扇屋の梟

音羽夏生

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扇屋 ※

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 相手が客である以上、邪険に突き飛ばすこともできずなすがままの梟の顔を、長身の男は食い入るように見つめた。
 梟も無礼にならないよう素早く相手を観察する。
 夜を吸い込んだように黒い髪と瞳、年は七つ八つ上だろうか。服越しに感じる体つきは男らしく引き締まり、少々目つきは鋭いものの女たちが喜びそうな大層な男前──全く記憶にない男だ。
 けれどこの男は、確かに梟の名前を呼んだ。
 神殿を去る時に捨てた名を。

「やっと見つけた、ユリウス…」
「私は梟と申しますが、一体何のことで…っ!」

 警戒しながら言いかけて、けれどその先は言葉にならなかった。
 鳩尾に鈍い痛みが走り、衝撃に喉元で息が絡まる。
 目の前の男の仕業だということはわかったが、その理由にまったく心当たりがない。鋭く入った拳に容赦はなく、無防備だった梟は、疑問符で頭を埋め尽くしたまま、呆気なく男の腕の中に崩れた。

「お、お客様、一体何をなさるんで!」

 突然の暴挙に仰天した案内係の悲鳴が、長い廊下に響き渡った。
 何事かとあちこちで引き戸が開き、事の次第を確かめようと女たちが顔を出す。
 そうした状況を一切無視して気を失った梟を肩に担ぎ上げると、男は今さっき通ったばかりの玄関へ引き返そうとした。
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