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第十話 後編
立花と犬神 6
しおりを挟むそれから二年が経った
あっという間とは、人間の脳は都合が良すぎる
人生なんて、当人だけが知る、なんでもない日常の積み重ねだ
食事や風呂、トイレも人生を歩んでいるから行われるかけがえのない体験だ
道行く光景で何を見て、何を感じたか
家の中で何を楽しみ、何を思い考えて呟いたか
全てが人生なのに、自分の死後に人から語られる人生は省略される
偉人伝に載る人達でさえ、ほとんどが省略されている
これこそ人生とは儚いと言えるものだ
だから、立花桃はこの二年間を嘆いた
些細な事を除いて語れるようなエピソードは、皆無に等しい
転々とアルバイトをしながら、知り合いは増えても友と呼べるまでの関係には至らず、年配ばかりの環境に、女子トークも抑えられてきた
あの白いジープの男とは、連絡先はおろか名前すら聞く事が出来ず、何度、街中で車を走らせながら探したことか
アルバイト先で良い出会いも無く、白いジープの男に対する想いや想像が膨れ上がるばかりだった
儚い人生を輝かせるもの、それを恋と呼ばない人間がいるのだろうか
立花桃の中では考えられない
このまま行き詰まった想いは消えるのだろうか
しかしこの恋の行方に進展が訪れる
立花桃が、駅中で有名なドーナツ屋で買い物をして、駐車場へ向かおうと改札口近くの出入口から出た時だった
あの白いジープを見かけた
運転席には間違いなく、立花桃が想いを寄せてきた男
二年も経っているが雰囲気はそれほど変わっていなく、すぐに分かった
ただ車から女が降りてきた
送迎だろうか、駅のロータリーで止めた車内から女に手を振っている
女は素っ気ない顔で軽く手を振り、発進する車を見送っていた
あの女の顔、見覚えがある
立花桃が女に近付こうと歩みを進めたところ、予想通り能力が働く
改札口から雪崩れのように出てきた人達に邪魔され、そのまま見失ってしまう
流れが落ち着いた頃には、既に姿は消えてしまい、行方は分からなくなった
ただ、問題はない
立花桃の記憶の中にあるものが先程の光景で上書きされた
あれは、犬神絵美だ
だいぶメイクを覚えたようだが、犬神里美の親友だけあって姉妹の顔を見抜くことができた
犬神絵美を追えば、白いジープの男を探す手掛かりになる
この収穫は大きい
ここにドーナツを買いに来た自分の判断の良さと、駅中のドーナツ屋の人気に感謝する
ドーナツ屋の頑張りが無ければ、こんな奇跡は生まれなかった
しかし、あの二人の関係が気になる
付き合っているのだろうか?
二年前に出会った時からだろうか?
同じ学校なんだろうか?
果たして、白いジープの男は自分を覚えているだろうか?
自己紹介が出来たとしても「ああ、どうも」で終わるのではないか
疑問が湧き上がる癖が止まらなくなり、とりあえず車の中で買ってきたドーナツを一つ、先に食べることにした
ふわふわ食感の生地に白いパウダーが満遍なくふりかかっている真ん中、ハート型にくり抜かれたところにストロベリージャムが詰まっている
冬の一途な恋、のようなドーナツを口に頬張り、立花桃は決意する
絶対にこの恋は実らせる!
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