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5 春の奥様
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春。花が咲いて虫が飛んで寒かったり暖かかったりする春。
ウィニフレッドは都の中心地にある王立花園を散策していた。斜め後ろには侍女が付いている。多分離れた所に護衛が居るだろう。目に見える範囲には居ない。
歩いているのは石畳の小道。その両側に花壇がある。
花壇ごとに都に店を構える花屋がテーマを決めて花を植えている。見た事のない花があったり、よく見かける花が他の花と植えられ新たな魅力を出していたり、目に楽しくウィニフレッドは来てよかったと思っていた。
すっかり花に夢中になっていた時、花壇の隙間を縫ってマント姿の男が小道に出てウィニフレッドの前に立った。ウィニフレッドが男に視線を向けると同時に、その男はマントの前を広げた。
マントの中身は全裸。いや、靴下と靴は履いていた。
淑女たるもの動じてはいけない。ウィニフレッドは無表情できっぱりと変質者を一刀両断した。
「小さい」
変質者はフリーズした。見るからに高位貴族の婦人にそんな言葉を投げつけられるとは思ってもみなかったのだろう。
侍女は我に返ったようだ。後ろで動く気配がする。足音も聞こえる。護衛達だろう。
ウィニフレッドはとどめを刺そうとした。
「お」「奥様、お下がりください!」
護衛の声がしたと思ったら侍女がウィニフレッドの胴に腕を回し後ろに下がる。
せっかくとどめ刺すところだったのにと、ウィニフレッドはつまらなく思った。
護衛の声に負けずに最後まで言ってやればよかったか、そうしたらあの変質者に聞こえただろうか。
毅然と立ちながら頭の中ではぼんやりとウィニフレッドは考えていた。その間に呼ばれた警邏に変質者が引っ立てられていく。
がっくりと項垂れて連行される変質者がウィニフレッドの目に入った。
「捕まらないと思ったのかしら?あんなにがっかりしているなんて」
「奥様、それは違うかと思われます」
護衛の一人が答えてくれた。侍女はどこか遠くを見ている。
「捕まるのが分かっててあんな事をしたって事?」
「捕まる以前の話かと思われます。先ずはお屋敷に帰りましょう」
護衛はこれ以上食いつかれる前に話題を変えた。この話はこれ以上ここでしてはいけないのだとウィニフレッドは理解した。
「事情聴取はしないのかしら?」
「我らの一人が警邏と共に騎士団詰め所へ向かっております。
奥様からのお話が必要であればお屋敷で伺う事になるかと」
「そう。じゃあ帰りましょう。もっとお花を見ていたかったけど」
帰宅し、着替えて、はーやれやれとお茶をすすった。
こういう時は湯飲み茶碗の方がいいかも。作ってもらおうかなあ。こう両手で包むように持つのっていいよね、なんて考えていたら玄関が騒がしくなった。いつもより早く夫が帰って来たようだ。
「ウィニー!!」
やっぱり夫だった。迎えに出る間もなく部屋に飛び込んできた。
「不審者に遭遇したと聞いたが」
「不審者ではなく変質者よ?」
「どちらにしろ無事でよかった」
何故か知らないが抱きしめてきた。
どうした旦那。護衛が数人ついて来ていたのだから無事でない方がヤバいと思うよ。と思ったが黙っていた。
「大丈夫よ。実家の領地に古来から伝わるあの手の輩に効くという呪文を唱えたの」
嘘。前世の記憶だけど、説明する気はまったくない。
「呪文?」
「“小さい”」
「……ああ、うん。……それは……。なるほど……うん、効いていたな……。
でも古来からというのは嘘だろう?」
なんで嘘って分かったし。でもやっぱり効き目はあったんだ。項垂れていたのは呪文の所為なのね。なら猶更とどめを刺したかったなあ。
「とどめを刺し損ねたの。少し悔しいわ」
「とどめって何?」
また物騒な事を言い始めたとバーソロミューは身構えた。
「夫の方がお「やめて!!」」
本当はあの呪文も貴婦人が口にするのはどうかと思うのだが、効き目があったので禁止できない。今日のようにうっかり不審者を近づけてしまった場合捕縛までの時間稼ぎにはなると実証されてしまった。
バーソロミューは悩ましく思った。
ウィニフレッドの前世の記憶では、あの手の輩は「きゃー」と騒ぐと喜ぶから罵ってやるのがよいというのが通説であった。
あの手の輩を徹底的に甚振りたいウィニフレッドはあの一瞬で罵る言葉を沢山考えたが結局一言しか言えなかった。でもダメージが甚大だったらしいので善しとした。満足はしてない、とどめを刺せなかったから。
今度の休日にバーソロミューに付き合ってもらって、一撃必殺の呪文を開発しよう。
いい考えだと思ってバーソロミューに提案した。
断られた。
********************************
おまけ
ウィ「肉たたきがいいみたい」
バー「肉たたき?」
ウィ「鉄の立方体にとげとげがついてて、棒状の持ち手がついてるの」
バー「モーニングスターでいいのでは?」
ウィ「それは球体だから接地面積が違う」
バー「接地面積」ゾッ
ウィ「それかネギカッター」
バー「ネギカッター??」
ウィ「フォークの枝の内側が刃になってる感じで
ネギを細く切る道具だけど、それをこう」ジェスチャー
バー「やめて」ゾゾ~ッ
ウィ「何もしなければいい話よ」
バー「そうだけど」(どこでそんな知識を……)
ウィニフレッドは都の中心地にある王立花園を散策していた。斜め後ろには侍女が付いている。多分離れた所に護衛が居るだろう。目に見える範囲には居ない。
歩いているのは石畳の小道。その両側に花壇がある。
花壇ごとに都に店を構える花屋がテーマを決めて花を植えている。見た事のない花があったり、よく見かける花が他の花と植えられ新たな魅力を出していたり、目に楽しくウィニフレッドは来てよかったと思っていた。
すっかり花に夢中になっていた時、花壇の隙間を縫ってマント姿の男が小道に出てウィニフレッドの前に立った。ウィニフレッドが男に視線を向けると同時に、その男はマントの前を広げた。
マントの中身は全裸。いや、靴下と靴は履いていた。
淑女たるもの動じてはいけない。ウィニフレッドは無表情できっぱりと変質者を一刀両断した。
「小さい」
変質者はフリーズした。見るからに高位貴族の婦人にそんな言葉を投げつけられるとは思ってもみなかったのだろう。
侍女は我に返ったようだ。後ろで動く気配がする。足音も聞こえる。護衛達だろう。
ウィニフレッドはとどめを刺そうとした。
「お」「奥様、お下がりください!」
護衛の声がしたと思ったら侍女がウィニフレッドの胴に腕を回し後ろに下がる。
せっかくとどめ刺すところだったのにと、ウィニフレッドはつまらなく思った。
護衛の声に負けずに最後まで言ってやればよかったか、そうしたらあの変質者に聞こえただろうか。
毅然と立ちながら頭の中ではぼんやりとウィニフレッドは考えていた。その間に呼ばれた警邏に変質者が引っ立てられていく。
がっくりと項垂れて連行される変質者がウィニフレッドの目に入った。
「捕まらないと思ったのかしら?あんなにがっかりしているなんて」
「奥様、それは違うかと思われます」
護衛の一人が答えてくれた。侍女はどこか遠くを見ている。
「捕まるのが分かっててあんな事をしたって事?」
「捕まる以前の話かと思われます。先ずはお屋敷に帰りましょう」
護衛はこれ以上食いつかれる前に話題を変えた。この話はこれ以上ここでしてはいけないのだとウィニフレッドは理解した。
「事情聴取はしないのかしら?」
「我らの一人が警邏と共に騎士団詰め所へ向かっております。
奥様からのお話が必要であればお屋敷で伺う事になるかと」
「そう。じゃあ帰りましょう。もっとお花を見ていたかったけど」
帰宅し、着替えて、はーやれやれとお茶をすすった。
こういう時は湯飲み茶碗の方がいいかも。作ってもらおうかなあ。こう両手で包むように持つのっていいよね、なんて考えていたら玄関が騒がしくなった。いつもより早く夫が帰って来たようだ。
「ウィニー!!」
やっぱり夫だった。迎えに出る間もなく部屋に飛び込んできた。
「不審者に遭遇したと聞いたが」
「不審者ではなく変質者よ?」
「どちらにしろ無事でよかった」
何故か知らないが抱きしめてきた。
どうした旦那。護衛が数人ついて来ていたのだから無事でない方がヤバいと思うよ。と思ったが黙っていた。
「大丈夫よ。実家の領地に古来から伝わるあの手の輩に効くという呪文を唱えたの」
嘘。前世の記憶だけど、説明する気はまったくない。
「呪文?」
「“小さい”」
「……ああ、うん。……それは……。なるほど……うん、効いていたな……。
でも古来からというのは嘘だろう?」
なんで嘘って分かったし。でもやっぱり効き目はあったんだ。項垂れていたのは呪文の所為なのね。なら猶更とどめを刺したかったなあ。
「とどめを刺し損ねたの。少し悔しいわ」
「とどめって何?」
また物騒な事を言い始めたとバーソロミューは身構えた。
「夫の方がお「やめて!!」」
本当はあの呪文も貴婦人が口にするのはどうかと思うのだが、効き目があったので禁止できない。今日のようにうっかり不審者を近づけてしまった場合捕縛までの時間稼ぎにはなると実証されてしまった。
バーソロミューは悩ましく思った。
ウィニフレッドの前世の記憶では、あの手の輩は「きゃー」と騒ぐと喜ぶから罵ってやるのがよいというのが通説であった。
あの手の輩を徹底的に甚振りたいウィニフレッドはあの一瞬で罵る言葉を沢山考えたが結局一言しか言えなかった。でもダメージが甚大だったらしいので善しとした。満足はしてない、とどめを刺せなかったから。
今度の休日にバーソロミューに付き合ってもらって、一撃必殺の呪文を開発しよう。
いい考えだと思ってバーソロミューに提案した。
断られた。
********************************
おまけ
ウィ「肉たたきがいいみたい」
バー「肉たたき?」
ウィ「鉄の立方体にとげとげがついてて、棒状の持ち手がついてるの」
バー「モーニングスターでいいのでは?」
ウィ「それは球体だから接地面積が違う」
バー「接地面積」ゾッ
ウィ「それかネギカッター」
バー「ネギカッター??」
ウィ「フォークの枝の内側が刃になってる感じで
ネギを細く切る道具だけど、それをこう」ジェスチャー
バー「やめて」ゾゾ~ッ
ウィ「何もしなければいい話よ」
バー「そうだけど」(どこでそんな知識を……)
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恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
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