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へっぽこ召喚士、秘密を知る①

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「はあ……」


 苛立ちを含めた溜息を聞くのは、果たしてこれで何度目か。

 椅子の背もたれに身体を預け、長い足を組むリヒトは、床で正座をしながら震えるミアを逃がすものかと鋭く睨みつけていた。

 今にも喰われそうなその迫力に、ミアの目線はずっと床の木目に注がれ、そこから動かせない。


「……よりにもよって、こんなマヌケな奴に正体がバレるとはな」

「起こってしまった事は仕方ないよ」

「クソ……」


 二人のやり取りを聞きながら、自分が何を仕出かしたのか、何がどうなっているのかを頭の中で整理しようにもミアの頭は考えることを止めていた。

 何も無かったことにして、家に帰りたい……。

 ヘマをしてはいけないと肝に銘じていたというのに、結果はこれだ。
  
 失敗したことに対する落ち込んだ気持ちに、目の前で苛立ちを抑えきれないリヒトの態度に涙が滲む。


「本当に……すみませんでした」

「謝って事が丸く収まるなら、その空っぽの頭が無くなるまで、地面に額を擦り付けて謝れと言いたいくらいだ」

「うぅ……」


 容赦ない言葉に身を小さくして再び頭を下げると、肩を叩かれるや否やユネスが耳元で囁いてきた。


「忠誠を示せって言ってみてくれる?」

「え……?」

「せーの」

「ちゅ、忠誠を示せ?」


 訳が分からないまま指示された通りにそう呟く。

 すると突然、椅子に座っていたリヒトがミアの元へとやってくると、そのまま片膝をついて頭を垂れた。



「――我が主の元に」 

「ん?!」



 正座するミアの手を取り、軽く甲に唇を押し付けるリヒトはまるで別人だ。

 余計に頭が混乱するミアに対して、ユネスは顎に手を添えて納得したかのように頷いた。



「ふーん。召喚と共に契約まで交わしてある状態ってわけか……」

「ユネスさんっ!これって一体どういう事ですか?!」

「簡単だよ。リヒトはミアちゃんの召喚獣になったってわけ」

「しょ、召喚獣……?」



 確かに獣耳に尻尾は人ならざるものだとは言えるが、彼は獣の姿をしてはいない。

 第一、ミアは学生時代にまともな召喚獣を召喚できた試しがない。

 ましてや人を召喚するなど見たことも聞いた事もないミアには出来るわけがない。

 精々野鳥や野うさぎ程度でしか召喚出来ない彼女には、到底不可能だ。

 ユネスの言っていることに首を傾げて、掴まれていた手をそっと剥がそうと試みたが、力強く腕を持っていかれる。


「お前なあ……!」

「ひゃうっ!」


 先程までの大人しくなったリヒトは何処かに消え、再び今まで通りに戻ったかと思えば、容赦なくミアのこめかみを押さえつけてきた。


「召喚では飽き足らず、契約までだと?俺に喧嘩売ってるのかお前は!!」

「えっ、ちょ!痛いです!!」

「魔獣の餌になりたいか?それとも、これまで生きてきた記憶全て抹消されたいか?……さあ選べ」


 逆鱗に触れてしまったと後悔していると、全身が急に熱くなったかと思えば、内側から何かが這い上がってくる感覚に陥る。

 熱は胸から徐々に上へと上がってきて、遂に喉まで到達する。身体がそうしろと命令するように、ミアは這い上がってきたその言葉を口にする。


「まっ、待て!!」


 力強く吐き出した言葉は、執務室に大きく響き渡る。自分の声がようやく耳に届いた時に、反射的にミアは手で口元を押さえた。



(今、私なんて……?)



 自分で発した言葉だというのに、どうしてその言葉を発したのか分からなかった。



 
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