3 / 146
♯3 フラグは立てない方がいい【エイトリウス編】
しおりを挟む
エルが出て行った後、私は深い溜め息をつき椅子にもたれかかった。
ほんとうに『あの悪魔』はやってくれる。
これで、机に鍵をかけて光魔法の障壁をつけた程度じゃ勝手に中身を拝借されると言うことがよくわかった。
あの頑丈に保管した『私しか知らない資料』を、『あの悪魔』が持っていたと言うことは、そう言うことだろう。
私が前世を思い出してから十数年。
ここまで、私は最悪な未来を変えるために必死に頑張ってきた。
いや、未来というより、私が前世で作った乙女ゲー『エターナルミラーハート』の最悪なシナリオを変えるために。
このゲーム、いや、このとんでもない鬼畜クソゲーはなかなかに酷いものだった。
なぜなら私が最強に病んでいた中二病のころ狂ったように三日三晩寝ずに書き上げた『色んな意味での超大作』が元になっているのだから。
まさかそんなクソゲーのなかに自分が死んで、いや殺されて、今時流行りの漫画みたいに転生するなんてゆめゆめおもわなかった。
転生と気づいた直後は自分がラスボスで消滅する未来しかない哀れな悪役令嬢だったことに絶望した。
そして私だけではない、メインキャラクターも不遇な状況に陥るフラグが山盛りなこのゲーム。
主人公、攻略対象含めて容赦無くバッタバッタと人が死ぬわ、魔族と人間で大戦争が起こってたくさん死人が出るわ、国が滅びるわ、極めつけにトゥルーエンドが胸糞悪い。
まあ、そのクソさがネタとなりありがたくもSNSでバズって売れるきっかけとなったのだが。
今になってこんなクソゲー作るんじゃなかったと後悔しても転生してしまったのは夢でもなんでもなく現実だったわけで。
だから私はそんなクソゲーな結末から前世の流行りの漫画ばりに未来を変えるべく決心して頑張ってきた。
主に私が消滅しない未来を切り開くために。
まあ、ついでに他の絶望要素もいくつか減らせればいいな程度には頑張った。
自分の命が第一だから二の次だけど。
私をいじめるはずだった『モブ婚約者』の彼を懐柔して。
私に辛く当たるはずだった父親を死の淵から蘇らせて味方につけて。
私のことを迫害するモブ弟をうまく懐かせ。
私をラスボスの身へと貶めるはずの悪魔を早々に自分の監視下に置いて。
魔法と武術を学びこの国、いやこの世界トップレベルの戦闘技術を身につけ。
金策に困っている領地を改革し。
私を最終的に殺すはずの攻略対象者たちともそれなりに仲良くやって。
ヒロインである妹とも円満に過ごしている。
そしてこの今奮闘している『婚約破棄と詐欺事件の秘密裏解決』も割と序盤に片付けておきたい大事な要素だった。
こうやって私は今まで最悪な未来から遠ざかるために必死で奮闘してきた。
その甲斐あってそこそこ順調だった。
多少は悪魔の邪魔が入ったけど。
それでもなんとか良い方向へ向かっている。
と思う。
だから油断したのだ。
今考えればゲームの中で非情で非道な設定にしたキーキャラの悪魔が大人しくしているはずなんてないのに。
コツコツ裏で、『詐欺を公にせずに解決して婚約破棄する』ための資料を集めてもう少しで達成できそうだったのに。
あの悪魔が全て台無しにしたのだ。
いや、でもまだわからない。
明日改めて彼とちゃんと話し合えばまだなんとかなるかもしれない。
私は大きく深呼吸して目を閉じた。
「サリー。ここ片付けて。」
誰もいない部屋に私は言い放つ。
サッと部屋の影から私の専属メイドであるサリーが顔を出す。
「かしこまりましたご主人様。」
楽しそうな顔で私にペコリと挨拶をする。
「本当にうちのメイドは優秀ですね。」
私は椅子に足を組んで座りながら、地面に落ちたカップを拾うメイドを睨みつける。
「お褒めに預かり光栄でございます。」
そう言ってサリーは満面の笑みでこちらを向く。
私はため息をつくと椅子から立ち上がりソファーにうつ伏せにダイブして寝転んだ。
「はしたないですよ?ご主人様?」
そう言ってサリーがこちらにやってくる。
「うるさいなぁ?誰も見てないんだからいいでしょ?誰かさんのせいでこっちは疲労困憊なんだから。」
私はサリーのお小言に顔を顰めてクッションに顔を埋めた。
「あら?そうなのですか?随分と余裕そうに対応しててつまらない…いえ、さすがご主人様と思っておりましたよ?」
サリーは口元に手を当ててわざとらしくおほほと笑った。
相変わらずこの『悪魔』はイイ性格をしていると思う。
「はぁ、ねえ、あんまり紅茶とかに変なもの混ぜんのやめたほうがいいんじゃない?足がついたら自分の立場も危うくなるんじゃないの?」
もうコイツに何を言ってもなんの意味もないとはわかっているけど。
なかなかに今回はうまくしてやられたので何か文句を言ってやりたい気分だった。
「あら?変なものなんて入れてませんわ?ちょっとエイトリウスさまはイライラしてたみたいなので『デトックス効果のある体にいい薬草』の入った特別なお茶を入れて差し上げただけですのよ?」
そう言ってサリーは目を細めながら首を傾げた。
はぁ、なるほどね?
