辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良

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1章 訣別

26. 国作り

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「全部、終わったのね」
 第一城壁から作ったばかりの崖を眺める。二つの城壁よりも高くそびえ立ち幅もあり、台地と言っても良いような地形だ。

 防衛線は大幅に領地から遠ざかり、人為的な森林火災を気にする必要もなくなった。崖の西端は森の端と重なる程度とはいえ、川が作った急峻な地形と相まって、危険視するような状況にはない。東端は海までだけど、こちらも海中に棲息する魔獣の影響で船を出せないから、中央側が空路を行く手段を手に入れるまでは安全だろう。

「カミラは中央に帰りたいかと思ってたけど、結局ジャックと二人して残ったのは意外だったわ」
 二人は互いに相手が辺境に残っているのは知らない。特に聞かれなかったから言わなかった。元々、義理の姉弟になるかもしれないという程度の関係であり、顔見知りではあるけど友人と言って良いのかわからない程度の付き合いだったから。

「俺たちが独立したから、以前以上に中央で居場所がないんだろうな」
「そうかもしれないね……」

 辺境わたしたちは独立した結果、中央という存在がなくなったのに辺境を名乗るのはおかしいし、旧国名であり続けるのもどうかという話になって国名を改めた。
 これから隣国と正式に付き合うことを念頭にしたものだ。

 新しい国の名はファルディス聖国。。かつて存在したファルディス教団から付けた名である。原初の森を信仰しつつも、宗教団体というより森の専門家としての専門家集団としての側面の強い団体だった。スタンピードの発生以降、急速に勢力を落とし自然消滅したが、かつての神官たちは辺境の家臣と形を変えながら、変わらず森の専門家であり続けた。

 現在の家臣たちは家長が全員、副伯と名目上も貴族階級になった。とはいえ領地はなく、仕えるのは国であり官吏という側面が強い。その中でも特に魔力量が多く魔法に長けた者が神官として行政に携わるのではなく、かつての森の専門家と同じような生業を専門に行う。初代オリオール伯爵が特級神官として所属していたところでもある。

 辺境伯二家とオリオール伯爵家は大公家になり、王を抱かず、国政は三家によって執り行われることになった。またオリオール伯爵家の当主はファルディス教団の大神官という立場も持つ。

 我が家は兄貴分のフォートレル辺境伯家の庇護下から独立した形になったけど、今までとあまり変わらないような気がする。

 行政は今までも実質独立した形で、三家の共同統治的な形で何ら問題が出ていなかったから、これからも継続していく。一度に全てをきっちり決めるのではなく、骨組みを作って運用して、問題があれば変えていく方針なので、独立以前と変わらないことの方が圧倒的に多い。

 隣国が今後どうなるかわからないから、今のようにキエザ辺境伯領とだけの付き合いが続くのか、正式に隣国と国交を結ぶのか、それともこちらと同じように隣国で辺境と呼ばれる地方が独立した後に、正式に付き合うのか未定だ。

「まさか国の頂点に立つなんて、ご先祖様も思っていなかったよね、きっと」
「そうだよなあ、元は子爵だったもんな」
 スタンピード以前、フォートレル家は辺境伯ではなく子爵だった。

 元の領地は魔獣に蹂躙されて森に呑まれたけど、異変にいち早く気付いた当時の領主や神官たちの助力があって、殆どの領民が東に逃げた。国の南部は特に被害が大きく平民だけでなく貴族の多くも命を落とし、複数の領地で統治者不在になった。結果、複数の領地をまとめて統治することになり、領地の大きさと森から国を守るという役割から辺境伯に陞爵(しょうしゃく)されたのだ。一応、隣国との間で国境を守るという意味合いもあったけど、森の脅威が大きすぎて隣国の件は取って付けた感がある。

「元子爵家の令嬢がうっかりすると女王になるところだったんだもの、吃驚だよね」
 そう最初は大公ではなくオリオール家の当主を女王と仰ぐ国にという案があったのだ。押したのはマンティアルグ辺境伯改めマンティアルグ大公。

 フォートレル大公と次代のセザールも賛同し、お父様と私が固辞してほかの二家と同列に収まった。女王なんて無理だからほっとしている。

「王都を出てから長かったけど、これで気持ちも落ち着くね」
「暫くは森に潜む敵兵を気にしないと駄目だけどな」

 非戦闘員であるカミラやジャックでさえ、森を越えて辺境に流れ着いたのだから、中央の将兵が森に潜伏するのは容易だろう。特に兵士狩りをしていないから実力があれば生き残れるだろう。

「北の森は少人数で入らないようにしないとね。村人が薬草を取りに行くのは不便かもしれないけど……。森に行けないってエーヴが泣いてたわ」

 想い人の件とは別に、年の離れた従妹は穏やかな気質で血を見るのを嫌う。敵兵が潜んでいるかもしれないと聞いただけで尻込みしてしまうのだ。

「西の森は危険度が高いし、南は少し遠いからな……」
 今まではワイバーンに乗らなくても気軽に行ける近場に行けないのは淋しい。可哀そうだと思うけど、直ぐにどうこうできるものではなかった。

「しばらくは南にでも誘おう」
 そう言ってクロヴィスは言葉を一旦区切った。

「小さなお姫様を案内するために、まずは我々だけで現地調査は如何でしょうか?」
 エスコートをするように手を差し出された。

「喜んで」
 自分の手を愛する人の手に乗せて笑みを返す。
 前線に行く姿を見送ったときとは違って、再び二人だけで森に向かえるのはこの上なく幸せだった。



__________________________________

本編完結です。
4月10日頃完結予定でしたが、実際には本編完結までしか書けませんでした。すみません(汗)
(現在2話目執筆中)

エーヴの初恋は、彼女が成人年齢になるまではお預けです。
(子供の気持ちに応えるのが、恋愛における大人の役割ではないと作者が思っているので)

マリエたちの旧母国、実はセファティス王国という国名がありましたが、結局出さずじまいで終わりました。
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