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13話

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「スカーレット、ただいま」

「アルク!?」

スカーレットは外で花や野菜に水やりをしていた。今日は既になんだかんだ色々あったけれど、再会はずいぶんあっさりとできた。
スカーレットはジョウロを置くと、俺の胸に飛び込んできた。

「アルクだ……本当に……」

「はは、元気そうでよかった」

スカーレットを抱きしめる。
そうか、女の子ってこんなに軽いのか。
最近いつもグレンに抱きついていたせいで力加減がおかしくなりそうになる。

「アルク、あなた少し見ない間に…」

「ん?」

かっこよくなっただろうか。
それなりにグレンの元で働いていたから、少しは彼の強さのようなものを…

「綺麗になったね!」

「えぇっ」

確かに身なりは整えるようになったし、グレン好みなように変えられ、前より気品というか、高貴さではないがそういったものを自分に感じてはいたが、どこか斜め上の反応だった。

「アルク、さ、入って入って」

「うん」

破壊された扉の周りだけ不自然に新しく、笑ってしまう。
中に入るととても片付いており、以前と比べるとかなり広く感じる。
スカーレットは父親との訣別の為にも、色々整理したようだ。

「アルク、大丈夫?何か悪い事とかさせられてない?」

スカーレットは紅茶を淹れてくれる。
紅茶を眺めながら、屋敷での生活の事をそれとなく濁して話す。
隠しゴトをしているようでチクリと心が痛む。

「よかった、あの人、そこまで悪い人じゃなさそうだものね、2度も助けてくれたし」

2度目の日の事を、彼女は少し興奮気味に話す。
襲われている所を助けられた事、怪我をしたメイドさんを抱き抱えながらも悪い輩相手に無双をしていた事。
メイドの事をとても心配していた事。
……そのメイドは俺なわけだが、本当に気づいていなかったのか。

「あぁ、アルク、あのメイドさんといい感じになったりしてないでしょうね!」

「いや、大丈夫、それは絶対にありえないから…」

「そう…?そこまで言うなら大丈夫なんでしょうけど…」

そしてグレンとは何者なのかという話になり、彼女は少しだけ彼の事を調べて分かった事を話し出す。
なんとも謎な男で、彼自身はたまにこの街に出没する事があるらしい。
噂では黒の魔術師と呼ばれ、出会ったら魂を抜かれるだとか、願い事を叶えてくれるだとか、そんな風に誇張されて伝わっているようだ。

「アルクから見て、彼はどうなの?」

「どうって…」

俺が知っているグレンは、かっこいいけど朝が弱くて、無愛想で、でも何か俺がやらかす度に助けてくれて、少し…えっちで…
などとというわけにもいかず、適当に謎のベールに包まれている人物という事だけ伝えた。
スカーレットはあまり納得していないようだったが、扉の代金を有り得ないほど多く渡してきたり、ともかく変人なお金持ちという事で落ち着いたようだ。

「その扉代は当面の間スカーレットの生活費にしなよ」

「…いいの?」

俺は今、自分自身を買い直すために働いている事を告げると、そのお金を全部渡してこようとしたので断る。
そもそもがグレンのお金なのでそれを足しにするというのも気が引けてしまう。

「…それもそうね」

そういうと、スカーレットが近づいてくる。
少し、雰囲気になる。
俺は彼女の頬に手を触れ、キスをする。

「ん…」

唇と唇が触れるが、ここから先どうすればよいのかわからなくなる。
グレン相手だと積極的にできるのに、彼女だとどうしても躊躇してしまう。舌を入れて引かれたらどうしよう。
そうしていると、スカーレットとの唇が離れ、彼女は嬉しそうに照れている。
これで良かったのだろうか。

「さ、アルク、今日はご馳走を作らなきゃ!」

スカーレットは出かける準備をする。
2人で街に出かけるのも久しぶりだ。
グレンのおかげで懐には少し余裕があるので、スカーレットには良い物を買ってあげよう。
あのオンボロ自転車は新調されており、スカーレットを後ろに乗せて漕ぎ出す。

街ではスカーレットに似合う服や鞄を見て周ったり、あの殺風景な家に置くインテリアも探した。
こうして家具を見ていると、さながら新婚の夫婦のようだ。
こんなに充実したデートは、付き合いだしてからでも初めてなのではないだろうか。
こればっかりはグレンに感謝をしなければならない。

あっという間に楽しかった時間は過ぎ。
スカーレットは晩ごはんの支度をしている。
幸せだ。
こんな幸せがずっと続けばいいのに。
スカーレットの顔を見つめていると、「手伝えー!」と背中を押される。
そうして俺たちにしては豪華な夕飯を楽しく過ごした。

「ふぅ~」

少し食べ過ぎた。
シャワーを浴びる
アパートと違ってこの家には古いけれど浴槽が付いている、本当に将来2人で住むならありかもしれない。スカーレットのお父さんには申し訳ないけれど、あの人はそもそも全ての元凶だし…。
そしてふと自分の身体を見て気がつく。

「あっ」

今朝グレンが言っていたのはコレか…
彼に刻まれた証を撫でる。
見ようによってはハートのように見えるコレは、あまりスカーレットに見せたくはない。

「アールーク」

「うわぁっ!?」

スカーレットが入ってくる。
咄嗟に隠し、湯船に避難する。

「もう、驚き過ぎ!」

スカーレットもどことなく顔を赤くしている。
俺たちは幼馴染で、その距離感からかこういった事にはとことん奥手だった。
でもあんな事があったか、彼女なりに頑張ってくれているのだろう。
しかし…

「どうしたの?お腹を抑えて」

「ご、ごめん、食べ過ぎてお腹が痛いみたいで、はは…」

「も~、こんな時に…ばかアルク」

そそくさと風呂場から退避する。
ごめんスカーレット。
でもコレは何故か見せてはならないような、見られたくないような、そんな気持ちが強かった。
結局夜も、スカーレットとキスをしたり手を握ることはあれど、その先に進む事はできずお互い照れたままハグをして、気がつけば眠ってしまっていた。



「アルク、もういっちゃうの?」

「うん、グレンを待たせちゃ悪いしね」

「あの人グレンっていうんだ」

「あ、これ言って良かったのかな…」

「もう聞いちゃったもんね」

スカーレットに最後キスをすると、アパートへと荷物を取りに向かう。
途中何度も振り返り、スカーレットの存在を確かめる。
彼女を大切にしたい。彼女も俺の事を大事に思ってくれているはずだ。
だからこそ俺たちは慎重すぎるくらいが多分、ちょうどいいんだ。
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