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霜月
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結局アイスは買わずに部屋に戻り、風呂に入ってベッドに横になったらいつの間にか眠っていて、修学旅行一日目は終わった。
修学旅行二日目の今日は、テーマパークで一日を過ごすことになっている。
「俺ら勝手に回るから、お前らも好きに回れよ」
じゃあなと手を上げた佐久間が、俺と目を合わさないようにする為か、終始俯いていた柚木の腕を掴んで立ち去っていく。
「班を作った意味ってあるのか?」
「点呼の時に便利だからじゃない?」
テーマパークの入口を入った一角に集められた俺達は、学年主任から集合時間と諸注意を告げられ解散となった。
班なんていうのは形だけのもののようで、周りを見てもクラスなど関係なく、仲の良い奴らでつるんで園内に散っていっている。
「宇佐美くん初めてなんだよね? 何か見たいのある?」
園内をぐるっと見渡す海老原につられて俺も見渡してみるが、何が面白いヤツなのか分からない。
「よく分からないから、海老原のお勧めのとこでいい」
時間も限られているし、何度かここに訪れたことのある海老原に主導権を渡す。
「アンタ、行きたいところはあるか?」
一応一緒に回るわけだし意見くらいは聞いておいてやろうと思い、パンフレットを広げて隣に立つ男に見せながら聞く。
「拓也とイけるなら何処でも構いませんが、カニなんとかの前でイくのは許しませんからね」
肩口からパンフレットを覗き込んできた男が、艶っぽい声で囁いてくる。
「そ、そっちのイくじゃねーよ!」
ふしらだな行為に不釣り合いな場所でそんなことを言うとは思ってもみなかったので、動揺してしまって思いの外大きな声が出てしまった。
横を通る女子に何事かと振り向かれてしまい、羞恥に染まっていく顔をパンフレットで隠す。
「ボク邪魔だったら、他の子達と回ろうか?」
「いや、邪魔じゃないし。寧ろこの変態が暴走しないように、一緒にいて欲しい」
「暴走って、いつもどんなことされてるの?」
「な、何もされてない! 俺は一人で回るから、お前ら二人で回れ」
パンフレットで顔を隠したまま、足の向いていた方向に歩きはじめる。
行く先に何があるかは分からないが、辿り着いたアトラクションに一人で乗って楽しんでやる。
「宇佐美くん、そっち入口だよ」
後方から、笑いを圧し殺したような声がする。
パンフレットを目の下まで下げて確認すると、さっき入ってきたゲートが目前に迫っていた。
「ごめんね。宇佐美くんがあまりに可愛いから虐めちゃった」
ガクッと項垂れて佇んでいると、近付いてきた海老原が悪びれた様子もなく楽しそうに言ってきた。
「拓也を虐めていいのは僕だけです。拓也、カニなんとかにちゃんと言っておいてください」
海老原の発言を聞いた男が、ギャーギャー騒ぎ立てている。
「俺には虐められて喜ぶ趣味なんてない! 倍返しにするから覚えておけよ!」
パンフレットをグシャリと握って、二人を睨み付ける。
「どんな風に虐めてくれるか楽しみにしてるね」
「拓也に虐められていいのは僕だけです」
威嚇が全く効かない二人を見て、何もかもが面倒臭くなって大きな溜め息をつく。
「もう何でもいいから、早くお勧めのとこに連れてけよ」
「アハハ、そうだね」
くるりと方向転換をした海老原に続き、園内を進んでいく。
「どう、楽しかった?」
四人掛けのテーブルに向かい合って座る海老原が、小さな口に入れたオムライスを飲み込み聞いてくる。
海老原のお勧めのアトラクションを三つ回り、ちょうど昼時になったので、これまた海老原お勧めのレストランで食事をしているのだ。
「まぁまぁだな」
どのアトラクションも楽しくて、ガキみたいに興奮してしまった。
だが、朝の二人の言動で損ねた機嫌を直すタイミングが見つからず、終始仏頂面を保っていたので、本当は楽しくて笑いたくても笑えないでいた。
今だって旨いオムライスに口許が弛みそうになるのを必死で耐えながら、黙々と口に運び続けている。
「拓也」
ベンチシートの左隣に座っている男が、声を掛けてくる。
「なんだ?」
「僕も一口欲しいです」
「ほら」
俺達の座った席は店の一番奥で、俺は壁際を向いて座っているので背後の席の様子は見えない。
ちょっとスプーンを横にずらしたくらい変じゃないだろうと思い、男にオムライスを食わせてやる。
「美味しいです。ありがとうございました」
にかぁと花が咲いたように笑う男を見て、意識し忘れていた頬が弛んでしまった。
慌てて表情を無くし、誤魔化すようにオムライスを口に運ぶ。
「あー、なんかもぅ……」
突然口許を手で覆い、項垂れる海老原。
「どうした?」
「んー、ごめんね。食べたいって思っちゃった」
「同じもん食ってるだろ」
海老原が旨いと言ったオムライスを俺も注文したのだ。
同じものでも、人が食べているものの方が旨く見えるのだろうか?
「拓也、今夜は眠ってはいけませんよ」
俺の腰に腕を回して、抱き締めてくる男。
「なんでだよ。歩き回って疲れてるんだ、寝かせろ」
不意に密着されてトクンと跳ねてしまった心臓が騒ぎだそうとするのを、平静を保てと言い聞かせて、男にも海老原にも動揺しているのが伝わらないように素っ気なく返す。
「幽霊さん、ごめんね。絶対食べないから安心して」
掌を合わせて、男に頭を下げる海老原。
振り向いたらキスしてしまうくらい近くに男の顔があるのだろうから見られないが、たぶん男は海老原に睨みをきかせているんだろう。
何故、海老原から俺を護るような素振りを見せるのか分からないが、護られて悪い気がしない自分がいて更に動揺してしまい、午後の計画を立てる振りをしてパンフレットを広げ、仏頂面を保てなくなってしまった顔を隠した。
午後も海老原のお勧めのアトラクションを回り、仏頂面の仮面の下で存分に楽しみ、大満足の一日を終えた。
海老原は勿論、男も楽しんでいたようで、時折無垢な少年のような笑みを浮かべていた。
修学旅行二日目の今日は、テーマパークで一日を過ごすことになっている。
「俺ら勝手に回るから、お前らも好きに回れよ」
じゃあなと手を上げた佐久間が、俺と目を合わさないようにする為か、終始俯いていた柚木の腕を掴んで立ち去っていく。
「班を作った意味ってあるのか?」
「点呼の時に便利だからじゃない?」
テーマパークの入口を入った一角に集められた俺達は、学年主任から集合時間と諸注意を告げられ解散となった。
班なんていうのは形だけのもののようで、周りを見てもクラスなど関係なく、仲の良い奴らでつるんで園内に散っていっている。
「宇佐美くん初めてなんだよね? 何か見たいのある?」
園内をぐるっと見渡す海老原につられて俺も見渡してみるが、何が面白いヤツなのか分からない。
「よく分からないから、海老原のお勧めのとこでいい」
時間も限られているし、何度かここに訪れたことのある海老原に主導権を渡す。
「アンタ、行きたいところはあるか?」
一応一緒に回るわけだし意見くらいは聞いておいてやろうと思い、パンフレットを広げて隣に立つ男に見せながら聞く。
「拓也とイけるなら何処でも構いませんが、カニなんとかの前でイくのは許しませんからね」
肩口からパンフレットを覗き込んできた男が、艶っぽい声で囁いてくる。
「そ、そっちのイくじゃねーよ!」
ふしらだな行為に不釣り合いな場所でそんなことを言うとは思ってもみなかったので、動揺してしまって思いの外大きな声が出てしまった。
横を通る女子に何事かと振り向かれてしまい、羞恥に染まっていく顔をパンフレットで隠す。
「ボク邪魔だったら、他の子達と回ろうか?」
「いや、邪魔じゃないし。寧ろこの変態が暴走しないように、一緒にいて欲しい」
「暴走って、いつもどんなことされてるの?」
「な、何もされてない! 俺は一人で回るから、お前ら二人で回れ」
パンフレットで顔を隠したまま、足の向いていた方向に歩きはじめる。
行く先に何があるかは分からないが、辿り着いたアトラクションに一人で乗って楽しんでやる。
「宇佐美くん、そっち入口だよ」
後方から、笑いを圧し殺したような声がする。
パンフレットを目の下まで下げて確認すると、さっき入ってきたゲートが目前に迫っていた。
「ごめんね。宇佐美くんがあまりに可愛いから虐めちゃった」
ガクッと項垂れて佇んでいると、近付いてきた海老原が悪びれた様子もなく楽しそうに言ってきた。
