トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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17章

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 あれから『薬』の時間は、互いに高め合い欲望を吐露する時間となっている。志貴は一洋の欲望に奉仕するが、一洋は志貴のそこには殆ど触れなくなった。直接的な手技で手短かに吐精するよりも、胸や奥を弄られて悶え、散々に焦らされた果ての絶頂に、志貴がより深い悦びを得ていることを知ったためだ。
 男根を模した太い三本の指で、中を抉られ、突かれて果てる志貴を満足気に眺めながら、一洋は猛った自身の欲望を突き入れようとはしない。彼の性愛の対象となるには、背伸びをしたところで、『先生とこの志貴ちゃん』は役者が足りなかった。
 ただ、志貴に対する一洋の支配欲は、時に胃が縮むように感じるほど深い。それを満たすことで、志貴はやさしい幼馴染を我が身に縛りつけている。
 誠実さの欠片もないが、あの大晦日の夜、言葉もなく二人はなったのだ。支配し、依存することで、互いに離れられない関係に。

 歪な一洋との関係を思えば、テオバルドとの間に流れる感情は、単純ではあった――情を交わしたいと、互いに望んでいる点で。
 それは決して叶うことなく、叶えるつもりも志貴にはない。毎日のように口づけを交わし、甘く愛を囁かれても、返せる言葉はなかった。飼い犬の立場をわきまえて――もしくは、踏み出すことはできない志貴を理解し受けとめて、テオバルドが先に進むことを迫ったことはない。
 ただ回数を重ねるごとに、口づけは深く、長くなっている。明らかに人目がない場所なら、志貴も抗うことはしなかった。自ら求めることはしない志貴の欲望の気配を、テオバルドは敏感に察知し叶えているだけなのだ。

 三十分ほど歩いてゆるい坂道を登りきり、平らに開けた場所へ出た。丸く窓のように空が枝に縁取られ、小さな広場のように――舞台のようになっている。
 つい空を見上げながら深呼吸していると、ふいに引き寄せられた。後ろから腕が回され、背にテオバルドを感じる。
 誰もいない林の中のこと、志貴も逃れようとはしなかった。身を任せるように背中を預けると、男の腕が独占するように胸の前で交差する。

「――大分俺に慣れたな、志貴」
「……そうかな」
「話し方が随分くだけてきた」
「それは君の指導のせいだろう」

 三年前の年末、初対面の場で「貴族みたいなお行儀のいいスペイン語を操る」と揶揄されたのを今も根に持つ志貴の切り返しに、ふはっとテオバルドが吹き出した。

「何より甘えられるようになっただろ、俺に」
「そんなことはない、甘えてなんて」
「無意識なら、もっといい」

 うれしそうに弾んだ口調に、強く否定する気も失せる。
 何より、何故テオバルドが唐突に故郷を見せようと思い立ったのか、その理由がわからない以上、二人の間に流れる空気をぎこちないものにしたくなかった。こうして初めて二人で遠くへ出掛けてみて、そのきっかけとなった彼の子供時代に対する興味よりも、今日を楽しく穏やかな一日として終えたい、という気持ちが強くなっていた。
 仕事抜きで、二人きりで過ごす時間を傷つけたくない――大切にしたいと思ったのだ。
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