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18話 浄化

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「おはよう、クレス、よく眠れたかい」

「ん~おあよハロ」

「ふふ、この子ったらもうすぐお祭りだーって今からはしゃいで、中々寝付けなかったみたいね」

「あはは、まだ先なのに、せっかちだねぇ」

ボクは寝ぼけ眼の妹を優しく撫で、彼女にフルーツやパンを取り分ける。
今日は雲ひとつない採集日和。
お祭りで必要な森の恵みを入手すべく、装備を整えて家を出る。

「行ってきます」

「気をつけてね」

連日雨で散々だったが、今日はいい日になりそうだ。
軽い足取りで見慣れた森を抜けていく。

「お、あったあった」

目当ての山菜やキノコを見つける。
帰り道に採集できるよう付近の木に呪文でマーキングし、さらに森の奥へと入っていく。
途中、スライムとジャイアントホーンという鹿のモンスターをテイムし、護衛兼荷物持ちをしてもらう。
ここ最近開花したボクの能力スキルだ。
お陰で少し森の奥深くに行っても問題なく帰還できるようになった。
しばらくモンスターと共に採集をしていると、段々と暑くなってくる。

「少し休憩しようか」

いい感じの木陰を探し、革の水筒で水を飲み、少しスライムにかけてあげる。
嬉しそうにしているスライムを指でつっつきながら、残り必要なものを確認する。

「フレイムパームの樹脂……これは見かけても今の装備じゃ採集できないな、ん?どうしたんだい?」
「ぷにゅえ」

スライムが暑そうにとろけている。
可燃性の樹脂の話をしたからだろうか、いや、違う。
実際に気温が上がっているのだ。
快晴というのも困り物だ、早く水辺に移動した方がいいかもしれない。
ボクはスライムに残りの水をかけると、呪文で周囲の生物を操り水源を探知する。

「……ん?」

おかしい、気温が上がっているというよりは放射状に熱を発する熱源が存在している。
蛇等の熱に関する特有の器官を持つ生物が警戒している。
ボクは調査のためにその方向へ向かった。

「……ひどい暑さだ」

これ以上は可哀想なのでスライムのテイムを解除し、彼に戻るように伝える。
得体の知れない何かがこの先にいる。
命の危険さえ感じる。戻って増援を呼ぶべきだろうか?
木々を縫って進むと、開けた場所にソレはいた。
ボクはその神々しさに目を奪われ、息を呑む。
その時は一瞬、暑ささえ忘れてしまった。

「ピィィィッッピィィィッッ」

間違いない、フェアリーバードという幻のモンスターだ。
エルフの村では伝承レベルのモンスター。
まさか本当に存在していたなんて。
しかし様子がおかしい、何かをしきりに警戒しているようだ。
熱を発し続けている、おかしな暑さはこのせいだろう。

「ピィィィッッピィィィ」

ひとしきり炎を纏って威嚇していると、ふとこちらに身体を向ける。
しまった───。

ボクはその瞬間、後ろを見ることもせず飛び出した。
フェアリーバードというのは綺麗な名前とは裏腹にとんでもなく凶暴であると云われている。
後ろからは木々を薙ぎ倒すような轟音が聞こえて来る。
振り返りたくない、死ぬ、助けてくれ。

「うわぁぁああああっ!!!」

全力で走っているすぐ真後ろに、その爆弾のような生き物がいるのを感じ、
ボクは地面に伏せた。
確実に死んだ。そう思ったがフェアリーバードは真上を通りすぎていった。

「え?」

唖然としていると、その直線上、はるか向こうで奇妙な音がする。
ボクは能力で動物を探知する。

「うっ……!?」

すると脳内に悲鳴のような量の情報が流れ込んでくる。
それと共に地鳴りのような音は大きくなり、それらは大量の生物が駆ける事によって生じる足音だと気づく。

「うわ!?」

ボクの横を通り過ぎていく大量の生き物達。
何かから逃げているのか?

「何が起きているんだ!?」

ボクは騒動の先へと足を進める。

「ピィィィッッ……ピィ……」

フェアリーバードが仕切りに熱魔法と風魔法を広範囲に起こし、何かを防いでいる。
しかし苦しそうだ。
やがて彼はそのに飲み込まれ、地に落ちてしまった。
ボクは彼を抱きかかえ、その虹のモヤのようなものから引き剥がす。
走りながら口笛を吹き、こちらに来るのも嫌な顔をしているジャイアントホーンに跨り、その場から離れる。
頭の中はパニックだ。
幻のモンスターに出会ったと思えば今度は襲われ、襲われたかと思えば次は生き物が逃げ惑う。

そしてボクはある事に気がつく。

あの巨大なモヤの方角、あれはきっと───

ボクは頭を振る、皆きっと逃げているはずだ。
だって動物達もそうしてるんだ。
きっと大丈夫。
きっと。
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みんなの感想(1件)

ドゥ
2022.01.15 ドゥ
ネタバレ含む
アウレオールス
2022.01.15 アウレオールス

ドゥさんいつも感想ありがとうございます♪
セータも頑張って早く強くなって欲しいですね。

解除
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