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黒猫
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(侍従の頃から何度もお求めになり、そのたびに捧げてきたことなのに、どうしてこれほど驚かれるのだろう)
言葉にできないお礼の代わりに主が好まれることを、と思ってのことだったが、唐突過ぎたのかもしれない。シェルは嗄れた喉を宥めながら補足した。
「ご配慮いただいたことに……どのようにお礼を申し上げたらよいのか、わからなかったのです」
申し上げながらも、振り返ったまま見つめ合う姿勢がつらい。
シェルは再び前を向き、元のように座り直した。今日の無残な有り様に責任を感じていると仰せだったから、話の途中に痛みを避けても咎められはしないだろう。
頼もしい背凭れは、もぞもぞと身動ぎするシェルをしっかりと受けとめてくれたが、代わりに唸るように呟いた。
「無体なことはしないと言った途端、こうして煽ってくるとは、どういう性悪だ……」
煽るなど畏れ多く身に覚えはないが、そのように思われるのは好都合だった。──クリスティーナの安否がわかるまでは。
「私は陛下の……エーヴの、黒猫ですから」
体の前で交差する主の手に手を重ねると、反対にシェルの手が主の手に包まれた。指が絡み合う形に握られて、手のひらの感触にぞくりとする。
何度も求められ、寝台の上でつい逃げを打ったシェルを引き戻した手も、同じように熱く湿っていたことを思い出したのだ。
言葉にできないお礼の代わりに主が好まれることを、と思ってのことだったが、唐突過ぎたのかもしれない。シェルは嗄れた喉を宥めながら補足した。
「ご配慮いただいたことに……どのようにお礼を申し上げたらよいのか、わからなかったのです」
申し上げながらも、振り返ったまま見つめ合う姿勢がつらい。
シェルは再び前を向き、元のように座り直した。今日の無残な有り様に責任を感じていると仰せだったから、話の途中に痛みを避けても咎められはしないだろう。
頼もしい背凭れは、もぞもぞと身動ぎするシェルをしっかりと受けとめてくれたが、代わりに唸るように呟いた。
「無体なことはしないと言った途端、こうして煽ってくるとは、どういう性悪だ……」
煽るなど畏れ多く身に覚えはないが、そのように思われるのは好都合だった。──クリスティーナの安否がわかるまでは。
「私は陛下の……エーヴの、黒猫ですから」
体の前で交差する主の手に手を重ねると、反対にシェルの手が主の手に包まれた。指が絡み合う形に握られて、手のひらの感触にぞくりとする。
何度も求められ、寝台の上でつい逃げを打ったシェルを引き戻した手も、同じように熱く湿っていたことを思い出したのだ。
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