利尿作用のつよい薬草かなんかを紅茶に入れたのか。
しかも足がつかないように下手な魔法も魔法薬も使わずに天然由来の健康そうなもので仕組んでくるとは。
さすが『悪魔』のくせして500年もの間、光の加護障壁が張り巡らされたうちの国を、身割れせずにうろちょろできただけはあるわ。
そして現在進行形でサリーの正体を知っているのは前世の記憶がある私だけ。
もう何を言っても無駄だと思い、今後どうするかを考えていると。
「でも、ご主人様があそこで、嘘でも婚約破棄しないって言わなかったのは正直驚きましたわ?あそこで話に乗っていたら簡単に『詐欺の件』は解決できたんじゃないですか?無理に婚約破棄する必要も今のところないですし?まあ、私に取ってはどっちに転んでも楽しそうなのでいいですけどね?」
サリーが床の皿を片付けながら楽しそうに私に話しかける。
正直私も迷った。
嘘をついてエルをつかって証拠を集めれば、おそらく一番イージーモードだっただろう。
ただ、私にとって問題なのがエルが本気で私のことを好いていると言うことだ。
私はどうしても人の本気の好意の捌き方が苦手意識があった。
なんならその類のせいで一度命を落としているし。
だから私としてはこんなつもりじゃなかったのだ。
確かに自分の『保身と目的』のために、幼少期、彼に擦り寄ったけども。
でもそれは妹が生まれた時に原作通りにもっとすんなり私から妹に鞍替えすると踏んでいたからで。
まさかエルがここまで自分に『愛情』を抱いてくれるなんて、考えていなかったのだ。
それに気づいて慌てて彼を冷たくあしらったり、嫌われるように振る舞ったり、婚約破棄したいって言い続けてみたりしたけど、もうすでに手遅れ状態になっていた。
そんな状態で嘘などついて彼の気持ちをまた利用なんてしたりしたら、私の性格上、余計に情が湧いて婚約破棄を切り出すのが辛くなり、そのままずるずるといってしまいそうだった。
でも、今の状況でそれはダメなのだ。
今は、そういった類に時間も気力も割いている場合ではないのだ。
私が生き残るために、なるべく余計なことは考えたくはなかった。
もし私が今後万が一何かあって、ゲームの筋書き通り封印された魔王を復活させて、この国を敵に回すことになったとき、なるべく私と周りを切り離しておかなくては、よけいな被害が出てしまうかもしれない。
そんな中で。
もし彼が私を庇ったりして死にそうになったら?
私はきっとそれを助けに行ってしまうだろう。
そしたら私の生存率もガクッと下がってしまう。
じゃあ逆にそれをスルーして自分の生存率を優先したら?
