先生、教えて。

オトバタケ

文字の大きさ
20 / 66

12

しおりを挟む
「お母さま、お月さま見てきての」
「あらそう、綺麗だった?」
「うんっ!」

 扉の開く音に気付いたのか玄関にやってきた夫人に、直人は楽しそうに報告している。
 母親が現れれば、俺なんか目に入っていないかのようにくっつきにいくじゃないか。
 直人は最初は母親と結婚したがっていたが、無理だと分かって俺とすると言い出したんだ。
 赤ん坊の頃に親からされたキスや、幼稚園児同士の大人の真似っこのキスは、キスの数には入れないだろ。
 直人のしたキスは、それと同じものなんだ。
 そうだと分かっているし、そうでなければならないと思っているのに、心臓が握り潰されたように痛いのは何故だ?

「すいません奥様、先に自分の入浴を済ませたいのでナオくんと待っていてもらってもいいですか?」
「えぇ構わないわよ。ゆっくり汗を流してきてね」

 国重親子と同じ空間にいるのが苦しくて、ここから逃げだしたくて入浴したいと夫人に告げる。
 少し固くなってしまった声を不信がることなく、了承してくれた夫人。
 軽く会釈して一気に階段を昇り、二階の直人の寝室に向かう。

 寝室に入って鞄から寝間着を取り出し、ぐちゃぐちゃの心を落ち着かせるために熱めのシャワーを浴びる。
 無心になれ、と命じるのに、脳内では直人の顔がスローモーションで近付いてくる映像がエンドレスで繰り返されている。
 何故か味わったことがあると感じる、甘くて切なくて涙が出るくらい幸せな感触を思い出したくて、そっと唇に指を這わせてみる。
 触れているのは自分の指なのに、口付けをされているような錯覚に陥り、心臓がドクンと大きく跳ねて、甘く痺れている下腹部に血液を送っていく。

 この後は直人の入浴補助をしないといけない。寝る前には排泄補助も必要だろう。
 直人の裸体を前に暴れだそうとする穢れた血と戦うことは、目に見えている。
 少しでも体が先生としての俺の言うことを聞くように、今のうちに熱を散らしておこう。

 唇に這わせている指に、深い口付けでも交わしているかのように舌を絡める。
 その指を、ご馳走を目の前にした時のように止めどなく唾液が溢れている口内に挿れる。
 官能を刺激するように口内を掻き回して、しとどに濡れたそれを、早く咥えるモノが欲しいと啼いている後ろに収めていく。
 満足そうに締め付けてくる後ろを掻き混ぜながら、こっちにも構えと涎を垂らしている前を扱いていく。
 直人との口付けを思い出して反応してしまった体を、直人の無垢な魂を護るために必要な行為なのだと言い訳をしながら鎮めていった。

 快楽の余韻に浸らないように、出したものを直ぐに洗い流して体を清めていく。
 この後この浴室を使う直人に穢れが移らないように、丹念に風呂掃除をして一階に戻る。

「お待たせしました」
「ゆっくり温まれた?」
「はい。次はナオくんの番な」
「うん。ぼく、一人で全部やる」
「あぁ、頑張ろうな」

 直人のやる気がみなぎる顔を見て、頑張るのは俺と結婚するため、結婚してキスをしたいから、という方程式が浮かんできてしまい慌てて打ち消す。
 朝よりも着替えの上手くなった直人を、その逞しい大人の男の体を欲して騒ぐ穢れた血を無視し、先生として指導して褒めていく。
 熱を散らせたことなど覚えていないように再び熱を持つ体は他人の物だ、と脳に思わせるように訴え続け、直人の入浴補助を済ませていく。
 脳は行っていることをテレビの向こうの世界のように客観的に見ていて、体だけは現実と捉えている、そんなアンバランスな状態で直人のお世話を進めていった。

「先生、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」

 今日もベッドに入ると、先に横たわっていた直人が俺を腕の中に引き寄せてきた。
 ドクンドクンと体を振動させるくらいの心臓の動きを他人事のように感じながら直人の温もりに包まれていると、直人と二階に上がってから無理矢理引き離した心と体の疲れが限界に達したのか、意識を失うように眠りに落ちていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...