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前触れ

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 月明かりが雲に隠された深い夜に支配された静寂を放つ森から、突如一筋の土煙と共に唸るような地響きがこだまする。

 地面を大きく抉るように出来上がった大穴は、地下深くまで伸びていた。

 一瞬にして静寂さを失った森からは緊張感が走り抜け、大穴から赤黒い霧が溢れ出した。

 霧は風を巧みに操り、面積を広げては森を蝕んでいく。

 呼吸をするように霧は森から生気を吸い取り、根を伸ばすように霧を広げていく。



『――ぬ、まだ、足りぬ……』



 大穴の奥底で蠢く何かが、苦しみ藻掻くように身を潜める。伸ばす霧が何者かの力によって封じられる感覚に、憎悪の渦がより一層霧を濃くさせた。

 闇の力に抗う術として永き間戦い続けたクリスタルが、霧の中で淡く輝くものの光は年々弱り続けている。張られた結界内で、眠り続けていた闇の力は相反するように、力を増幅させていく。



『憎い……人間が……憎イッ!!』



 感情共に霧は更に色を濃くし、枯れ果てた森を無惨に壊していく。息絶えた森の動物達は、骨となりそのまま灰として消えていった。

 二度と陽の光を浴びることもなくなった植物達は、貪られるまま跡形もなくなった。

 吸い取った森の生気により、強まった闇の力はクリスタルに亀裂を入れ……地面が再び揺れた。



『我は全てを喰らい尽くし、復讐するのだ……愚かな人間共に……』



 禍々しい力は咆哮し、その時をじっと待つかのように身を潜めた。ただ静かに、闇を膨らませながら。


 ――この夜、一つの森が消えた。


 かつて賢者が生み出した、精霊の森は闇の力により全てを失ったのだった。






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