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へっぽこ召喚士、神獣を召喚する④
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だからこそ、この物語を変えなくてはならないのだ。
「白竜、あなたは私と契約した。私は封印という手は選ばない。やるべき事はただ一つ。バハムートを苦しめる闇を浄化しましょう」
『無理だ。それも一度試そうとしたが、我が闇の力は大きい。白竜一匹の力ではもう、この力は抑えきれないのだ』
力ない声で諦めろと呟くバハムートだったが、喝を入れるかのように、声が響く。
『オレ達の存在を忘れては困る』
ふと、隣を見ればリヒトを安全な場所に置いてきたフェンリルがそこに居た。輝く真っ白な毛並みは、神獣を思わせた。
『オレ達が神獣の末裔である以上、受け継いだ力がある』
「きゅー!」
「ふぎゅっ!」
いつの間にか魔獣達がミアの元へと集まり、その身に光を纏っていた。燃ゆる炎のように揺らめいては、白竜に向かって光を放つ。
(温かくて優しい光は、この子達の想い。みんな、想うことは一緒なのね)
誇り高き神獣の末裔だと、威を張るわけでもなく、同じような悲しみを抱く仲間を救いたいという彼らの気持ちがひしひしと伝わってくる。
白銀の大きな翼を広げ、集まった力を前に白竜はミアを見つめた。
「素晴らしい仲間だ」
「私の大切な家族だもの。それじゃあ白竜、この物語を変えよう」
誇らしげに笑って見せると、白竜は集まった光の力を使って大きく羽ばたいた。巨大な一本の槍のように変化した光は、バハムートの闇目掛けて矛先を向ける。
人間の邪悪な感情や、怨念が光の槍に抗おうとバハムートの前に結界を張り巡らせた。
『我ガ復讐ハ、マダ終ワッテイナイッ!邪魔ヲスルナアァア!!』
再び闇に取り込まれたバハムートが、操られるようにして我が身を守ろうと最後の力を振り絞った。
矛と盾のせめぎ合いが続く中、地中から現れた蔦がバハムートの足元に絡みつくと、闇の力を増幅させていく。
「させるかっ!」
異変に気づいたリヒト達が後ろに回り、地中で蠢く蔦を切り刻んでは力の増大を阻む。
暴れ狂うバハムートは、ありったけの力を込めて、槍を跳ね返そうと吠えた。
力の大きさに白竜が一瞬険しい表情を浮かべ、矛先の照準が若干ずれていく。
(最後の力が足りない……神様、どうかお願い!私に力を貸して!)
白竜に力を込めるように祈ると、胸元が熱く輝くのが分かる。その熱を確かめるように制服の内側から、それを取り出した。
初めて野生の魔獣と出会い、お守り代わりに持ち歩いていた一枚の赤い羽根。
その羽根が、何かを喚び起こした。
「クォォオオオオッ」
透き通る鳴き声は、空耳などではなかった。綺麗な淡い赤い羽から、魔法陣が浮かび上がるや否や、風を切るように羽ばたく音が森全体にこだました。
「不死鳥……」
眩い炎の光は沈む太陽のように赤く、息を飲む程に美しかった。
伝説上の不死鳥が、今目の前でミアに何かを感謝するように目を細めた。
不死鳥の持つ魔力の光が加わった今、矛先眩しい光を宿し勢いを、皆の想いを乗せ、闇を葬るために鋭さを増した。
ピシリと鈍い音が聞こえるや否や、盾に亀裂が入るのをミアは見逃さなかった。
「みんなを……私は守ってみせる!!」
魔力を白竜に注ぎ込むと、光の槍は闇を打ち砕くように一瞬にして貫いた。
槍として形を保てなくなり弾けた光の粒が、バハムートを蝕んでいた闇を浄化させていく。
「もう悲しい想いなんて、絶対にさせない」
白竜の背から飛び降りて、もがき苦しむバハムートを包み込むように抱き寄せた。
力を失ったバハムートは、みるみるうちに胸に収まりきる程の小さな子供ドラゴンへと姿を変えていく。
解き放たれた闇の力は全て浄化され、枯れ果てた森は再び命を吹き返し、青々とした緑が視界いっぱいに広がった。
着地する間際で、グリフォンの風魔法により無事綺麗に着地したミアは、抱き締めるバハムートの澄んだ瞳を覗いた。
「おかえり、バハムート。ロベルツが愛した世界に帰ってこれたね」
『ああ……ただいま』
バハムートは照れくさそうにそう呟くと、遠慮がちにミアの頬に鼻を擦り付けて小さく甘えた。
遠巻きに様子を伺っていた魔獣達だったが、あまりの羨ましさに、我も我もと甘えた声でミアの元に一目散に集まり始めた。
「わっ、ちょっと!みんな、そんなに押さないで!」
一度に集結した魔獣達を前に目を丸くするが、甘えて飛びかかって顔を舐めてくる魔獣達に白旗を上げる。
擽ったい気持ちと、皆を守れた安心感で心が満たされていく。
そんなミアを見て嬉しそうに微笑むバハムートを祝福するように、不死鳥が羽ばたく翼から光を零しながら去っていく。
魔獣達と手と手を取り合う召喚士に、明日という未来に希望を託すように、昇る太陽に向かって姿を消した。
だからこそ、この物語を変えなくてはならないのだ。
「白竜、あなたは私と契約した。私は封印という手は選ばない。やるべき事はただ一つ。バハムートを苦しめる闇を浄化しましょう」
『無理だ。それも一度試そうとしたが、我が闇の力は大きい。白竜一匹の力ではもう、この力は抑えきれないのだ』
力ない声で諦めろと呟くバハムートだったが、喝を入れるかのように、声が響く。
『オレ達の存在を忘れては困る』
ふと、隣を見ればリヒトを安全な場所に置いてきたフェンリルがそこに居た。輝く真っ白な毛並みは、神獣を思わせた。
『オレ達が神獣の末裔である以上、受け継いだ力がある』
「きゅー!」
「ふぎゅっ!」
いつの間にか魔獣達がミアの元へと集まり、その身に光を纏っていた。燃ゆる炎のように揺らめいては、白竜に向かって光を放つ。
(温かくて優しい光は、この子達の想い。みんな、想うことは一緒なのね)
誇り高き神獣の末裔だと、威を張るわけでもなく、同じような悲しみを抱く仲間を救いたいという彼らの気持ちがひしひしと伝わってくる。
白銀の大きな翼を広げ、集まった力を前に白竜はミアを見つめた。
「素晴らしい仲間だ」
「私の大切な家族だもの。それじゃあ白竜、この物語を変えよう」
誇らしげに笑って見せると、白竜は集まった光の力を使って大きく羽ばたいた。巨大な一本の槍のように変化した光は、バハムートの闇目掛けて矛先を向ける。
人間の邪悪な感情や、怨念が光の槍に抗おうとバハムートの前に結界を張り巡らせた。
『我ガ復讐ハ、マダ終ワッテイナイッ!邪魔ヲスルナアァア!!』
再び闇に取り込まれたバハムートが、操られるようにして我が身を守ろうと最後の力を振り絞った。
矛と盾のせめぎ合いが続く中、地中から現れた蔦がバハムートの足元に絡みつくと、闇の力を増幅させていく。
「させるかっ!」
異変に気づいたリヒト達が後ろに回り、地中で蠢く蔦を切り刻んでは力の増大を阻む。
暴れ狂うバハムートは、ありったけの力を込めて、槍を跳ね返そうと吠えた。
力の大きさに白竜が一瞬険しい表情を浮かべ、矛先の照準が若干ずれていく。
(最後の力が足りない……神様、どうかお願い!私に力を貸して!)
白竜に力を込めるように祈ると、胸元が熱く輝くのが分かる。その熱を確かめるように制服の内側から、それを取り出した。
初めて野生の魔獣と出会い、お守り代わりに持ち歩いていた一枚の赤い羽根。
その羽根が、何かを喚び起こした。
「クォォオオオオッ」
透き通る鳴き声は、空耳などではなかった。綺麗な淡い赤い羽から、魔法陣が浮かび上がるや否や、風を切るように羽ばたく音が森全体にこだました。
「不死鳥……」
眩い炎の光は沈む太陽のように赤く、息を飲む程に美しかった。
伝説上の不死鳥が、今目の前でミアに何かを感謝するように目を細めた。
不死鳥の持つ魔力の光が加わった今、矛先眩しい光を宿し勢いを、皆の想いを乗せ、闇を葬るために鋭さを増した。
ピシリと鈍い音が聞こえるや否や、盾に亀裂が入るのをミアは見逃さなかった。
「みんなを……私は守ってみせる!!」
魔力を白竜に注ぎ込むと、光の槍は闇を打ち砕くように一瞬にして貫いた。
槍として形を保てなくなり弾けた光の粒が、バハムートを蝕んでいた闇を浄化させていく。
「もう悲しい想いなんて、絶対にさせない」
白竜の背から飛び降りて、もがき苦しむバハムートを包み込むように抱き寄せた。
力を失ったバハムートは、みるみるうちに胸に収まりきる程の小さな子供ドラゴンへと姿を変えていく。
解き放たれた闇の力は全て浄化され、枯れ果てた森は再び命を吹き返し、青々とした緑が視界いっぱいに広がった。
着地する間際で、グリフォンの風魔法により無事綺麗に着地したミアは、抱き締めるバハムートの澄んだ瞳を覗いた。
「おかえり、バハムート。ロベルツが愛した世界に帰ってこれたね」
『ああ……ただいま』
バハムートは照れくさそうにそう呟くと、遠慮がちにミアの頬に鼻を擦り付けて小さく甘えた。
遠巻きに様子を伺っていた魔獣達だったが、あまりの羨ましさに、我も我もと甘えた声でミアの元に一目散に集まり始めた。
「わっ、ちょっと!みんな、そんなに押さないで!」
一度に集結した魔獣達を前に目を丸くするが、甘えて飛びかかって顔を舐めてくる魔獣達に白旗を上げる。
擽ったい気持ちと、皆を守れた安心感で心が満たされていく。
そんなミアを見て嬉しそうに微笑むバハムートを祝福するように、不死鳥が羽ばたく翼から光を零しながら去っていく。
魔獣達と手と手を取り合う召喚士に、明日という未来に希望を託すように、昇る太陽に向かって姿を消した。
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