流石に自分の命第一に掲げている私でも胸糞悪すぎてその後の私の心が病みそうだ。
だから、全ては私のために。
先が読めない以上、私は私の心の平安のためにも、なるべく深い繋がりのものは切っておきたいのだ。
『情』などに振り回されてお互いに命を落とすなど、絶対にあってはならないのだ。
前世のように。
特に『恋愛』の類は簡単に人の判断を鈍らせる。
『割り切った体の関係』ならどうにでもなるが、『愛』は時に自分の命さえも捨てさせる。
そして他人の命も簡単に奪うのだ。
『愛』とはあらゆる合理的でない行動の根源であると、私はおもっている。
とはいえ・・・やっぱり・・・
今だけは、大きな目標のためには、非情になって嘘をついて人の心を弄んだとしても、なんでも使うべきだったのかもしれないと思ってしまう気持ちもある。
むしろそれが正解だったんだろうなと。
でも結局最終的な判断は、『彼を利用することで私が彼の情に流されるのが予想されてしんどいから』と言う、自分のその場の感情を優先させてしまったのだ。
今日ですら彼の泣きそうな俯いた顔を見て、私の心臓は罪悪感で抉られる思いだった。
こんなの、さらに利用して彼に期待させてから、『はい、お役御免』でポイっと捨てられるわけがない。
「私は結局、詰めが甘いんだよなぁ」
そう言ってサリーの方を見ると意味がわからないと言ったような訝しげな顔でこちらを伺っている。
「いつもそうですけど、ご主人様は人を責めることをしないのですね?彼の家がしたことを考えればご主人様が彼をいびり倒しても良いくらいですのに?自己陶酔でもして悲劇のヒロインを演じて楽しんでらっしゃるんですか?今日は最高の惨劇を観劇できるのを楽しみに準備しましたのに、あんなつまらない尻窄みになるなんて。それに私ももっと叱られると思ってたのしみにしてたんですけど?」
まったくこの悪魔はズケズケとわざと嫌な言い方をしてくる。
「それはだってそもそも、あなたが『何者か』をわかってそばに置いてるんだから、私の落ち度じゃん?あなたを責めたところで何か現実が変わるならもちろん責めまくるけどさ?別にあなたや彼を責めたところで何も解決しないし、あなたも『目的』のために動き続けるでしょ?そんなのただの体力と精神力の無駄じゃない?」
私の言葉にサリーはさらに訳がわからないと言った顔をした。
そりゃ悪魔には理解できないかもしれないけど。
こっちは一度言葉の通り命をかけて人生というものを学んでいる。
『情』の芽はなるべく早いうちに刈り取るのが何よりも最優先事項なのだ。
さもないと『情』を捌くのが苦手な私は『情』に殺されてしまうからだ。
他人にはたとえ理解されなくとも私には私の信念と信条とノウハウがあるのだ。
さらにいえば今世は前世よりもさらに人生ハードモード。
しっかり自分の頭で考えて信念をきめて自分を信じて生きていかないといつ自分が、そして自分のせいで世界が崩壊してもおかしくないのだ。そりゃ感情的にならないほうがいいに決まっている。
「人間にとって、ご主人様の無駄だと切り捨てるようなことが、大事だったりするときもあるんじゃないですかね?ご主人様は世界に自分1人しかいないおつもりなんですかね?まあ、その選択が誰かをよりいっそう傷つける結果にならないといいですねぇ?」
そう言ってサリーはニタァっと笑うとまた片付けに戻った。
確かにサリーの言う通りかもしれない。
悪魔に人間のなんたるかを説かれるのは非常に癪に触るが。
さっき怒りをぶつけてきたエルは、私が感情的になるのを望んでいた感じもする。
でもそんなの私には無理だ。
一時的な感情で壊れてしまったり悪化して取り返しのつかなくなったものを前世で知っている。
それはずっと、新しい人生を歩んでる今も心にしこりを残している。
だから今はそんなことで何かを取りこぼすまいと前世よりもなるべく冷静でなければならないと自分を律している。
とはいえ。
サリーの言う通り、確かに今日の私の対応は失策だったかもしれないなと、また思考がぐるぐると元の位置に戻る。
あの様子だとおそらく明日、エルはなりふり構わず私にぶつかってくるだろう。
最後まで粘っては見るが、もしかしたら『最悪の選択』をしてくるかもしれない。
いやでも、とはいえここは一応私の作った『全年齢向け』の世界だしなぁ。
たとえエルが非道なモブ設定とはいえ、流石にね…?
いや、これ、フラグじゃないよ?!
