっぱり無事かどうか分からない。昨日は来るなとは言われたが、今日はくるなとは言われていない。一刻いっこくもはやく沢に向かわなければ。
 ニゲルは急かされるように布団をはいで、部屋から出た。
 椅子や机を動かせばみんなが起きるのはわかっていたけど、まだ夜明けだ。起きたとしてもしばらく2人は布団からではしない。着替えをしてお水を一杯くんで飲むと、遠慮えんりょなくガチャンガチャン音をたてながら鍋を机の下から出して、椅子も引いた。
 出来た隙間に身体を四つん這いにして入れると、手を伸ばして玄関のカギを外す。扉の隙間から外に靴を投げると、床に着いていたひざと手のひらを動かして玄関から出る。
 ひんやりとした玄関前の丸石に腰掛けて、擦り切れた革靴に足を入れ、ひもをぎゅっと結んだ。立ち上がって外の空気を思いっきり吸い込む。
 まだひんやりとして、あたりも暗い。

 大丈夫だ。あの男の人には会わないはず。

 そう言い聞かせて足早に洞穴を出ると、何も持たずに走った。
 足元は薄暗くてあまり良く見えないけれど、慣れた道。ニゲルの足はペースを上げていた。怖いからか、どうにも自然と脚が早くなるのだ。何も考えずに沢を目指し、まもなく上り斜面に差し掛かるころ、山道に人影が見えた。
 こちらを向いて立っている。
 その背中に揺れる黒髪。
 サフィラスだ。

 考えるまでもなく、ニゲルは声を発していた。
「おはよう!無事だったんだね!」
 ダダっと斜面しゃめんを上がりかけ寄る。
「今日も早起きだな」
 サフィラスは朝霧あさぎりの中、白い息を吐きながら笑顔で頭をポンと触った。
 ニゲルも笑顔がこぼれてしまう。しかし、すぐに悲しい気持ちになった。サフィラスのこめかみには、あの男の人に突きつけられた剣でキズが付いていた。
「昨日はすごく心配したんだ…ごめんなさい…僕を助けるために…」
 サフィラスは笑顔をくずさなかった。
「なに、ニゲルが悪いんじゃない。あやまる必要なんてないよ。私の方こそすまなかった。怖い思いをさせたね…」
 悲しみを含んだ口調に顔を上げると、サフィラスはすまなかったともう一度いい、れていたほおをでてくれた。少しひんやりとした手だった。
「大丈夫!僕だって男だ。それに、これからはサフィラスの弟子になるんだから、これくらいガマンしないとね」
 本当はすごく怖かったが、自分を守ろうとしてくれたサフィラスを思うと、怖かったと泣きつくのはやめようと思った。
「そうか…許してくれてありがとう」
ニゲルの笑顔に、サフィラスもほほえむ。
「あのさ、あの男の人、あれからどうしたの?本当に退治したの??もう来ない??」
「ああ、追い払ったよ。しばらくは来ないだろう」
「知り合い?」
 その問いに、サフィラスは眉をしかめた。
「知り合いというより、、私に付きまとってるヤツだよ」
「え!なんで!」
「…まあ、その話は良いとして、沢に行くんだろう?」
「うん。けど、そうだな…ここまで来てるなら、うちの家に来ない?一度でいいから、妹や弟に会って欲しいんだ。それに聞きたいことが沢山あるし…」

「聞きたい事?」

 そうして一瞬いっしゅんいぶかしげな表情をしたが、ニゲルの腕にはめられた腕輪に気づいたのか、やや黙ってから、小さくうなずいた。

「わかった。では、ニゲルのうちへ案内してくれるかい?」

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