4 / 5
4 刺繡奥様
しおりを挟む
傷害致死と死体遺棄が確実なところ?前世の住んでた国なら十年前後くらいで出てくる案件だろうけど、如何せんここ異世界だし、前世に当てはめるなら近世ヨーロッパ辺りが近い時代だし。
ただの興味本位で訊いてみたウィニフレッドはバーソロミューの回答に驚いた。
「目の前で件の人形を焼却処分にした後、斬首刑」
その処罰が適正なのかどうなのかは分からないが、私情が入っている気がした。キャシーの実家がらみだろう。
実家……何処んちだったっけ?まあいいや。
「あらまあ。ルーサー、気が狂うんじゃないかしら」
まあ、気が狂ってもすぐにあの世行きなら別にいいわね。何がいいか分からないけど、と思っていたらバーソロミューも同じ事を言った。
「気が狂ってもすぐにあの世へ行くんだ。問題ないさ」
「…………」
思っても見なかったバーソロミューの言葉にウィニフレッドはぽかんとした顔で彼を見た。
「どうした?」
「いえ、同じ事を思ったのでびっくりしたの」
意外と気が合うというのはこういう事をいうのか。今更か。
毒された?どっちがどっちに?
考え込んでしまったウィニフレッドにバーソロミューが「ところで、それ」と指を指した先はウィニフレッドが鋭意制作中の刺繡だった。
「何を作っているの?随分と大きいね。刺繡?薔薇みたいだけど」
やっぱり気づかれた。薔薇みたいじゃなくて薔薇だ。百万本目指してるけど、縦千本横千本にしないと百万本も入らなくて、踵まであるロングなマントでも千本はきついかもしれないが横はギャザーかタックを寄せる仕様にすれば千本も可能かも、と計算しながら刺繡している。因みにまだ軌道修正は可能。
「あなたのマントの裏地にしようかと思って」
ちょっと戸惑いを見せつつ恥じらうように言ってみれば一瞬だけど夫の顔が赤くなった。
これはイケる!とウィニフレッドは思ったが、帰ってきた言葉は逆だった。
「妻手ずからの刺繡は嬉しいけど……薔薇はちょっとなあ……」
やっぱりそうか……。いや、予想はしてた。大の男に花柄だから。しかも小花模様だ。一センチの小花でも千個あれば十メートルだ。縦ならトレーン、横なら緞帳。ギャザーでもタックでも寄せるのが大変だ。そこは置いても裏地であることに一縷の望みをかけていたんだ。
でも大丈夫。第二案がある。にっこり笑顔で返答する。
「じゃあ、ドラゴンの刺繡にするわね」
うちの妻はどうして裏地に派手な刺繡をしたがるのか、バーソロミューは不思議だった。
結婚後に贈られたジャケットの裏には左右の前身頃に見事な刺繡が施されていた。獅子の。
うん、うちの紋章にいるね、獅子。と思ったのを覚えている。たまに着ているし、前を開ける事はないから別に困らない。
それでも裏地じゃなくて表でいいと思う。あと、もう少し小さめにお願いしたい。
「裏地なんだからそこまで立派な刺繡は要らないんじゃない?
むしろ表にしてほしいと言うか……」
拒否になるからバーソロミューは言葉に気を遣った。あと表地に刺繡してほしいのは本当。妻が刺繡した一品をさりげなく自慢したい気持ちであった。
言われてみれば確かに。裏地に刺繡したいのは何故だったか。
ウィニフレッドは考えた。
――――そうだ、粋ってやつをやってみたかったんだ。江戸時代の着物にあった。
あれ?それは派手な刺繡だったかしら?背中の真ん中に文字が入っていたかしら?
前世の記憶が混ざり合っているのをやっと自覚した。
「そうね、もっとさりげない模様にするわ。表地に」
バーソロミューは安心した。いや、まだか。妻の言う「さりげない」がどの程度か出来上がるまで分からない。後日確認せねばと決心した。
妻の突拍子もない言動は時々外でも発揮される。
今回のコネル家の事件でも、発端になったのは最初の噂話に「生きているのか」と呟いた自分の妻の言葉だと調査の過程で判明した。普通のお嬢様や奥方様ならそこまで考えが飛躍しない。
そもそもウィニフレッドを認識したきっかけが王子の婚約破棄宣言を笑いながら見ていた姿だった。周りの令嬢は驚いた顔か無表情だったのだが、彼女だけは全顔で笑っていた。扇で顔を隠してはいたが、隠しきれていなかった。そしてそこに惚れた。
その時々出現する突拍子もない言動からウィニフレッドは「奇矯夫人」と言われている。本人が知っているのかいないのか、そこは不明だが多分知っていると思われる。
「この人はこういう人と認識されれば多少変な事を言っても許されるものよ」と侍女に言っていたことがある。
幸いにして攻撃性はないので、まあ、害にはならないから……と、周囲は思っている。
夫のバーソロミューが少し毒されてきているような気もするのだが、仲がいいのは何よりだ。
ただの興味本位で訊いてみたウィニフレッドはバーソロミューの回答に驚いた。
「目の前で件の人形を焼却処分にした後、斬首刑」
その処罰が適正なのかどうなのかは分からないが、私情が入っている気がした。キャシーの実家がらみだろう。
実家……何処んちだったっけ?まあいいや。
「あらまあ。ルーサー、気が狂うんじゃないかしら」
まあ、気が狂ってもすぐにあの世行きなら別にいいわね。何がいいか分からないけど、と思っていたらバーソロミューも同じ事を言った。
「気が狂ってもすぐにあの世へ行くんだ。問題ないさ」
「…………」
思っても見なかったバーソロミューの言葉にウィニフレッドはぽかんとした顔で彼を見た。
「どうした?」
「いえ、同じ事を思ったのでびっくりしたの」
意外と気が合うというのはこういう事をいうのか。今更か。
毒された?どっちがどっちに?