私の思考が変な空気になりそうだったので慌ててブンブンと頭を振り打ち消した。
ほんとうに『あの悪魔』はやってくれる。
これで、机に鍵をかけて光魔法の障壁をつけた程度じゃ勝手に中身を拝借されると言うことがよくわかった。
あの頑丈に保管した『私しか知らない資料』を、『あの悪魔』が持っていたと言うことは、そう言うことだろう。
私が前世を思い出してから十数年。
ここまで、私は最悪な未来を変えるために必死に頑張ってきた。
いや、未来というより、私が前世で作った乙女ゲー『エターナルミラーハート』の最悪なシナリオを変えるために。
このゲーム、いや、このとんでもない鬼畜クソゲーはなかなかに酷いものだった。
なぜなら私が最強に病んでいた中二病のころ狂ったように三日三晩寝ずに書き上げた『色んな意味での超大作』が元になっているのだから。
まさかそんなクソゲーのなかに自分が死んで、いや殺されて、今時流行りの漫画みたいに転生するなんてゆめゆめおもわなかった。
転生と気づいた直後は自分がラスボスで消滅する未来しかない哀れな悪役令嬢だったことに絶望した。
そして私だけではない、メインキャラクターも不遇な状況に陥るフラグが山盛りなこのゲーム。
主人公、攻略対象含めて容赦無くバッタバッタと人が死ぬわ、魔族と人間で大戦争が起こってたくさん死人が出るわ、国が滅びるわ、極めつけにトゥルーエンドが胸糞悪い。
まあ、そのクソさがネタとなりありがたくもSNSでバズって売れるきっかけとなったのだが。
今になってこんなクソゲー作るんじゃなかったと後悔しても転生してしまったのは夢でもなんでもなく現実だったわけで。
だから私はそんなクソゲーな結末から前世の流行りの漫画ばりに未来を変えるべく決心して頑張ってきた。
主に私が消滅しない未来を切り開くために。
まあ、ついでに他の絶望要素もいくつか減らせればいいな程度には頑張った。
自分の命が第一だから二の次だけど。
私をいじめるはずだった『モブ婚約者』の彼を懐柔して。
私に辛く当たるはずだった父親を死の淵から蘇らせて味方につけて。
私のことを迫害するモブ弟をうまく懐かせ。
私をラスボスの身へと貶めるはずの悪魔を早々に自分の監視下に置いて。
魔法と武術を学びこの国、いやこの世界トップレベルの戦闘技術を身につけ。
金策に困っている領地を改革し。
私を最終的に殺すはずの攻略対象者たちともそれなりに仲良くやって。
ヒロインである妹とも円満に過ごしている。
そしてこの今奮闘している『婚約破棄と詐欺事件の秘密裏解決』も割と序盤に片付けておきたい大事な要素だった。
こうやって私は今まで最悪な未来から遠ざかるために必死で奮闘してきた。
その甲斐あってそこそこ順調だった。
多少は悪魔の邪魔が入ったけど。
それでもなんとか良い方向へ向かっている。
と思う。
だから油断したのだ。
今考えればゲームの中で非情で非道な設定にしたキーキャラの悪魔が大人しくしているはずなんてないのに。
コツコツ裏で、『詐欺を公にせずに解決して婚約破棄する』ための資料を集めてもう少しで達成できそうだったのに。
あの悪魔が全て台無しにしたのだ。
いや、でもまだわからない。
明日改めて彼とちゃんと話し合えばまだなんとかなるかもしれない。
私は大きく深呼吸して目を閉じた。
「サリー。ここ片付けて。」
誰もいない部屋に私は言い放つ。
サッと部屋の影から私の専属メイドであるサリーが顔を出す。
「かしこまりましたご主人様。」
楽しそうな顔で私にペコリと挨拶をする。
「本当にうちのメイドは優秀ですね。」
私は椅子に足を組んで座りながら、地面に落ちたカップを拾うメイドを睨みつける。
「お褒めに預かり光栄でございます。」
そう言ってサリーは満面の笑みでこちらを向く。
私はため息をつくと椅子から立ち上がりソファーにうつ伏せにダイブして寝転んだ。
「はしたないですよ?ご主人様?」
そう言ってサリーがこちらにやってくる。
「うるさいなぁ?誰も見てないんだからいいでしょ?誰かさんのせいでこっちは疲労困憊なんだから。」
私はサリーのお小言に顔を顰めてクッションに顔を埋めた。
「あら?そうなのですか?随分と余裕そうに対応しててつまらない…いえ、さすがご主人様と思っておりましたよ?」
サリーは口元に手を当ててわざとらしくおほほと笑った。
相変わらずこの『悪魔』はイイ性格をしていると思う。
「はぁ、ねえ、あんまり紅茶とかに変なもの混ぜんのやめたほうがいいんじゃない?足がついたら自分の立場も危うくなるんじゃないの?」
もうコイツに何を言ってもなんの意味もないとはわかっているけど。
なかなかに今回はうまくしてやられたので何か文句を言ってやりたい気分だった。
「あら?変なものなんて入れてませんわ?ちょっとエイトリウスさまはイライラしてたみたいなので『デトックス効果のある体にいい薬草』の入った特別なお茶を入れて差し上げただけですのよ?」
そう言ってサリーは目を細めながら首を傾げた。
はぁ、なるほどね?
