辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良

文字の大きさ
2 / 71
1章 訣別

01-2. 食堂での婚約破棄

しおりを挟む
「婚約を解消するのは構いませんけれど、ミラボー公爵は了承しておりますの?」
 こんな貴族の子女が通う学院の食堂で婚約に関する話をするのはどうかということと、食堂内にいる全員に聞こえるような怒鳴り声を響かせる無作法を気にしながら確認する。

 我が家の方はとっくに婚約解消の方に舵を切っているから、あとは相手方の考え方一つだ。未成年のジョルジュではなく、現当主の父親が了承しているのなら、滞りなくこの関係を終わらせることができるだろう。

「勿論だ。魔法結晶の採取量が減り、逆に周辺領での採取量が増えている今、オリオール伯爵家との婚約に意味はない」
「まあ、そうでしたの。でしたら正式に婚約解消をいたしましょう」
 私は微笑みながらジョルジュに応える。

 魔法結晶、文字通り魔法そのものが結晶化したものだ。
 それこそが私とジョルジュの婚約が整った理由に他ならない。

 魔石と違って中に蓄積された魔力を使い切った後、再び魔力を込めて使うことはできない使い切りの結晶体。
 閉じ込められている属性の魔力しか取り出せないため、それぞれの属性の魔法結晶を用意しなくてはいけないとか、取り扱いが難しく魔法制御に長けた人にしか使えないとか、魔石のように繰り返し使えないなど、使い勝手はかなり悪いものの、魔石の百倍以上という魔力量から需要は高い。

 成人男性の親指ほどの土属性の魔法結晶ひとつで、王宮を丸ごと補修と補強が可能だ。畑に使えば集落一つ分ほどの広さの畑が、数年に渡って滋味豊かな土地に変わる。

 魔法には五つの属性――火、水、風、土、聖があり、魔法結晶にも同じだけ種類がある。
 需要はあるけど数は少ない。鉱石や魔石のように鉱山から採掘できるようなものではないからだ。鉱脈など関係なく、時々、土の中から現れるものを採取するだけ。

 雨上がりに地面から顔を出しているかと思えば、炭鉱から石炭に混じって出てくることも。発見場所に統一性はない。
 一番多いのは国境付近の森の中で、雨上がりに結晶の一部が土から露出した状態で発見されることだ。

 その昔、大陸中を人々が往来していた時代があった。
 しかし二百年前、魔獣のスタンピードが大陸を蹂躙した。国が滅び人が死に絶えるかと思ったその時、とある神官が強大な魔力を練り結界を張ったことで、辛うじて人は生き延びた。

 その時の結界が限界を迎えて結晶化して飛び散ったものが、魔法結晶の由来だと言われている。
 だから魔法結晶は辺境で発見されるのだと。

 一大産地はその中でも国の南端に近い我が家、オリオール伯爵家の領地だ。
 それで国王が我が家と深い結びつきを持つために、同い年のジョルジュを婿入りさせようとしたのだった。

 しかし近年、オリオール伯爵領での魔法結晶の採取量はゆるやかに減っているのに対して、近隣の領地での採取量が増えている。私たちの婚約に旨みが無いと、王家が判断する程に。

 二人の婚約が清算されるのは時間の問題と言われていたから、申し出自体に驚きはない。
 まさか昼休みの食堂で言い出すとは思いもよらなかったけど。

「お前なんかに関わっていた自分が恥ずかしい! 今すぐ婚約破棄だ!」
「まあ、では今すぐ手続きに入りましょう! 午後の授業も昼食も後回しにして、できるだけ早く!」

 ミラボー公爵が了承しているということは、王家、ひいては国王が了承しているということ。
 遠慮することはない。

「今すぐ手続きを行いたいと思いますから失礼いたしますわ」
 私は晴れ晴れとした顔で言い切ると食堂を後にする。
 きっとすごく良い笑顔だったと思う。最近の憂鬱が前面に出ていた顔と違って。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

聖女でなくなったので婚約破棄されましたが、幸せになります。

ユウ
恋愛
四人の聖女が守る大国にて北の聖女として祈りを捧げるジュリエット。 他の聖女の筆頭聖女だったが、若い聖女が修行を怠け祈らなくななった事から一人で結界を敷くことになったが、一人では維持できなくなった。 その所為で西の地方に瘴気が流れ出す。 聖女としての役目を怠った責任を他の聖女に責められ王太子殿下から責任を取るように命じられる。 「お前には聖女の資格はない!聖女を名乗るな」 「承知しました。すべての責任を取り、王宮を去ります」 「は…何を」 「祈り力が弱まった私の所為です」 貴族令嬢としても聖女としても完璧だったジュリエットだが完璧すぎるジュリエットを面白くおもわなかった王太子殿下はしおらしくなると思ったが。 「皆の聖女でなくなったのなら私だけの聖女になってください」 「なっ…」 「王太子殿下と婚約破棄されたのなら私と婚約してください」 大胆にも元聖女に婚約を申し込む貴族が現れた。

冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!

山田 バルス
恋愛
婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!

【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi
恋愛
 若様がお戻りになる……  イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。  王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。  リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。  次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。  婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。  再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……   * 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました  そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

従姉妹に婚約者を奪われました。どうやら玉の輿婚がゆるせないようです

hikari
恋愛
公爵ご令息アルフレッドに婚約破棄を言い渡された男爵令嬢カトリーヌ。なんと、アルフレッドは従姉のルイーズと婚約していたのだ。 ルイーズは伯爵家。 「お前に侯爵夫人なんて分不相応だわ。お前なんか平民と結婚すればいいんだ!」 と言われてしまう。 その出来事に学園時代の同級生でラーマ王国の第五王子オスカルが心を痛める。 そしてオスカルはカトリーヌに惚れていく。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!

山田 バルス
恋愛
 王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。  名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。 だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。 ――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。  同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。  そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。  そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。  レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。  そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。

処理中です...