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1章 訣別
02-2. 婚約破棄の翌日
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翌日、辞めたいと思っていても未だ在籍しているのだからと、溜息をつきながら登校した。
朝からなんとも憂鬱だった。
教室は居心地が悪すぎた。きっと食堂も同じだろうと思ったから、昼休みは裏庭でのんびりすることにした。元々、こうなることを予想して、昼食用に家からバスケットを持参したから食事を抜くことはない。昨日の婚約破棄騒動は半日で学院中の誰もが知ることとなり、普段から多い陰口がいっそう酷くなった。
教師の黙認もいつものこと。授業中に背後から物を投げられてもしらんぷりだ。
結界を張っているから私には被害がないけれど。
でも攻撃した相手に反射するよう結界を張っているから、周囲には被害が出て騒ぎになった。元は魔獣討伐のときに襲ってきた魔獣が跳ね返って、群れに被害が出るようにしたものだ。まさか王都、しかも学院の教室で役に立つとは思ってもみなかった。辺境人は野蛮だ何だと言っておきながら、後ろから物を投げつけるなんて、中央貴族も大概野蛮だ。
――こんなときクロヴィスがいてくれたら……。
オリオール家の寄り親であるフォートレル辺境伯家の次男で、二歳年上の幼馴染を想う。
私を甘やかすお兄様よりもお兄様らしいクロヴィス。
まだワイバーンに乗れなかった頃、よく乗せてもらった大切な幼馴染。
――もしジョルジュではなくクロヴィスと婚約していたら、こんな思いをしなくて済んだのに……。
お父様は元々、フォートレル辺境伯家の兄弟どちらかを、私の婚約者にしたかったらしい。周囲の思いを汲んでいればと、今なら言える。けれど四歳の私は、中央貴族との婚約が十年後に不幸を招くとは、思ってもみなかった。
選んだのは自分なのだから誰のせいでもないけど溜息が出てしまう。学院はあと一年半、でもこんな空気の中で精神が持たないかもしれない。
――はあぁぁぁぁ……。
朝から何度目かの溜息。
幸せが逃げると言われても、どうしたら良いかわからないくらい憂鬱だ。
昨日、お兄様からは「お父様と相談する」としか言われなかったけど、午後の授業も同じくらい居心地が悪いようだったら、明日から学校を休もうかと思う。
美味しいはずの食事もさっぱり味がしない。
でも食べなければ帰るまで体力が持たないと思って頑張って完食した。
教室に戻りたくない。このまま帰りたい。
教室に荷物が置いてあるから、一度は戻らないといけないけど。
……嫌だけど戻るかなあ。
のそのそと立ち上がり、ゆっくりとした足取りで教室に戻っている最中だった。
「あら、浮気されて捨てられた女がいるわ!」
声の方を見れば、カミラが友人たちといた。
お兄様の婚約者であるカミラは私よりも一歳上で、半年先の卒業直後に結婚する予定だ。
中央貴族による魔法結晶の利権に絡んだ強引な見合いだったが、見目の良いお兄様に一目惚れしたカミラが積極的に行動した結果、婚約に至ったという経緯がある。
私が当主になった後もオリオール伯爵領に残るお兄様は、中央貴族のお嬢様に辺境暮らしは無理だろうと断ったのだけど、諦めきれないカミラは辺境暮らしに慣れるとばかりに休暇を利用して我が家に滞在し、努力をした結果だった。婚約者の座を射止めたときは涙を浮かべて喜んでいた。
そんなカミラが私に暴言を吐くとは思わなかった。割と仲が良いと思っていたし、何より義理の姉になる人だからだ。
私は急いでお兄様との通信魔法を開始する。自分がお兄様の立場だったら、婚約者のことを知りたいと思ったのだ。
「そうね、ここは居心地は悪いわね、カミラ」
「あなたは実家でも居場所が悪いでしょうよ、だって私が嫁ぐのだもの。領地でも居場所は無くなるわよ、追い出してやるんだから」
「追い出されるのはあなたのほうだけどね。私を領地から追い出すなんて無理だもの。私の住む家にいられないというのなら、お兄様との結婚は諦めるのね」
「生意気なのよ、婚約を破棄された傷物のクセに!」
そう言って私を突き飛ばそうとしたけれど、私に触ることは叶わない、結界があるもの。
「言いたいことがそれだけなら、お兄様に伝えておくわ」
そう言って彼女から離れた。
結局、午後の授業には出なかった。
食事の後、教室に荷物を取りに行っただけで、そのまま帰宅したからだ。
いつもより早く帰宅した私を、侍女のリリーは優しく受け入れてくれる。
「お疲れ様でした。嫌なら辞めてしまえば良いんです。どうせ辺境にとって有益なことよりも不利益の方が多い場所なんですから」
「そうよね、勉強だけなら領地でもできるもの。通っている理由だって、わざわざ波風を立てないようにという理由だけなのだし」
結局、私は一人の友人もできなかった。お兄様たちだって、二人か三人友人がいたくらいだ。お母様のときも私と同じで、辺境人を莫迦にする中央人が嫌だったし、通うことに意義を見いだせなくて、一年半で中退したと聞いている。叔父様に至っては半年で中退したらしい。