利尿作用のつよい薬草かなんかを紅茶に入れたのか。
しかも足がつかないように下手な魔法も魔法薬も使わずに天然由来の健康そうなもので仕組んでくるとは。
さすが『悪魔』のくせして500年もの間、光の加護障壁が張り巡らされたうちの国を、身割れせずにうろちょろできただけはあるわ。
そして現在進行形でサリーの正体を知っているのは前世の記憶がある私だけ。
もう何を言っても無駄だと思い、今後どうするかを考えていると。
「でも、ご主人様があそこで、嘘でも婚約破棄しないって言わなかったのは正直驚きましたわ?あそこで話に乗っていたら簡単に『詐欺の件』は解決できたんじゃないですか?無理に婚約破棄する必要も今のところないですし?まあ、私に取ってはどっちに転んでも楽しそうなのでいいですけどね?」
サリーが床の皿を片付けながら楽しそうに私に話しかける。
正直私も迷った。
嘘をついてエルをつかって証拠を集めれば、おそらく一番イージーモードだっただろう。
ただ、私にとって問題なのがエルが本気で私のことを好いていると言うことだ。
私はどうしても人の本気の好意の捌き方が苦手意識があった。
なんならその類のせいで一度命を落としているし。
だから私としてはこんなつもりじゃなかったのだ。
確かに自分の『保身と目的』のために、幼少期、彼に擦り寄ったけども。
でもそれは妹が生まれた時に原作通りにもっとすんなり私から妹に鞍替えすると踏んでいたからで。
まさかエルがここまで自分に『愛情』を抱いてくれるなんて、考えていなかったのだ。
それに気づいて慌てて彼を冷たくあしらったり、嫌われるように振る舞ったり、婚約破棄したいって言い続けてみたりしたけど、もうすでに手遅れ状態になっていた。
そんな状態で嘘などついて彼の気持ちをまた利用なんてしたりしたら、私の性格上、余計に情が湧いて婚約破棄を切り出すのが辛くなり、そのままずるずるといってしまいそうだった。
でも、今の状況でそれはダメなのだ。
今は、そういった類に時間も気力も割いている場合ではないのだ。
私が生き残るために、なるべく余計なことは考えたくはなかった。
もし私が今後万が一何かあって、ゲームの筋書き通り封印された魔王を復活させて、この国を敵に回すことになったとき、なるべく私と周りを切り離しておかなくては、よけいな被害が出てしまうかもしれない。
そんな中で。
もし彼が私を庇ったりして死にそうになったら?
私はきっとそれを助けに行ってしまうだろう。
そしたら私の生存率もガクッと下がってしまう。
じゃあ逆にそれをスルーして自分の生存率を優先したら?
