后狩り

音羽夏生

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黒猫

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 そのように言われては、シェルにも抗う理由がない。おずおずと力を抜いて、ソファにしては逞しい背凭れに身を預けた。
 舟の上でも、皇帝にしっかり抱かれているせいか恐れはなく、湖上の眺めに目を遣る余裕も生まれてくる。

(陛下のお側にいるだけで、こんなにも……)

『乗船手形』には、この安心感も含まれているのだとシェルは気づいた。そして自分が、それに対するお礼を言いそびれていることにも。
 ウルリカとの会話を反芻してみる。栄光のメダルをくり抜くという暴挙に話がずれたが、下賜されたペンダントの本質は、「市井の恋人たちのまじないごと」と同じなのではないか。むしろ、くり抜いて二人で分かち合う分、皇帝の求める絆は強く、互いを縛るものなのではないか。
 今更そう思い至り、──シェルはどう応えればいいのかわからなくなった。
 皇帝の求愛に応える立場にはなく、今では後宮での位置付けもわからない。そのように曖昧な身の上で、わざわざ口に出してお断りするのも無礼に思える。
 しかし、お心遣いに対する感謝ははっきりとお伝えしたい。
 よくよく考えた結果、シェルは皇帝の腕の中でそろそろと身を捩ると、首を伸ばして目の前の唇に自身のそれを触れ合わせた。

「………っ」

 シェルからの口づけに、皇帝が目を丸くする。そのまま、顔に穴が開くほど凝視された。言うべき言葉が見つからないといったご様子である。
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