そんな事情もあるから、私の意志は尊重されるだろう。
朝からなんとも憂鬱だった。
教室は居心地が悪すぎた。きっと食堂も同じだろうと思ったから、昼休みは裏庭でのんびりすることにした。元々、こうなることを予想して、昼食用に家からバスケットを持参したから食事を抜くことはない。昨日の婚約破棄騒動は半日で学院中の誰もが知ることとなり、普段から多い陰口がいっそう酷くなった。
教師の黙認もいつものこと。授業中に背後から物を投げられてもしらんぷりだ。
結界を張っているから私には被害がないけれど。
でも攻撃した相手に反射するよう結界を張っているから、周囲には被害が出て騒ぎになった。元は魔獣討伐のときに襲ってきた魔獣が跳ね返って、群れに被害が出るようにしたものだ。まさか王都、しかも学院の教室で役に立つとは思ってもみなかった。辺境人は野蛮だ何だと言っておきながら、後ろから物を投げつけるなんて、中央貴族も大概野蛮だ。
――こんなときクロヴィスがいてくれたら……。
オリオール家の寄り親であるフォートレル辺境伯家の次男で、二歳年上の幼馴染を想う。
私を甘やかすお兄様よりもお兄様らしいクロヴィス。
まだワイバーンに乗れなかった頃、よく乗せてもらった大切な幼馴染。
――もしジョルジュではなくクロヴィスと婚約していたら、こんな思いをしなくて済んだのに……。
お父様は元々、フォートレル辺境伯家の兄弟どちらかを、私の婚約者にしたかったらしい。周囲の思いを汲んでいればと、今なら言える。けれど四歳の私は、中央貴族との婚約が十年後に不幸を招くとは、思ってもみなかった。
選んだのは自分なのだから誰のせいでもないけど溜息が出てしまう。学院はあと一年半、でもこんな空気の中で精神が持たないかもしれない。
――はあぁぁぁぁ……。
朝から何度目かの溜息。
幸せが逃げると言われても、どうしたら良いかわからないくらい憂鬱だ。
昨日、お兄様からは「お父様と相談する」としか言われなかったけど、午後の授業も同じくらい居心地が悪いようだったら、明日から学校を休もうかと思う。
美味しいはずの食事もさっぱり味がしない。
でも食べなければ帰るまで体力が持たないと思って頑張って完食した。
教室に戻りたくない。このまま帰りたい。
教室に荷物が置いてあるから、一度は戻らないといけないけど。
……嫌だけど戻るかなあ。
のそのそと立ち上がり、ゆっくりとした足取りで教室に戻っている最中だった。
「あら、浮気されて捨てられた女がいるわ!」
声の方を見れば、カミラが友人たちといた。
お兄様の婚約者であるカミラは私よりも一歳上で、半年先の卒業直後に結婚する予定だ。
中央貴族による魔法結晶の利権に絡んだ強引な見合いだったが、見目の良いお兄様に一目惚れしたカミラが積極的に行動した結果、婚約に至ったという経緯がある。
私が当主になった後もオリオール伯爵領に残るお兄様は、中央貴族のお嬢様に辺境暮らしは無理だろうと断ったのだけど、諦めきれないカミラは辺境暮らしに慣れるとばかりに休暇を利用して我が家に滞在し、努力をした結果だった。婚約者の座を射止めたときは涙を浮かべて喜んでいた。
そんなカミラが私に暴言を吐くとは思わなかった。割と仲が良いと思っていたし、何より義理の姉になる人だからだ。
私は急いでお兄様との通信魔法を開始する。自分がお兄様の立場だったら、婚約者のことを知りたいと思ったのだ。
「そうね、ここは居心地は悪いわね、カミラ」
「あなたは実家でも居場所が悪いでしょうよ、だって私が嫁ぐのだもの。領地でも居場所は無くなるわよ、追い出してやるんだから」
「追い出されるのはあなたのほうだけどね。私を領地から追い出すなんて無理だもの。私の住む家にいられないというのなら、お兄様との結婚は諦めるのね」
「生意気なのよ、婚約を破棄された傷物のクセに!」
そう言って私を突き飛ばそうとしたけれど、私に触ることは叶わない、結界があるもの。
「言いたいことがそれだけなら、お兄様に伝えておくわ」
そう言って彼女から離れた。
結局、午後の授業には出なかった。
食事の後、教室に荷物を取りに行っただけで、そのまま帰宅したからだ。
いつもより早く帰宅した私を、侍女のリリーは優しく受け入れてくれる。
「お疲れ様でした。嫌なら辞めてしまえば良いんです。どうせ辺境にとって有益なことよりも不利益の方が多い場所なんですから」
「そうよね、勉強だけなら領地でもできるもの。通っている理由だって、わざわざ波風を立てないようにという理由だけなのだし」
結局、私は一人の友人もできなかった。お兄様たちだって、二人か三人友人がいたくらいだ。お母様のときも私と同じで、辺境人を莫迦にする中央人が嫌だったし、通うことに意義を見いだせなくて、一年半で中退したと聞いている。叔父様に至っては半年で中退したらしい。
そんな事情もあるから、私の意志は尊重されるだろう。
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