流石に自分の命第一に掲げている私でも胸糞悪すぎてその後の私の心が病みそうだ。
だから、全ては私のために。
先が読めない以上、私は私の心の平安のためにも、なるべく深い繋がりのものは切っておきたいのだ。
『情』などに振り回されてお互いに命を落とすなど、絶対にあってはならないのだ。
前世のように。
特に『恋愛』の類は簡単に人の判断を鈍らせる。
『割り切った体の関係』ならどうにでもなるが、『愛』は時に自分の命さえも捨てさせる。
そして他人の命も簡単に奪うのだ。
『愛』とはあらゆる合理的でない行動の根源であると、私はおもっている。
とはいえ・・・やっぱり・・・
今だけは、大きな目標のためには、非情になって嘘をついて人の心を弄んだとしても、なんでも使うべきだったのかもしれないと思ってしまう気持ちもある。
むしろそれが正解だったんだろうなと。
でも結局最終的な判断は、『彼を利用することで私が彼の情に流されるのが予想されてしんどいから』と言う、自分のその場の感情を優先させてしまったのだ。
今日ですら彼の泣きそうな俯いた顔を見て、私の心臓は罪悪感で抉られる思いだった。
こんなの、さらに利用して彼に期待させてから、『はい、お役御免』でポイっと捨てられるわけがない。
「私は結局、詰めが甘いんだよなぁ」
そう言ってサリーの方を見ると意味がわからないと言ったような訝しげな顔でこちらを伺っている。
「いつもそうですけど、ご主人様は人を責めることをしないのですね?彼の家がしたことを考えればご主人様が彼をいびり倒しても良いくらいですのに?自己陶酔でもして悲劇のヒロインを演じて楽しんでらっしゃるんですか?今日は最高の惨劇を観劇できるのを楽しみに準備しましたのに、あんなつまらない尻窄みになるなんて。それに私ももっと叱られると思ってたのしみにしてたんですけど?」
まったくこの悪魔はズケズケとわざと嫌な言い方をしてくる。
「それはだってそもそも、あなたが『何者か』をわかってそばに置いてるんだから、私の落ち度じゃん?あなたを責めたところで何か現実が変わるならもちろん責めまくるけどさ?別にあなたや彼を責めたところで何も解決しないし、あなたも『目的』のために動き続けるでしょ?そんなのただの体力と精神力の無駄じゃない?」
私の言葉にサリーはさらに訳がわからないと言った顔をした。
そりゃ悪魔には理解できないかもしれないけど。
こっちは一度言葉の通り命をかけて人生というものを学んでいる。
『情』の芽はなるべく早いうちに刈り取るのが何よりも最優先事項なのだ。
さもないと『情』を捌くのが苦手な私は『情』に殺されてしまうからだ。
他人にはたとえ理解されなくとも私には私の信念と信条とノウハウがあるのだ。
さらにいえば今世は前世よりもさらに人生ハードモード。
しっかり自分の頭で考えて信念をきめて自分を信じて生きていかないといつ自分が、そして自分のせいで世界が崩壊してもおかしくないのだ。そりゃ感情的にならないほうがいいに決まっている。
「人間にとって、ご主人様の無駄だと切り捨てるようなことが、大事だったりするときもあるんじゃないですかね?ご主人様は世界に自分1人しかいないおつもりなんですかね?まあ、その選択が誰かをよりいっそう傷つける結果にならないといいですねぇ?」
そう言ってサリーはニタァっと笑うとまた片付けに戻った。
確かにサリーの言う通りかもしれない。
悪魔に人間のなんたるかを説かれるのは非常に癪に触るが。
さっき怒りをぶつけてきたエルは、私が感情的になるのを望んでいた感じもする。
でもそんなの私には無理だ。
一時的な感情で壊れてしまったり悪化して取り返しのつかなくなったものを前世で知っている。
それはずっと、新しい人生を歩んでる今も心にしこりを残している。
だから今はそんなことで何かを取りこぼすまいと前世よりもなるべく冷静でなければならないと自分を律している。
とはいえ。
サリーの言う通り、確かに今日の私の対応は失策だったかもしれないなと、また思考がぐるぐると元の位置に戻る。
あの様子だとおそらく明日、エルはなりふり構わず私にぶつかってくるだろう。
最後まで粘っては見るが、もしかしたら『最悪の選択』をしてくるかもしれない。
いやでも、とはいえここは一応私の作った『全年齢向け』の世界だしなぁ。
たとえエルが非道なモブ設定とはいえ、流石にね…?
いや、これ、フラグじゃないよ?!
私の思考が変な空気になりそうだったので慌ててブンブンと頭を振り打ち消した。
0
あなたにおすすめの小説
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる