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1章 訣別
01-2. 食堂での婚約破棄
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「婚約を解消するのは構いませんけれど、ミラボー公爵は了承しておりますの?」
こんな貴族の子女が通う学院の食堂で婚約に関する話をするのはどうかということと、食堂内にいる全員に聞こえるような怒鳴り声を響かせる無作法を気にしながら確認する。
我が家の方はとっくに婚約解消の方に舵を切っているから、あとは相手方の考え方一つだ。未成年のジョルジュではなく、現当主の父親が了承しているのなら、滞りなくこの関係を終わらせることができるだろう。
「勿論だ。魔法結晶の採取量が減り、逆に周辺領での採取量が増えている今、オリオール伯爵家との婚約に意味はない」
「まあ、そうでしたの。でしたら正式に婚約解消をいたしましょう」
私は微笑みながらジョルジュに応える。
魔法結晶、文字通り魔法そのものが結晶化したものだ。
それこそが私とジョルジュの婚約が整った理由に他ならない。
魔石と違って中に蓄積された魔力を使い切った後、再び魔力を込めて使うことはできない使い切りの結晶体。
閉じ込められている属性の魔力しか取り出せないため、それぞれの属性の魔法結晶を用意しなくてはいけないとか、取り扱いが難しく魔法制御に長けた人にしか使えないとか、魔石のように繰り返し使えないなど、使い勝手はかなり悪いものの、魔石の百倍以上という魔力量から需要は高い。
成人男性の親指ほどの土属性の魔法結晶ひとつで、王宮を丸ごと補修と補強が可能だ。畑に使えば集落一つ分ほどの広さの畑が、数年に渡って滋味豊かな土地に変わる。
魔法には五つの属性――火、水、風、土、聖があり、魔法結晶にも同じだけ種類がある。
需要はあるけど数は少ない。鉱石や魔石のように鉱山から採掘できるようなものではないからだ。鉱脈など関係なく、時々、土の中から現れるものを採取するだけ。
雨上がりに地面から顔を出しているかと思えば、炭鉱から石炭に混じって出てくることも。発見場所に統一性はない。
一番多いのは国境付近の森の中で、雨上がりに結晶の一部が土から露出した状態で発見されることだ。
その昔、大陸中を人々が往来していた時代があった。
しかし二百年前、魔獣のスタンピードが大陸を蹂躙した。国が滅び人が死に絶えるかと思ったその時、とある神官が強大な魔力を練り結界を張ったことで、辛うじて人は生き延びた。
その時の結界が限界を迎えて結晶化して飛び散ったものが、魔法結晶の由来だと言われている。
だから魔法結晶は辺境で発見されるのだと。
一大産地はその中でも国の南端に近い我が家、オリオール伯爵家の領地だ。
それで国王が我が家と深い結びつきを持つために、同い年のジョルジュを婿入りさせようとしたのだった。
しかし近年、オリオール伯爵領での魔法結晶の採取量はゆるやかに減っているのに対して、近隣の領地での採取量が増えている。私たちの婚約に旨みが無いと、王家が判断する程に。
二人の婚約が清算されるのは時間の問題と言われていたから、申し出自体に驚きはない。
まさか昼休みの食堂で言い出すとは思いもよらなかったけど。
「お前なんかに関わっていた自分が恥ずかしい! 今すぐ婚約破棄だ!」
「まあ、では今すぐ手続きに入りましょう! 午後の授業も昼食も後回しにして、できるだけ早く!」
ミラボー公爵が了承しているということは、王家、ひいては国王が了承しているということ。
遠慮することはない。
「今すぐ手続きを行いたいと思いますから失礼いたしますわ」
私は晴れ晴れとした顔で言い切ると食堂を後にする。
きっとすごく良い笑顔だったと思う。最近の憂鬱が前面に出ていた顔と違って。
こんな貴族の子女が通う学院の食堂で婚約に関する話をするのはどうかということと、食堂内にいる全員に聞こえるような怒鳴り声を響かせる無作法を気にしながら確認する。
我が家の方はとっくに婚約解消の方に舵を切っているから、あとは相手方の考え方一つだ。未成年のジョルジュではなく、現当主の父親が了承しているのなら、滞りなくこの関係を終わらせることができるだろう。
「勿論だ。魔法結晶の採取量が減り、逆に周辺領での採取量が増えている今、オリオール伯爵家との婚約に意味はない」
「まあ、そうでしたの。でしたら正式に婚約解消をいたしましょう」
私は微笑みながらジョルジュに応える。
魔法結晶、文字通り魔法そのものが結晶化したものだ。
それこそが私とジョルジュの婚約が整った理由に他ならない。
魔石と違って中に蓄積された魔力を使い切った後、再び魔力を込めて使うことはできない使い切りの結晶体。
閉じ込められている属性の魔力しか取り出せないため、それぞれの属性の魔法結晶を用意しなくてはいけないとか、取り扱いが難しく魔法制御に長けた人にしか使えないとか、魔石のように繰り返し使えないなど、使い勝手はかなり悪いものの、魔石の百倍以上という魔力量から需要は高い。
成人男性の親指ほどの土属性の魔法結晶ひとつで、王宮を丸ごと補修と補強が可能だ。畑に使えば集落一つ分ほどの広さの畑が、数年に渡って滋味豊かな土地に変わる。
魔法には五つの属性――火、水、風、土、聖があり、魔法結晶にも同じだけ種類がある。
需要はあるけど数は少ない。鉱石や魔石のように鉱山から採掘できるようなものではないからだ。鉱脈など関係なく、時々、土の中から現れるものを採取するだけ。
雨上がりに地面から顔を出しているかと思えば、炭鉱から石炭に混じって出てくることも。発見場所に統一性はない。
一番多いのは国境付近の森の中で、雨上がりに結晶の一部が土から露出した状態で発見されることだ。
その昔、大陸中を人々が往来していた時代があった。
しかし二百年前、魔獣のスタンピードが大陸を蹂躙した。国が滅び人が死に絶えるかと思ったその時、とある神官が強大な魔力を練り結界を張ったことで、辛うじて人は生き延びた。
その時の結界が限界を迎えて結晶化して飛び散ったものが、魔法結晶の由来だと言われている。
だから魔法結晶は辺境で発見されるのだと。
一大産地はその中でも国の南端に近い我が家、オリオール伯爵家の領地だ。
それで国王が我が家と深い結びつきを持つために、同い年のジョルジュを婿入りさせようとしたのだった。
しかし近年、オリオール伯爵領での魔法結晶の採取量はゆるやかに減っているのに対して、近隣の領地での採取量が増えている。私たちの婚約に旨みが無いと、王家が判断する程に。
二人の婚約が清算されるのは時間の問題と言われていたから、申し出自体に驚きはない。
まさか昼休みの食堂で言い出すとは思いもよらなかったけど。
「お前なんかに関わっていた自分が恥ずかしい! 今すぐ婚約破棄だ!」
「まあ、では今すぐ手続きに入りましょう! 午後の授業も昼食も後回しにして、できるだけ早く!」
ミラボー公爵が了承しているということは、王家、ひいては国王が了承しているということ。
遠慮することはない。
「今すぐ手続きを行いたいと思いますから失礼いたしますわ」
私は晴れ晴れとした顔で言い切ると食堂を後にする。
きっとすごく良い笑顔だったと思う。最近の憂鬱が前面に出ていた顔と違って。
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