先生、教えて。

オトバタケ

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 これも書けるあれも書ける、と直人が得意気にノートに綴る漢字を眺め、好きだと教えてくれた絵本を読んでやっていると、いつの間にか窓の外が緋色に染まっていた。

「そろそろ夕飯を作んなきゃいけない時間だな。ナオくん、先生のお手伝いをしてくれるか?」
「うん、するっ!」

 勢いよく立ち上がって部屋を出ていこうとする直人を止め、机の上の片付けをするように言う。
 しかし、やり方が分からないのか困ったように眉を下げた。

「先生も手伝うから一緒にやろう」
「はいっ!」
「ノートは閉じてここに置いて、鉛筆はここに入れて」

 俺の指示通り、片付けをしていく直人。

「先生、ぼく、お片付けできたよ」
「上手に出来たな。先生も手伝うから少しずつ出来ることを増やしていこうな」
「なんでもできるようになったら、お母さまとけっこんできる?」
「んー、結婚は出来ないけどお母様は喜ぶはずだぞ」
「ほんとぉ? じゃあ、ぼく、がんばるね」

 三歳児が大好きな母親を喜ばせたいと思うのも、結婚したいと思うのも当然のことじゃないか。
 俺でさえ抱いていた感情なのに胸の奥がジクジク痛むのは、片付けをさせたことのない過保護すぎる母親に苛立っているせいだろうか?

 キッチンに入ると、夫人が冷蔵庫の中を覗いていた。

「夕飯は俺が作ります」
「ぼくもお手伝いするよ」

 俺に続いて宣言する直人に、振り返った夫人の目尻が下がっていく。

「今日はハンバーグを作ろうと思っていたの。先生、お願いしてもいい?」
「ハンバーグですね。分かりました」

 冷蔵庫から必要な食材を取り出して作業台に置くと、キラキラと瞳を輝かせて指示を待っている直人と目があった。

「じゃあナオくんは、レタスをこういう風に千切ってザルに入れてくれ」

 サラダ用にレタスを三枚ほど剥き、一口大に千切ってザルに入れる。
 レタスを直人に渡すと、真剣な眼差しで千切り始めた。
 その様子を夫人が見守っているのを確認し、俺は玉葱を微塵切りにしていく。

「先生、できたよ」

 粗方野菜を切り終えると、ザルを大事そうに抱えた直人が近付いてきた。

「上手に出来たな。次は肉を捏ねて貰おうかな」
「うん。がんばるっ!」

 ボールに入れた挽き肉を捏ねてみせてやると、粘土遊びのようだとでも思ったのか、直人の口角がニヤリとあがった。

「遊びじゃないからな。みんなが食べるものだから大事に捏ねるんだぞ」
「うん、あそばない。ちゃんとやる」

 俺の手付きを真似て、懸命に挽き肉を捏ねていく直人。

 三十分後、ハンバーグとサラダ、野菜スープとご飯の夕飯がダイニングテーブルに並んだ。

「いただきます」

 ちゃんと手を合わせて夕飯を食べ始めた直人は、意外にも箸使いが綺麗だった。
 だが、口に上手く入れられずに口の周りをデミグラスソースでベトベトにしている。
 幸せそうにモグモグしている顔に微笑ましさを覚えながら、また口の端にソースを付けて直人に指で拭き取られないように気を付けて、俺もハンバーグを食べる。

「先生、ハンバーグすごくおいしいよ」
「ナオくんが一生懸命捏ねてくれたからだな」

 直人のお陰なのか、いい肉を使っていたせいなのか分からないが、今まで作った中で一番美味いハンバーグだった。
 俺と直人は勿論、体の細い夫人まで完食して夕飯は終わった。

