奥様は貴族社会に馴染んでいるように擬態している

おばあ

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4 刺繡奥様

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 傷害致死と死体遺棄が確実なところ?前世の住んでた国なら十年前後くらいで出てくる案件だろうけど、如何せんここ異世界だし、前世に当てはめるなら近世ヨーロッパ辺りが近い時代だし。
 ただの興味本位で訊いてみたウィニフレッドはバーソロミューの回答に驚いた。

「目の前で件の人形を焼却処分にした後、斬首刑」

 その処罰が適正なのかどうなのかは分からないが、私情が入っている気がした。キャシーの実家がらみだろう。
 実家……何処んちだったっけ?まあいいや。

「あらまあ。ルーサー、気が狂うんじゃないかしら」

 まあ、気が狂ってもすぐにあの世行きなら別にいいわね。何がいいか分からないけど、と思っていたらバーソロミューも同じ事を言った。

「気が狂ってもすぐにあの世へ行くんだ。問題ないさ」

「…………」

 思っても見なかったバーソロミューの言葉にウィニフレッドはぽかんとした顔で彼を見た。

「どうした?」

「いえ、同じ事を思ったのでびっくりしたの」

 意外と気が合うというのはこういう事をいうのか。今更か。
 毒された?どっちがどっちに?

 考え込んでしまったウィニフレッドにバーソロミューが「ところで、それ」と指を指した先はウィニフレッドが鋭意制作中の刺繡だった。

「何を作っているの?随分と大きいね。刺繡?薔薇みたいだけど」

 やっぱり気づかれた。薔薇みたいじゃなくて薔薇だ。百万本目指してるけど、縦千本横千本にしないと百万本も入らなくて、踵まであるロングなマントでも千本はきついかもしれないが横はギャザーかタックを寄せる仕様にすれば千本も可能かも、と計算しながら刺繡している。因みにまだ軌道修正は可能。

「あなたのマントの裏地にしようかと思って」

 ちょっと戸惑いを見せつつ恥じらうように言ってみれば一瞬だけど夫の顔が赤くなった。
 これはイケる!とウィニフレッドは思ったが、帰ってきた言葉は逆だった。

「妻手ずからの刺繡は嬉しいけど……薔薇はちょっとなあ……」

 やっぱりそうか……。いや、予想はしてた。大の男に花柄だから。しかも小花模様だ。一センチの小花でも千個あれば十メートルだ。縦ならトレーン、横なら緞帳。ギャザーでもタックでも寄せるのが大変だ。そこは置いても裏地であることに一縷の望みをかけていたんだ。
 でも大丈夫。第二案がある。にっこり笑顔で返答する。

「じゃあ、ドラゴンの刺繡にするわね」

 うちの妻はどうして裏地に派手な刺繡をしたがるのか、バーソロミューは不思議だった。
 結婚後に贈られたジャケットの裏には左右の前身頃に見事な刺繡が施されていた。獅子の。
 うん、うちの紋章にいるね、獅子。と思ったのを覚えている。たまに着ているし、前を開ける事はないから別に困らない。
 それでも裏地じゃなくて表でいいと思う。あと、もう少し小さめにお願いしたい。

「裏地なんだからそこまで立派な刺繡は要らないんじゃない?
 むしろ表にしてほしいと言うか……」

 拒否になるからバーソロミューは言葉に気を遣った。あと表地に刺繡してほしいのは本当。妻が刺繡した一品をさりげなく自慢したい気持ちであった。

 言われてみれば確かに。裏地に刺繡したいのは何故だったか。
 ウィニフレッドは考えた。
 ――――そうだ、粋ってやつをやってみたかったんだ。江戸時代の着物にあった。
 あれ?それは派手な刺繡だったかしら?背中の真ん中に文字が入っていたかしら?
 前世の記憶が混ざり合っているのをやっと自覚した。
 
「そうね、もっとさりげない模様にするわ。表地に」

 バーソロミューは安心した。いや、まだか。妻の言う「さりげない」がどの程度か出来上がるまで分からない。後日確認せねばと決心した。



 妻の突拍子もない言動は時々外でも発揮される。
 今回のコネル家の事件でも、発端になったのは最初の噂話に「生きているのか」と呟いた自分の妻の言葉だと調査の過程で判明した。普通のお嬢様や奥方様ならそこまで考えが飛躍しない。
 そもそもウィニフレッドを認識したきっかけが王子の婚約破棄宣言を笑いながら見ていた姿だった。周りの令嬢は驚いた顔か無表情だったのだが、彼女だけは全顔で笑っていた。扇で顔を隠してはいたが、隠しきれていなかった。そしてそこに惚れた。



 その時々出現する突拍子もない言動からウィニフレッドは「奇矯夫人」と言われている。本人が知っているのかいないのか、そこは不明だが多分知っていると思われる。
「この人はこういう人と認識されれば多少変な事を言っても許されるものよ」と侍女に言っていたことがある。
 幸いにして攻撃性はないので、まあ、害にはならないから……と、周囲は思っている。
 夫のバーソロミューが少し毒されてきているような気もするのだが、仲がいいのは何よりだ。
 
 
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