「拓也を虐めていいのは僕だけです。拓也、カニなんとかにちゃんと言っておいてください」
海老原の発言を聞いた男が、ギャーギャー騒ぎ立てている。
「俺には虐められて喜ぶ趣味なんてない! 倍返しにするから覚えておけよ!」
パンフレットをグシャリと握って、二人を睨み付ける。
「どんな風に虐めてくれるか楽しみにしてるね」
「拓也に虐められていいのは僕だけです」
威嚇が全く効かない二人を見て、何もかもが面倒臭くなって大きな溜め息をつく。
「もう何でもいいから、早くお勧めのとこに連れてけよ」
「アハハ、そうだね」
くるりと方向転換をした海老原に続き、園内を進んでいく。
「どう、楽しかった?」
四人掛けのテーブルに向かい合って座る海老原が、小さな口に入れたオムライスを飲み込み聞いてくる。
海老原のお勧めのアトラクションを三つ回り、ちょうど昼時になったので、これまた海老原お勧めのレストランで食事をしているのだ。
「まぁまぁだな」
どのアトラクションも楽しくて、ガキみたいに興奮してしまった。
だが、朝の二人の言動で損ねた機嫌を直すタイミングが見つからず、終始仏頂面を保っていたので、本当は楽しくて笑いたくても笑えないでいた。
今だって旨いオムライスに口許が弛みそうになるのを必死で耐えながら、黙々と口に運び続けている。
「拓也」
ベンチシートの左隣に座っている男が、声を掛けてくる。
「なんだ?」
「僕も一口欲しいです」
「ほら」
俺達の座った席は店の一番奥で、俺は壁際を向いて座っているので背後の席の様子は見えない。
ちょっとスプーンを横にずらしたくらい変じゃないだろうと思い、男にオムライスを食わせてやる。
「美味しいです。ありがとうございました」
にかぁと花が咲いたように笑う男を見て、意識し忘れていた頬が弛んでしまった。
慌てて表情を無くし、誤魔化すようにオムライスを口に運ぶ。
「あー、なんかもぅ……」
突然口許を手で覆い、項垂れる海老原。
「どうした?」
「んー、ごめんね。食べたいって思っちゃった」
「同じもん食ってるだろ」
海老原が旨いと言ったオムライスを俺も注文したのだ。
同じものでも、人が食べているものの方が旨く見えるのだろうか?
「拓也、今夜は眠ってはいけませんよ」
俺の腰に腕を回して、抱き締めてくる男。
「なんでだよ。歩き回って疲れてるんだ、寝かせろ」
不意に密着されてトクンと跳ねてしまった心臓が騒ぎだそうとするのを、平静を保てと言い聞かせて、男にも海老原にも動揺しているのが伝わらないように素っ気なく返す。
「幽霊さん、ごめんね。絶対食べないから安心して」
掌を合わせて、男に頭を下げる海老原。
振り向いたらキスしてしまうくらい近くに男の顔があるのだろうから見られないが、たぶん男は海老原に睨みをきかせているんだろう。
何故、海老原から俺を護るような素振りを見せるのか分からないが、護られて悪い気がしない自分がいて更に動揺してしまい、午後の計画を立てる振りをしてパンフレットを広げ、仏頂面を保てなくなってしまった顔を隠した。
午後も海老原のお勧めのアトラクションを回り、仏頂面の仮面の下で存分に楽しみ、大満足の一日を終えた。
海老原は勿論、男も楽しんでいたようで、時折無垢な少年のような笑みを浮かべていた。
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