「先生、ナオくん、ありがとう。とっても美味しかったわ」

 夫人の言葉と空になった皿を見て満足げに微笑んだ直人が、ティータイムの時と同様に食洗機に器用に食器を入れると、後は任せてという夫人を残してリビングに向かった。

「先生、いいもの見せてあげるね」

 リビングに入ると壁際に置かれたキャビネットに向かった直人は、引き出しを開けてガサゴソとやり、何かを抱えてソファーにやって来た。

「先生、こっちにきて」

 ティータイムの時に座った一人掛けのソファーで待っていると、直人が昼寝をしていた長いソファーの方に手招きし、隣に座るように言ってきた。
 移動して腰掛けると、大事そうに抱えていたものをテーブルに置いた直人。

「アルバム?」

 直人が抱えていたのは、年季のはいった古いアルバムだった。
 直人の長い指が厚い表紙を捲ると、今より少し若く見えるウエディングドレス姿の夫人と、五十くらいのタキシード姿の男性が写っていた。

「お母さまとお父さまのけっこんしきの写真なんだよ」

 直人の父親である国重氏は、四年前に亡くなっていると依頼書に記されていたのを思い出す。

「お父さまは、博士なんだよ。今は遠いところでお仕事をしてるから、帰ってくるまでぼくがお母さまを守るの」

 ぎゅっと拳を握って宣言する直人は、父親が亡くなったことを理解していないのだ。

「ナオくんなら、お母様を守ってあげられるよ」

 純粋すぎる直人を抱き締めてやりたい衝動に刈られたが、そうしてしまったら、父親の不在が永遠の不在なのだを伝えてしまうことになりそうで、グッと我慢してそう告げた。
 俺の言葉を聞いた直人は、嬉しそうに笑った。

 暫く一緒に国重夫婦の結婚式のアルバムを眺めていると、直人が股間を押さえてモジモジしだした。

「先生、おしっこしたい」
「え、あぁ。トイレはどこだ?」
「リビングのとなり」

 依頼書には排泄補助が必要だと書いてあったが、どこまで補助をしたらいいのかが分からない。
 夫人に確認したいが、直人の状態を見ると確認をしにいく余裕はなさそうだ。
 直人の腕を掴み、トイレに向かう。

「自分で脱げるか?」
「先生、もれちゃう」

 首を左右にブンブンと振る直人が、切羽詰まった声をあげる。

「分かった、今脱がせてやるな」

 膝立ちになり、手早くズボンのボタンを外してチャックを下げ、下着共々下げる。
 すると、雄々しい男の象徴が現れた。
 性的興奮はしない筈なのに、しっかり大人の成りをして使い込んだ色をしているソレに目を奪われていると、ブルッと体を震わせた直人は我慢していたものを溢れさせてしまった。
 アンモニア臭のする生温い黄色の液体が、ソレの目の前にある俺の顔に注がれていく。

「先生、ごめんなさい」
「先生が脱がすのが遅かったせいだ。今度は上手に出来るように頑張ろうな」

 項垂れている直人を宥め、突いてグチャグチャに掻き回して欲しくなるような立派な男の象徴から目を逸らす。
 直人は体が大きいのだから、ブツが大きくても不思議じゃないだろ。無垢な天使の子のモノを、性の道具のような目で見るんじゃない。施設の子達が粗相をしてしまっても、平常心で片付けをしていたじゃないか。
 尿を掛けられたのを艶事のように感じて興奮してしまった脳に喝を入れ、落ち着かせる為に深呼吸をする。

「まぁ、先生、どうなさったの?」

 俺が必死に直人のブツを脳内から追いやっていると、異変に気付いた夫人がやって来た。

「俺が服を脱がすのに手間取ったせいです。ナオくんはちゃんと教えてくれたのに、すいません」
「いいのよ。先生もナオくんも今タオルを持ってくるから、ちょっと待っててね」

 謝る俺と項垂れている直人に、大したことないと言うように明るく告げた夫人がタオルを取りに行ってくれる。
 幸い直人には尿は掛かっておらず、俺の服が殆どを吸いとったので床も少し濡れただけだった。
 戻ってきた夫人から受け取ったタオルで手を拭いて、直人にズボンを穿かせてやる。
 そして、夫人と待っていてもらうように告げ、シャワーを浴びさせて貰うことにする。
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