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2章
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「梶さんが、何らかの強い目的をもって着任したことには気づいていた。外務省きっての情報屋、『情報の梶』と言われていると、色々な人から聞いている。彼のしていることについて、正式に武官府には連絡がないが、時機を見ているのだろうと思っていた」
確かに梶は、桐機関の存在を武官府には告げていない。外務省、陸軍、海軍はそれぞれ別に諜報活動を行っており、通信時に使用する暗号もそれぞれ異なる。横のつながりの有無および程度も、任地によって異なる。
欧州の中立国であり、諜報のメッカと言われるスペインで、梶は敢えて協力体制を作らないつもりなのでは、と志貴は思っていた。それぞれのソースが異なれば、同じ事柄についての報告を本国で突き合わせることで、その情報の精度を確認できるという利点もあるからだ。
勿論、指揮系統が異なる各自の活動は、時に二元外交となる危険を伴う。現場では、連携して活動することができないという大きな弊害もある。どこに重きを置くのか、それは『情報の梶』の胸算用一つだった。
「俺の意見として、問い合わせの人物は情報工作に熟練しているが、軍人ではない。従って彼の情報の精度を保証することはできない。梶公使の情報については、武官の偵察結果と情報を比較することでその精度を調査するのがよいと思われる、と回答した。――あの色男の仕事を疑っている訳じゃない、それはわかってくれ。ただ、集めてくる情報が高度な上に多すぎる。有能だからというならいいが、最初は誰だって玉石混交を疑うだろう」
テオバルドが届けてくれた、日本軍の失地回復の好機となるはずの情報は、意外なところで握り潰されていた。
時機の悪さも重なった。テオバルドの諜報網が本格稼働した時期、南方戦線の暗雲、そして一洋への本国からの照会が重なり、宝玉の価値のある情報は、ただの石くれに成り果てようとしている。
胸の中に渦巻く悔しさとともに虚脱感に襲われたが、一洋の本国への回答は一理あるものだった。外相の斡旋があるとはいえ、テオバルドは表向き、駐イギリス大使館付き報道官という肩書しか持っておらず、そこでの活動内容は梶も志貴も知らされていない。彼と面識のない一洋が、武官としてその報告に易々と保証を与えるはずがなかった。
仕方のないことだったのだ、と自らを無理矢理納得させようとして――志貴は、はた、とあることに気がついた。
「ちょっと待って。彼が色男だって、どうしてイチ兄さんが知ってるの」
「俺だって昼休みに、腹ごなしにレティーロ公園まで散歩することくらいある」
「兄さん!」
(後を尾けたに決まってる!)
確信に、思わず声が尖った。
そもそも公使館員から、志貴の定期的な外出を聞き出している時点で過保護が過ぎるのに、まさか尾行されていたとは。
確かに梶は、桐機関の存在を武官府には告げていない。外務省、陸軍、海軍はそれぞれ別に諜報活動を行っており、通信時に使用する暗号もそれぞれ異なる。横のつながりの有無および程度も、任地によって異なる。
欧州の中立国であり、諜報のメッカと言われるスペインで、梶は敢えて協力体制を作らないつもりなのでは、と志貴は思っていた。それぞれのソースが異なれば、同じ事柄についての報告を本国で突き合わせることで、その情報の精度を確認できるという利点もあるからだ。
勿論、指揮系統が異なる各自の活動は、時に二元外交となる危険を伴う。現場では、連携して活動することができないという大きな弊害もある。どこに重きを置くのか、それは『情報の梶』の胸算用一つだった。
「俺の意見として、問い合わせの人物は情報工作に熟練しているが、軍人ではない。従って彼の情報の精度を保証することはできない。梶公使の情報については、武官の偵察結果と情報を比較することでその精度を調査するのがよいと思われる、と回答した。――あの色男の仕事を疑っている訳じゃない、それはわかってくれ。ただ、集めてくる情報が高度な上に多すぎる。有能だからというならいいが、最初は誰だって玉石混交を疑うだろう」
テオバルドが届けてくれた、日本軍の失地回復の好機となるはずの情報は、意外なところで握り潰されていた。
時機の悪さも重なった。テオバルドの諜報網が本格稼働した時期、南方戦線の暗雲、そして一洋への本国からの照会が重なり、宝玉の価値のある情報は、ただの石くれに成り果てようとしている。
胸の中に渦巻く悔しさとともに虚脱感に襲われたが、一洋の本国への回答は一理あるものだった。外相の斡旋があるとはいえ、テオバルドは表向き、駐イギリス大使館付き報道官という肩書しか持っておらず、そこでの活動内容は梶も志貴も知らされていない。彼と面識のない一洋が、武官としてその報告に易々と保証を与えるはずがなかった。
仕方のないことだったのだ、と自らを無理矢理納得させようとして――志貴は、はた、とあることに気がついた。
「ちょっと待って。彼が色男だって、どうしてイチ兄さんが知ってるの」
「俺だって昼休みに、腹ごなしにレティーロ公園まで散歩することくらいある」
「兄さん!」
(後を尾けたに決まってる!)
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