后狩り

音羽夏生

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黒猫

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「───……まったく、通じていないようだな。まったく」

 聞こえないようにボソリとこぼした皇帝は、それでもシェルの敬語を咎めることはなかった。シェルの場合、折目正しい態度は素の状態──すっかり気を抜いている証拠だからである。
 それにしても、一体どんな顔をして、渾身の求愛の小道具に無粋な賛辞を返して寄こしたのか──耐えきれなくなった皇帝が憮然と振り返った時、シェルは高く重ねられたクッションに頰を埋め、気持ちよさそうに身を丸めていた。
 その姿は、うにゃうにゃと体を擦り付けて、新しい寝床の寝心地を確かめる猫にしか見えない。高貴な御者は無言で前を向き、馬の歩みをさらに緩やかなものに変えた。

(クッションで、こんなに乗り心地が変わるものなのか)

 主の栄光を誇らしく思いながらも、持ち前の探究心が頭をもたげ、シェルは不思議なほど揺れが少ない馬車の乗り心地を検分していた。
 薄曇りでも空は明るい好天で、気分は悪くないが、一日半も続いた伽は体に堪え──正直なところ、座るのもつらい状態である。
 午後は出掛けると皇帝が仰せになった時、うべないながら、今日は寝室から出られることにシェルは心底ほっとした。逞しい腕の檻に囚われ、寝台で──それ以外の場所で伽を求められ淫らに鳴いて過ごすより、外出する方が、体はつらくても気持ちは軽い。
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