考え込んでしまったウィニフレッドにバーソロミューが「ところで、それ」と指を指した先はウィニフレッドが鋭意制作中の刺繡だった。
「何を作っているの?随分と大きいね。刺繡?薔薇みたいだけど」
やっぱり気づかれた。薔薇みたいじゃなくて薔薇だ。百万本目指してるけど、縦千本横千本にしないと百万本も入らなくて、踵まであるロングなマントでも千本はきついかもしれないが横はギャザーかタックを寄せる仕様にすれば千本も可能かも、と計算しながら刺繡している。因みにまだ軌道修正は可能。
「あなたのマントの裏地にしようかと思って」
ちょっと戸惑いを見せつつ恥じらうように言ってみれば一瞬だけど夫の顔が赤くなった。
これはイケる!とウィニフレッドは思ったが、帰ってきた言葉は逆だった。
「妻手ずからの刺繡は嬉しいけど……薔薇はちょっとなあ……」
やっぱりそうか……。いや、予想はしてた。大の男に花柄だから。しかも小花模様だ。一センチの小花でも千個あれば十メートルだ。縦ならトレーン、横なら緞帳。ギャザーでもタックでも寄せるのが大変だ。そこは置いても裏地であることに一縷の望みをかけていたんだ。
でも大丈夫。第二案がある。にっこり笑顔で返答する。
「じゃあ、ドラゴンの刺繡にするわね」
うちの妻はどうして裏地に派手な刺繡をしたがるのか、バーソロミューは不思議だった。
結婚後に贈られたジャケットの裏には左右の前身頃に見事な刺繡が施されていた。獅子の。
うん、うちの紋章にいるね、獅子。と思ったのを覚えている。たまに着ているし、前を開ける事はないから別に困らない。
それでも裏地じゃなくて表でいいと思う。あと、もう少し小さめにお願いしたい。
「裏地なんだからそこまで立派な刺繡は要らないんじゃない?
むしろ表にしてほしいと言うか……」
拒否になるからバーソロミューは言葉に気を遣った。あと表地に刺繡してほしいのは本当。妻が刺繡した一品をさりげなく自慢したい気持ちであった。
言われてみれば確かに。裏地に刺繡したいのは何故だったか。
ウィニフレッドは考えた。
――――そうだ、粋ってやつをやってみたかったんだ。江戸時代の着物にあった。
あれ?それは派手な刺繡だったかしら?背中の真ん中に文字が入っていたかしら?
前世の記憶が混ざり合っているのをやっと自覚した。
「そうね、もっとさりげない模様にするわ。表地に」
バーソロミューは安心した。いや、まだか。妻の言う「さりげない」がどの程度か出来上がるまで分からない。後日確認せねばと決心した。
妻の突拍子もない言動は時々外でも発揮される。
今回のコネル家の事件でも、発端になったのは最初の噂話に「生きているのか」と呟いた自分の妻の言葉だと調査の過程で判明した。普通のお嬢様や奥方様ならそこまで考えが飛躍しない。
そもそもウィニフレッドを認識したきっかけが王子の婚約破棄宣言を笑いながら見ていた姿だった。周りの令嬢は驚いた顔か無表情だったのだが、彼女だけは全顔で笑っていた。扇で顔を隠してはいたが、隠しきれていなかった。そしてそこに惚れた。
その時々出現する突拍子もない言動からウィニフレッドは「奇矯夫人」と言われている。本人が知っているのかいないのか、そこは不明だが多分知っていると思われる。
「この人はこういう人と認識されれば多少変な事を言っても許されるものよ」と侍女に言っていたことがある。
幸いにして攻撃性はないので、まあ、害にはならないから……と、周囲は思っている。
夫のバーソロミューが少し毒されてきているような気もするのだが、仲がいいのは何よりだ。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
お母さんはヒロイン
鳥類
ファンタジー
「ドアマット系が幸せになるのがいいんじゃない」
娘はそう言う。まぁ確かに苦労は報われるべきだわね。
母さんもそう思うわ。
ただねー、自分がその立場だと…
口の悪いヒロイン(?)が好きです。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる