34 / 89
34
しおりを挟む
「まあ、貴女は多少の知性は備えていそうですね。で、この帳簿が正しいのか、そろそろはっきりさせませんか」
「そうだそうだ」公爵が身を乗り出した。「領収書といえば、この帳簿に載っている支払いには領収書があるはずじゃないか。鍵付きの引き出しには最近の数枚しか残ってなかったぞ。処分したのか。それとも最初からなかったのか」
「……あら、それも見つけられなかったんですか?」
「どうやらサラ夫人の協力が必要のようですね。どうですか、これから」レインは胸ポケットから懐中時計を引っ張り出すと、風防を指で撫でた。「今から全員で公爵邸に行ってみては。急げば16時には公爵邸につけますでしょう。サラ夫人に記録簿の在処を教えてもらいましょう。そうすれば、この件ははっきりします」
レインの提案を、一同は鼻息で了承した。堂々巡りにはみなが飽き飽きしていたのだ。
公爵陣営は唯一残っている公爵家の馬車で、サラ陣営とレインは貸し馬車で公爵邸に向かうことになった。
「ダメよ、車内は狭いんだから。ピーちゃんは追走してちょうだい。もう、そんなにガイと一緒がいいのかしら?」
大きな図体で狭い車内に乗り込もうとするダチョウとともに、サラはガイの背を押して、馬車から押し出した。
「え、俺も……?」
「ピーちゃんの乗り心地をお試しあれ」
「う……わああぁぁっ……!」
ガイを乗せたダチョウは猛スピードで駆けだした。二台の馬車を置き去りにして。
「止めてくれえええ、サラぁあああぁあ」
ガイの叫び声は高速で遠ざかっていった。
追いかけるようにして馬車も動き出した。郊外に向けて急ぐ。緩やかな丘を登り、並木道を疾走し、川にかかった橋に近づいた。
橋を渡れば公爵の領地に入る。遠目にも領地には幾筋も線を描いている農道が見える。農道の先には荘園がある。サラは荘園の麦の青葉が見えないかと目を凝らした。
「あら」
川のほとりにガイがいる。川から誰かを引き上げているようだ。
「おおい、手伝ってくれ。ピーちゃんが釣り人に激突した」
かわいそうな釣り人はびしょ濡れになっている。どこか見覚えのある顔だった。川で水浴びを始めたダチョウのせいで、ガイまで濡れそぼっていた。
「あなたは……三階の人じゃない?」
びしょ濡れの男はフラットの上階の住人だとサラは思い出した。
「ピーちゃんに蹴られましたの? 内臓破裂していませんこと?」
「ああ、いや、大丈夫です。お気遣いなく」
男はリカルドと名乗った。
「リカルドさんはいつもここで釣りをなさってるんですの?」
川べりには魚がたくさん入ったバケツが並んでいた。
「そうだそうだ」公爵が身を乗り出した。「領収書といえば、この帳簿に載っている支払いには領収書があるはずじゃないか。鍵付きの引き出しには最近の数枚しか残ってなかったぞ。処分したのか。それとも最初からなかったのか」
「……あら、それも見つけられなかったんですか?」
「どうやらサラ夫人の協力が必要のようですね。どうですか、これから」レインは胸ポケットから懐中時計を引っ張り出すと、風防を指で撫でた。「今から全員で公爵邸に行ってみては。急げば16時には公爵邸につけますでしょう。サラ夫人に記録簿の在処を教えてもらいましょう。そうすれば、この件ははっきりします」
レインの提案を、一同は鼻息で了承した。堂々巡りにはみなが飽き飽きしていたのだ。
公爵陣営は唯一残っている公爵家の馬車で、サラ陣営とレインは貸し馬車で公爵邸に向かうことになった。
「ダメよ、車内は狭いんだから。ピーちゃんは追走してちょうだい。もう、そんなにガイと一緒がいいのかしら?」
大きな図体で狭い車内に乗り込もうとするダチョウとともに、サラはガイの背を押して、馬車から押し出した。
「え、俺も……?」
「ピーちゃんの乗り心地をお試しあれ」
「う……わああぁぁっ……!」
ガイを乗せたダチョウは猛スピードで駆けだした。二台の馬車を置き去りにして。
「止めてくれえええ、サラぁあああぁあ」
ガイの叫び声は高速で遠ざかっていった。
追いかけるようにして馬車も動き出した。郊外に向けて急ぐ。緩やかな丘を登り、並木道を疾走し、川にかかった橋に近づいた。
橋を渡れば公爵の領地に入る。遠目にも領地には幾筋も線を描いている農道が見える。農道の先には荘園がある。サラは荘園の麦の青葉が見えないかと目を凝らした。
「あら」
川のほとりにガイがいる。川から誰かを引き上げているようだ。
「おおい、手伝ってくれ。ピーちゃんが釣り人に激突した」
かわいそうな釣り人はびしょ濡れになっている。どこか見覚えのある顔だった。川で水浴びを始めたダチョウのせいで、ガイまで濡れそぼっていた。
「あなたは……三階の人じゃない?」
びしょ濡れの男はフラットの上階の住人だとサラは思い出した。
「ピーちゃんに蹴られましたの? 内臓破裂していませんこと?」
「ああ、いや、大丈夫です。お気遣いなく」
男はリカルドと名乗った。
「リカルドさんはいつもここで釣りをなさってるんですの?」
川べりには魚がたくさん入ったバケツが並んでいた。
10
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ゴミ鑑定だと追放された元研究者、神眼と植物知識で異世界最高の商会を立ち上げます
黒崎隼人
ファンタジー
元植物学の研究者、相川慧(あいかわ けい)が転生して得たのは【素材鑑定】スキル。――しかし、その効果は素材の名前しか分からず「ゴミ鑑定」と蔑まれる日々。所属ギルド「紅蓮の牙」では、ギルドマスターの息子・ダリオに無能と罵られ、ついには濡れ衣を着せられて追放されてしまう。
だが、それは全ての始まりだった! 誰にも理解されなかったゴミスキルは、慧の知識と経験によって【神眼鑑定】へと進化! それは、素材に隠された真の効果や、奇跡の組み合わせ(レシピ)すら見抜く超チートスキルだったのだ!
捨てられていたガラクタ素材から伝説級ポーションを錬金し、瞬く間に大金持ちに! 慕ってくれる仲間と大商会を立ち上げ、追放された男が、今、圧倒的な知識と生産力で成り上がる! 一方、慧を追い出した元ギルドは、偽物の薬草のせいで自滅の道をたどり……?
無能と蔑まれた生産職の、痛快無比なざまぁ&成り上がりファンタジー、ここに開幕!
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる